
335 経常収支って何? - 海外とのフロー面の関係
海外との取引の結果となる経常収支について、日本の統計データを確認してみます。
1. 経常収支とは
前回までは直接投資残高についての国際比較をしてみました。
直接投資は相手国企業に投資し、配当金などのリターンを期待するモノでもありますね。
相手国にどれだけ投資を行ったかという残高が、前回までの直接投資残高という事になります。
今回からは、直接投資からのリターンがどれだけ得られるのかという直接投資収益についてご紹介していきます。
海外との関係は、日本の統計データでは財務省の国際収支統計でまとめられています。
国際収支統計は、SNA(国民経済計算)の海外勘定に相当しますが、受取と支払いの関係は逆である点に注意が必要です。
そのうち、経常収支から見ていきましょう。
財務省の用語の解説によれば、経常収支は次のように説明されています。
「貿易・サービス収支、第一次所得収支、第二次所得収支の合計。金融収支に計上される取引以外の、居住者・非居住者間で債権・債務の移動を伴う全ての取引の収支状況を示す」
表1 経常収支の項目(財務省 用語の解説より引用)

2. 日本の経常収支
続いて、日本の経常収支について統計データを見てみましょう。

図1 経常収支 日本
(財務省 国際収支状況より)
図1が日本の経常収支です。
受取側がプラス、支払側がマイナスで表現しています。
まずボリュームが大きいのは、輸出(青)と輸入(赤)ですね。
どちらも概ね対称に近い形で推移していて、差引の貿易収支はほぼゼロとなります。
詳しく見てみると、2010年頃までは貿易収支はややプラスで推移していましたが、2011~2014年でマイナスになり、その後はほぼゼロです。
2022年、2023年は再度マイナスになっています。
サービス収支(ピンク)や第二次所得収支(橙)は微小ですが、第一次所得収支(緑)は大きく増加していて、ほぼこの分だけ経常収支がプラスになっているような推移となっています。
近年では貿易自体はほぼ拮抗していて相殺する一方で、海外からの財産所得である第一次所得収支が大きくプラス化しているという事になります。
3. 第一次所得収支とは
続いて、日本の第一次所得収支について、詳細を見てみましょう。
日本銀行の「国際収支関連統計 項目別の計上方法」によれば、第一次所得収支は、次のような項目で構成されています。
表2 第一次所得収支の項目(国際収支関連統計 項目別の計上方法より引用)

4. 日本の第一次所得収支
日本の第一次所得収支について具体的な統計データを見てみましょう。

図2 第一次所得収支 日本
(財務省 国際収支状況より)
図2が日本の第一次所得収支の推移です。
拡大傾向を続けてきた事は図1で見た通りですが、図2ではその内訳がわかります。
雇用者報酬やその他第一次所得はほぼゼロで、直接投資収益と証券投資収益が大きな割合を占めている事がわかりますね。
証券投資収益は2000年代中盤から10兆円前後でアップダウンしています。
一方で、直接投資収益は徐々に拡大傾向が強まっていて、2023年には21兆円と証券投資収益を大きく上回る規模となっているようです。
海外への直接投資からのリターンが大きく増加しているという事になりますね。
5. 直接投資収益とは
最後に、日本の直接投資収益の詳細を見てみましょう。
直接投資収益は、対外直接投資からの受取と対内直接投資への支払の正味(ネット)の金額となります。
受取が多ければプラス、支払側が多ければマイナスの数値になります。
直接投資収益は、次の3項目から構成されています。
表3 直接投資収益の項目(国際収支関連統計 項目別の計上方法より引用)

6. 日本の直接投資収益
具体的な日本の直接投資収益のデータです。

図3 直接投資収益 日本
(財務省 国際収支状況より)
図3が日本の直接投資収益の推移です。
2000年あたりから緩やかに増加傾向が続いてきましたが、2021年から急激に増加しています。
当時は2兆円程度でしたが、2022年には23兆円、2023年も21兆円と大幅なプラスですね。
配当金・配分済支店収益(青)と再投資収益(赤)が概ね半分ずつといった内訳のようです。
利子所得等は微小ですね。
直接投資による収益のうち、半分は日本の本社に戻し、半分は現地子会社に再投資(日本に還流しない)している事になります。
7. 日本の経常収支の特徴
今回は、日本のフロー面での海外との関係である経常収支についてご紹介しました。
日本の経常収支は基本的にプラスで推移しています。
2000年頃まではその大半を貿易収支が占めていましたが、近年では輸出と輸入がほぼ拮抗していて貿易収支はほぼゼロとなります。
その代わり、海外からの財産所得となる第一次所得収支が拡大しています。
第一次所得収支のうち、証券投資収益はアップダウンしながらも横ばいですが、直接投資収益は拡大傾向が続いています。
日本の経常収支の拡大を支えているのが直接投資による収益であることがわかりました。
また、その約半分は現地国への再投資となります。
日本は対外直接投資が超過していますので、基本的には直接投資収益がプラスで推移していて、更に拡大傾向となります。
日本はGDPが停滞してきましたが、国民所得(GNI)は拡大傾向となっています。
それが、経常収支による海外からの所得の拡大によるものとなるわけですね。
皆さんはどのように考えますか?
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