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小説:バンビィガール<2-1>壮絶なコンテストバトル #note創作大賞2024


 まだまだ冷え込んだ日が続く3月のはじめの日曜日。
 近鉄奈良駅の近くにあるお気に入りのカフェにて。

「最終選考に残ったぁ!?」

 目の前にいる高校時代からの親友、ミクこと坊城美玖ぼうじょうみくがカフェ中に響き渡る大声で叫んだ。若干カフェにいる人たちがチラチラとこちらを見ていることに気づく。

「ミク、しーっ!」
 慌てて私が唇の前で右手の人差し指を立てると、ミクは気持ちを落ち着かせたかったのか、グラスに入った氷水を勢いよく一気飲みし、タン! と軽く音を立ててテーブルに置いた。そして小声で「本当に?」と尋ねてきた。
「うん、あ、でも公式発表はまだやから、ご内密に!」
 最終選考のお知らせメールを受信した次の日だから、人差し指はそのままで話す。
「いやいや、ご内密にしてる場合ちゃうよ。最終選考ってインターネットの読者投票なんやろ?」
 心なしかミクが焦っているように見えた。そりゃあそうだろう、毎年バンビィガールのコンテスト投票は熾烈な争いで、悠長にしている場合ではないからだ。
「うん、そうなんよね」
 ミクに同調しつつ、外は寒いのについつい頼んでしまったお気に入りのアイスカフェラテを一口飲む。
「策はあるん?」
「まあ一応は、やけど」
 アテにしている人物を思い浮かべる。その人がダメなら自分で何とかするしかない。
「そうかー、頼りないかもしれんけど、私は全面協力するから何でも言って!」
「ありがと」
 ミクの力説に、ありがたすぎて一瞬涙が溢れそうになるけれど、堪える。
 コンテストに参加する時に決めたこと、それは夢が叶うまで絶対涙を流さないこと。どれだけ辛くても、だ。
「アオの夢のひとつやったもんな、バンビィガール」
 しみじみとミクが何かを思い出すかのような表情をしている。

 『月刊バンビィ』は私たちが大学生の頃創刊されて、奈良の色んな情報を網羅していると瞬く間に県内の人気雑誌になった。同時に『Webバンビィ』という奈良の情報サイトも立ち上げられ、いつでもどこでも奈良のグルメ情報などがスマートフォンでチェックできるようになった。
 その両方の媒体で活動するイメージモデルが、私が目指しているバンビィガールだ。
 歴代のバンビィガールたちは個性的で、可愛いのはもちろんのこと、色んな企画で活躍していた。その活動を誌面で、スマートフォンでチェックしては、後ろ髪を引かれる想いをしていた。
 そしてようやく、手の届くところまでやってきた。
 カメラテストで落とされてからの3年の間、色んな努力をしてきた。課題だったファッションセンスも幾分か改善され、お金を貯めて歯列矯正で歯並びを治し、ダイエットも頑張った。
 再々チャレンジに3年かかったのは、やっぱり立ち直れない気持ちが1年は続いたから。その後は友人のツテで旅行雑誌のモデルなどを経験し、アナウンススクールで話し方と立ち振る舞い方を特訓した。
 何の取り柄もなかった私が、前を向けるようになるのに3年かかったというだけ。

 さっきまで意気込んでいた勢いから一転、ちょっと心配そうにミクが尋ねてくる。
「カメラテスト、苦手やったやん? どう乗り切った?」
 嗚呼、カメラテスト。思い出しただけで情けなくなる。
 その日は2月の寒い寒い日。けれど、このカメラテストに通過したら4月号の誌面に載るんだよねと、あまり着込まず春物の鮮やかなグリーンのニットワンピースをチョイスした。
 毎年最終選考には12名残っているのだけれど、カメラテスト会場の美容院で、私はとんでもないことを撮影に入っているスタッフさんから聞いた。

 ――今年のカメラテストの人数が12名、その中から8名を選ぶ。

 人数が、いつもより、少ない!!
 その事実が思っていた以上に衝撃で、この後のことは記憶にない。
 ヘアメイクをしてもらい、上半身アップ、全身写真、そして自己PR動画撮影をした、これだけは覚えているのだけれど。
「乗り切ったと言うより、頭真っ白で乗り切れた感がない」
「やっぱりそうなるよなあ」
「でも、色々やってきた甲斐があった。あとはもう突っ走るだけ」
「うんうん。あ、ミヤコは知ってるん?」
「知ってるも何も、応募書類の写真撮影してくれたのミヤコやで」
 ミヤコとは、私のもう一人の大切な親友、金橋郁かなはしみやこのことだ。中学時代からの仲でミヤコとは高校こそ違ったが、気が付けばミクとも仲良くなり、大人になってからはこの三人で飲みに行くようになっていた。
 そのミヤコに「私、バンビィガールのオーディションを受けようと思う」と伝えると二つ返事で応募用の写真撮影を買って出てくれたのだ。
「なんで私には何も言わんかってん!」
「応募時期がミクの仕事の納期とモロ被りしてたんよ。一応気を遣ったんやって」
 ミクはやり手のシステムエンジニアで、大手企業でバリバリ働いている。その時は大きなプロジェクトのチームリーダーを任されていて、声をかけづらかったのだ。
「ミヤコも仕事忙しいやん」
「シフト制だから都合つきやすかったのがミヤコ! 他意はないって」
「なるほどね、わかりましたよ」
 そう言うとミクはマグカップに残っていたカフェオレを一気に飲み干した。
「アオ、今度こそ叶えよ、夢」
「うん、その心づもりはできてる」
 ミクのを真剣に見つめて、私は深く頷いた。

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