小説:バンビィガール<3-6>どうも、バンビィガールです #note創作大賞2024
撮影前に三橋さんからメールで受信した、このあとの決まっている予定をノートパソコンで確認する。
5月18日 7月号表紙撮影
5月25日 月刊バンビィ6月号発売日
5月28日 Nワン生出演
6月2日 バンビィ主催「奈良・うまうま市」ステージ出演
その他突発的にイベントなどがあるかもしれないとのこと。派遣バイトは最低限にして、主軸はバンビィ関連に置くことにする。
気を付けたいのは、メディアに出るということは日常生活も「モデル」として意識しないといけないことだ。私がうっかり常識のないことをしたら(そんなことはないのだけれど)、バンビィの品位を下げることになる。
あとは体調を崩さないこと。これが一番大変かもしれない。
風邪、体調不良には気を付けること。元気でいることが大切。
早寝早起き、運動もする。そして心健やかに。
「よし、お風呂入ってこようかな」
そう言ってノートパソコンを閉じようとする直前に「あ、そういえば」と思い出す。何、オフ会って。私寝耳に水なんだけど。もし私が嫌って言ったら主役不在でオフ会するのだろうか。
それは冗談として、とりあえず連合軍のトピックにレスポンスする。
『まつり:突然のことで戸惑っておりますが、場所などは決まっているのでしょうか?』
本当にやるのだろうか、オフ会。
でも、もしやるなら嬉しいよね。あれだけの戦いを共にした仲間たちが集まるのだから。
――5月25日。晴天。
月刊バンビィ6月号発売日。近所の本屋にて。
すっぴん、マスク、伊達メガネで髪の毛も適当な結び方をして、つばのある帽子を被る。傍から見たら完全に不審者だ。
店員さんに月刊バンビィが売っているエリアを指差し「すみません、撮影しても大丈夫ですか?」と小声で尋ねると「いいですよ」と言われ、スマートフォンで撮影。
そして一冊購入しバッグにしまい、その場をすぐ立ち去る。
――は、恥ずかしい!! 自分の表紙の雑誌なんて買ったことない!! 自分の写っているポスターなんて見たことない!! 4月号のオーディション最終選考の記事の比じゃない!!
外に出て、バッグから月刊バンビィを取り出し、表紙をまじまじと見る。
白背景に私がくっきり。ちゃんとばんちゃんと一緒に私が飛び跳ねている。そして小さく表紙に書かれている『第8期バンビィガール 紺野あおいさん』の文字。感慨深くなって、思わずぎゅうっと月刊バンビィを抱きしめた。
スマートフォンには「ここにもあった!」「買ったよ!」というメッセージが沢山来ていて、恥ずかしいやら嬉しいやら。
表紙をめくってもう1ページめくると目次があるのだけれど、そこには「恋する私」が写っていて、冷静に見るとこそばゆい気持ちになる。クレジットには「撮影:沢渡洸平」の文字。沢渡さんのおかげで普段の私以上の可愛い私が掲載されている。
ありとあらゆる所に私がいて、紺野あおいデビュー号は本当にすごいことになっている。ふんだんに私を使ってくださった編集部の皆様には感謝でしかない。
バンビィガールのコーナーでは事前に受け取っていたクエスチョンに答える形でインタビュー記事が掲載されている。
『Q:おめでとうございます。接戦の末、1位に決定した今のお気持ちは?
ありがとうございます! 夢なのでは、とまだ信じられない気持ちでいます。不安と嬉しさが半々ですが、これから頑張りたいと気持ちが引き締まりました。
Q:バンビィガールになれた秘訣はズバリ?
両親や友人の支えは非常に大きく、励みになりました。
常に「あきらめない勇気」を持ち続け、コミュニティを大きくしていったことが、憧れのバンビィガールになれた秘訣かなと思っています。
Q:バンビィガールになってやってみたいことは?
奈良を誰よりも楽しみ、奈良を面白くするお手伝いをしたいです!
Q:読者の方へメッセージを!
私自身、まだまだ奈良のことを知らないと思うので、皆様と一緒に沢山の発見ができるように頑張りたいと思います。一年間よろしくお願いいたします!!』
私は晴天に向かって6月号を掲げ、スマートフォンのカメラで撮影する。
【20XX/05/25
どうも、バンビィガールです!(ようやく言えました♪)
とうとうバンビィガールデビューの6月号、発売されました!
お手に取っていただけると、とても嬉しいです。
どこの書店で手に入れたかなどなど、コメントお寄せ下さいね♪
本当に本当に、ありがとうございます!!
#紺野あおい
#月刊バンビィ
#バンビィガール
#デビュー
#感謝
#奈良】
SNSに投稿するや否や、「イオンモール橿原の本屋さんで買いました! 可愛いです!」「無事コンビニでゲットです☆」「通販とかやってないのかな」などなどコメントが殺到。嬉しい限り。売り上げにも貢献しないと意味がないので、こういう地道な宣伝は大切だ。
――あれから、連合軍コミュニティでは「まつりさんおめでとうオフ会」の準備が着々と進み、場所も決まり、今夜決行されることになっている。フライデーナイトということで、滋賀から京都の大学経由で女王も駆けつけると言っている(勿論その後は紺野家お泊まりコース)。大阪のラスクちゃんも仕事終わりに顔を出してくれるそうだ。ミクも仕事後合流、ミヤコも今日は日勤なので参加可能。おにぎりことアキヒロは未定だと言っていた。
その他の地域の子たちは本当にzoomで参加するらしい。先生がパソコンとモバイルWi-Fiを用意すると言っていたのでガチだ。
「おいしいもの、いっぱい食べたいなー」
本屋からの帰り道、空を見上げながら誰にも聞こえない声で呟く。
最初は驚いたけれど、なんだかんだで楽しみにしている私がいた。
17時45分。
待ち合わせは大和八木駅の改札前にて。
少し早く到着した私は、少しそわそわとしていた。
今日は普段やらないガーリーメイクに仕上げた。あの日筒井さんから教えてもらったアイラインの描き方が本当に参考になっている。眉毛もトレンドの薄眉。ピアスは以前ミヤコからもらった誕生日プレゼントのものだ。初夏を思わせるターコイズブルーのシャツワンピースを羽織り、インナーはオフホワイトのノースリーブカットソー。ボトムスはサックスブルーのデニムパンツで仕上げた。今日は「紺野あおい」の名前らしい色のスタイルで。
「まつりさーん!!」
「ラスクちゃん!」
二番手にはラスクちゃん。手にはオレンジ色で統一された小さな花束が握られている。
「おめでとうございます! 直接言えてなかったから嬉しいです! これほんの気持ちです!」
そう言ってラスクちゃんは花束を私に渡してくれる。
「私も嬉しいよ~ありがとうね~」
既に涙腺が緩んでいる私。始まる前からやばいぞこれは。
「せんぱーい!!」
「女王!!」
私とラスクちゃんの声がハモる。女王は相変わらず荷物が多かった。通学仕様ではあるけれど、私は知っている。その左手に握られたトートバッグは推し活用のものだということを。
「女王、久しぶりー! 元気なん?」
「メッチャ元気です。ラスクさんもお元気そうで」
こちらはライブ以来会う仲間なので、仲良くキャッキャしている。
「待たせたな、と言っても待ち合わせ時間より早いんやけどな」
「せんせい!!」
私がそう叫ぶと、ラスクちゃんに女王、そして関係のない人たちまでこちらに注目。
「お前、声がデカい!」
「す、すみません~」
早速先生の雷が落ちる。
「噂のたぬき先生!! はじめまして、ラスクです!」
「女王です! よろしくお願いいたします!」
「なんか教え子が一気に増えた気分や」
先生が疲れを見せつつも、それはそれで楽しそうな言い方だったので少し安心する。
「先生、『さんかく』と『YUKINKO』は現地集合です」
「了解、じゃあ俺たちは店へ移動しよう」
滅多に現れないレアキャラ『さんかく』とは、ミクの会員制のSNSでのニックネームだ。
大和八木駅から南下すること3分。駅近な場所に今日の会場になる居酒屋がこじんまりとあった。話によると二階がお座敷席で貸し切ったらしい。「へえ、こんなところにいい感じのお店が」
私がお店を見上げると、先生が「バンビィナ様様やな」とからかう。
「いらっしゃいませ」
「予約していた柳です」
「お待ちしておりました、お二階へどうぞ」
穏やかそうな女の店員さんが、二階へと案内してくれる。二階に上がると下駄箱があって「こちらでお履き物をお脱ぎください」と言われる。
お座敷席は10人も入ればいっぱいぐらいの広さ。我々にはちょうどいい広さだと思った。
皆が思い思いの席に着くので、私も、と座ろうとしたら女王に「せんぱいはダメです」と背中を押され「お誕生日席」へ。
「主役なんですから、しっかりしてください!」
「いや、そんなこと言われても」
「そうですよ、まつりさん!」
ラスクちゃんにまで念押しされたので、仕方なくひとりぽつんとお誕生日席におさまる。
先生はノートパソコンをセッティングし、電源をオンにしているところだった。
「先にお飲み物お聞きしてよろしいですか?」とお店の人に言われたので、「とりあえず生中!」とそこにいた全員が答える。
かしこまりました、と店員さんがふすまを閉めて2分も経たないうちに、階段を駆け上がる音。
「ん? 何この音」
すると、ふすまがガラッと開き「間に合った~」とミクにミヤコが二人して倒れ込む。
「ど、ど、どないしたん!?」
「いや、ちょっとした手違いで北口で迷ってました」
ミヤコが息切れしながら話してくれる。
「しくったわ……」
ミクは完全に畳に突っ伏している。
「いやいや南口って書いたやん、メッセージに」
「とにかく色々あってん!」
珍しくミクが私に嚙みつこうとするから驚いていると
「久しぶりやな、坊城」
「あー!! せんせー!! お久しぶりです!」
ミクのいいところは、この切り替えの早さだったりもする。
「今日暑いね、迷ってる間にすっごい汗かいちゃった」
「あらら、大丈夫? デオトラントシート持ってるけど」
「あ、私も持ってるから大丈夫」
ミヤコは本当に暑そうだったけれど、先生の方を向いて「先生はじめまして。アオの幼馴染の金橋郁と申します。普段は看護師をしています」ときっちり挨拶をキメたので、先生が「あ、柳です。そうですか、看護師さん、立派な職業ですね」とテンポを狂わされている。
「生中4つお持ちしましたー」
「あ、私も生中1つー!」
「私はファジーネーブルお願いします」
ミクにミヤコがそれぞれ注文する。店員さんはそろそろ一階が忙しくなってきたのか、「かしこまりました!」と急いで降りていく。
二人分の飲み物、お通しが到着したところで、先生が「よっしゃ、セッティングOK」と一段落している。
皆でテーブルを囲み、ジョッキを掲げる。
先生は何かをパソコンに打ち込んでいて、画面に現れたのは――。
「みんな!!」
『現地行きたかったなー、残念』
『お疲れ様でーす』
なんと連合軍のほとんどのメンバー――ざっと数えて20人だろうか――が画面の中で飲み物片手に笑っているではないか。
『そっちで飲みたかったけど、こっちでも盛り上がるよー!!』
「久しぶり!! 元気?」
『元気元気―!』
「あ、乾杯の音頭、とってもらわなくちゃね。はい、先生」
私が自然の流れで音頭を先生に押し付ける。少し舌打ちされたけれど、聞かなかったことにする。
「……紺野、本当におめでとう。バンビィガールに乾杯!」
「かんぱーい!!」
『かんぱーい!!』
私がバンビィガールに選ばれなかったら、見られなかった光景に目を潤ませながら私も大きな声で「かんぱーい!!」と言い、ビールを一口。
「くぅ~!! 沁みる!!」
絶妙なタイミングでお料理お持ちしました、と色々運ばれてくる。どうやらコース料理にしたらしい。お刺身がめちゃくちゃ美味しそう。鉄板の揚げ物もたまらない。
「そうだ、皆持ってきたな?」
先生の言葉に、皆がニヤニヤとして頷いている。何を持ってきたのだろう、と思っていたら、一斉にその場にいた全員が月刊バンビィ6月号を取り出し、掲げる。
zoomメンバーはその光景を見て拍手。
――しかし一人だけは絶叫だった。
「やめてー!! そんなに私の写真、見たくないよー!!」
「油性ペンもあるから、サインしてもらうぞ」
「やーだー!! やだやだ!!」と私が丸まっていると、頭上から「何がやだって言ってんだ?」と聞き慣れた低い声。バッと顔を上げるとそこには上着を脱いだアキヒロが立っていた。手には上着としっかり月刊バンビィを持って。
「すんません、ちょっと研修長引いたんで遅くなりました」
「ああ、君がおにぎりくんか。飲み物どうする?」
「ハイボールで」
「わかってないなー、生中でしょ、こういう時は」
私が口をとがらせながら言うと、アキヒロの反論。
「何でもええやろ? 好きなもん飲ませろ」
私の隣にスーツ姿でどっかりと胡坐をかいているアキヒロは、バスケットをしている時と雰囲気が違う。
私は横目でアキヒロを見ながら、ニヤリと笑って紹介する。
「みんなー! おにぎりくんでーす!!」
「ちょ、おま!! うるせー!!」
「だってみんな自己紹介終わってるんだもん、zoomメンバーにも挨拶してよ」
私が睨みながらアキヒロにパソコン画面への挨拶を促す。
「……おにぎりっす。お疲れ様っす」
「愛想がない!」
私はビール片手に思い切りアキヒロの背中を叩く。
「いってえ! 手加減しろ!」
「普段バスケで手加減してくれないお返しです」
「くっそー、マジで痛ぇ」
パソコンの向こうから聞こえる笑い声に、私も笑ってしまう。
「ここ、美味しいですね! お通しから食べ物から美味しすぎるー」
女王が感動しながらお刺身を食べている。
「食べログだと星4だったぞ、ここ」
「え、そうなの!?」
アキヒロの言葉に、私の唐揚げをつまもうとしていた箸が止まる。
「さあ、この状況を志賀直哉はどう思うんやろか」
先生が含み笑いをしているのを見て「『奈良にうまいものなし』ですからねー、罪な言葉ですよね」と笑うと、皆が「本当にそれなー」と同調してくれる。
「あ、みんな!顔とかはスタンプで隠すからSNSにあげていいかな? 写真」
私の声に、皆が大きな丸を作ってくれる。
「俺が撮ってやる」
「アキヒロ、写りたくない?」
「ええねん、俺はこういうの得意ちゃうし」
「ふーん、わかった」
私は店員さんを呼ぶインターホンを押し、「すみませーん。写真お願いしてもいいでしょうか」とお願いする。勿論快くOK。
ちょっとふてくされてるアキヒロに、私は問いかけた。
「アキヒロ、今日はなんの集まり?」
「……お前のバンビィガールおめでとう会」
その答えに私は頭を振った。
「違うよ。連合軍万歳の会だよ。だからアキヒロもいないとだめ」
ハイ、チーズ。
皆月刊バンビィを持っていたので、宴らしい少々カオスな写真が撮れた。
宴もそろそろ終盤に差し掛かったころ、襖を開ける店員さん。
「こちら、どうぞ」
手にしていたのは、チョコレートケーキだった。
「はい、頑張ったアオに拍手―!! お祝いケーキです」
ミクが嬉しそうに言うので「ちょっとどういうこと!?」と訊くと、「八木の近鉄百貨店で頼んでおいたのだ」と、してやったり顔。
「そこでちょっとトラブルがあったんよねー。あおいの名前が『かおり』になっててさ、びっくりしたわ!」
それが色々あった、の意味だったのかと納得する。
チョコレートケーキの上のチョコプレートには「あおいちゃん、バンビィガールおめでとう」の文字。
随分飲んだのもあるけれど、涙腺崩壊。
「うえええええええん!」
「酔っ払いが泣くの、マジきちぃ」
「こら、そんなこと言わないの!」
誰かが誰かをたしなめているのは分かるけれど、酔いが回ってそれが誰なのか分からない。恐らくアキヒロがミヤコあたりに怒られているのだろう。そんなことはどうでもいい。嬉しい、ありがたい、もう色々な感情が渦巻いて、言葉にならない。
「一番頑張ったアオに、ささやかながらプレゼントです」とミヤコが私に微笑みながら言う。
「ケーキは皆で食べるので、ちゃんと100均でナイフとフォーク、お皿用意しております」
準備ばっちりのミヤコの言葉に、皆が「やったー!」とはしゃいでる。
スイーツの魔力、恐るべし。
――この日食べたチョコレートケーキは、世界で一番幸せな味がした。
【20XX/05/25
こんばんは、紺野あおいです。
今日は投票に協力してくれた皆がお祝いしてくれました。
ちゃんと月刊バンビィ持参で(笑)。
すごく楽しい時間でした! ありがとう!
#紺野あおい
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#バンビィナ
#仲間っていいね
#奈良】
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