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124.信頼関係を築く

信頼関係についてお話することがあるのですが、成功体験ばかりではなく当然失敗も経験しています。その中で気づいたことについて書きます。


再度の価格交渉

今年の初めに価格交渉をしたのですが期待した成果が得られなかったことを以前に記事で書きました。

この時、3つの価格交渉を行い、1つは私が直接取引を行っている所でありがたいことに期待した結果となりましたが、他の2つは思うような成果が出たとは言えない状況でした。

成果の出なかった2つのうちの1つは私も参加し、状況を確認したのですがその時の問題点として

「普段コミュケーションを取っている担当者が交渉に参加されていなかった」

ここが大きいと感じ、今回再びの価格交渉を行うにあたり普段コミュケーションを取っている担当者に同席頂く形をお願いしたところ、今回は取引先4名と弊社2名での交渉となりました。

なぜこの提案をしたのかですが、信頼関係の重要性を強く感じていたためです。

また、弊社としても交渉するにあたり、一人当たりの売り上げを他の業務と比較した数値を提示し、それをベースに交渉しました。

今回の交渉では、こちらの意図を汲んでいただける感触を得られたので、どのような形で工数単価の引き上げを行うかを提案しました。


価値

今回の取引先に関わる弊社の業務は工場の自動搬送システムに関わるソフトウェア開発ですので、1つのJOBに対して現場での調整が必要となります。

その場合、現場に入りソフトウェアの調整を行わないといけないのですが、社内でソフトウェアを制作しているのとは状況が異なり、現場では弊社以外の様々な企業が作業を行っていますので、多くのコミュニケーションが発生します。

つまり、作業をするにあたりマネジメントが必要となります。実際には他の業者さんだけではなく、ENDユーザーと直接コミュニケーションする場面も多く、その時のアクションが不適切であれば、そのJOBの進行が困難になります。

つまり、JOBを成功に導くためには次のスキルが必要です

  • ソフトウェア開発能力

  • コミュニケーション能力

  • マネジメント能力

これらを併せ持つ必要があるため、単純にソフトウェアを開発できるだけでは不十分な業務です。

しかし、現状はソフトウェア開発をベースとして決定されており、別の高度なスキルが求められるコミュニケーションやマネジメント能力が反映されていない状況と言えます。つまり

「経験豊富な人とそうでない人が同じ価値」

これでは、経験を積み上げても売り上げに反映されないため、人としての価値が正しく評価されているとは言えません。

正しく経験豊富な人を評価し、価格に反映させる仕組みが必要であることをお伝えしました。

経験豊富な人は現場でのコミュニケーションに安心感があり、ENDユーザーに不安を与えることはありません。これがなぜ大切なのか、私は経験から深く理解するに至りました。


信頼を失った経験

20代初め頃、コンタクトレンズを制作する装置の開発に関わりました。コンタクトレンズは目の形に合わせて曲面となっているのですが、実際は1つの曲面で構成されておらず、複数の曲面の組み合わせで作られます。

その曲面の形状をモニターで確認しながら設定を行い、出来上がった形状と同じ形のコンタクトレンズが作成されるように、装置の制御もソフトウェアで行う必要がありました。

出来上がったコンタクトレンズが正しく作成されているのかは、素人では全く判断がつかないため、専門家が目視と顕微鏡を使い確認します。

この時、レンズ形状や設定値は同じでも、作るたびに微妙に形状が異なるものが作成される現象が発生しました。

一般的に機械制御で重要なことは繰り返し精度で、この精度がでていなければ装置としては不完全です。

よくある事象としては、+方向に移動したものが、ー方向に移動するとき、装置に遊びのようなものがあれば、期待した移動距離と異なる動作となることがあります。

これを「バックラッシュ」と呼び、これをソフトウェアで補正することを「バックラッシュ補正」と呼びます。

この問題が発生した時に、当時の私は次のように伝えたのを今でも覚えています

「ソフトウェアは必ず同じ動作をするので、動かす度に結果が変わるのは装置の精度が出ていないのが問題です」

このように伝えました。この時、ソフトウェア側でも「バックラッシュ補正」は行ってはいましたが、同じ補正値で補正をかけているにもかかわらず、ずれが生じていたので装置に問題があると伝えました。確かにこのこと自体は正論ではありますが、今回であれば目的は

「設定した形状でコンタクトレンズを作成する」

ですので、装置に問題があったとしても同じゴールに向かって協力する姿勢が求められますが、若い私にはその重要性が理解出来ていませんでした。

この時、装置メーカーさんとENDユーザーさんは良好な関係を築かれていたので、なおのこと私の発言が、非協力的と感じたのだと思います。

その後、プロトタイプから製品開発の話が来なかったので、弊社での開発を断念という結果を知るに至りました。

つまり、協力する姿勢が足りなかったばかりに、ENDユーザーとの信頼関係が構築出来なかった、これが私のエンジニア人生の中で最大の失敗です。

この時、関係された方々には大変申し訳ない気持ちでいっぱいです。誠に申し訳ございませんでした。


失敗から学んだこと

「正しさでは人の心は動かない、人の心を動かすには誠意が必要」

これを知るに至りました。「誠意」とは「今できるベストを尽くす」とも言い換えることが出来ます。そして、なぜ正しさを前面に押し出したのかを深く考えた所

「損得で物事を考えていた」

ここに気付きました。以降、どのような状況に置かれても誠意をもって向き合うことになっていくのですが、次の問題として

「理解出来ていても行動に移せない」

このような状況に陥ることに気付きます。その点をさらに掘り下げて考えていくと

「行動出来ない理由に目を向けていなかった」

つまり、掘り下げが足りないため、本質的な部分に目を向けていなかったので、行動に移せないことを知りました。

このことを理解してからは、問題発生時には考えられる限界まで深く掘り下げて考えることを大切にするようになり、その結果

「今何をすべきか」

気付けるようになりました。すると、自然と相手が何を必要としているかも見えてくるようになり、その結果Give&Giveを実際の行動として、少しづつではありますが表現できるようになりました。

もちろん、良かれと思い行動しても相反する意見を聞くこともありますし、その時には悶々とすることもあります。しかし、そうした時でも感情的にならずに正しい方向へ進んでいけることを経験の中で学びました。

悶々としたときの対応としては一度議論を中止し「翌日に再度考える」ようにしています。これで、感情的行動での失敗は概ね回避できます。中には結論を急ぐ方も居られるのですが、そのような場合良い結論に達しないことが多く、議論の持越しをやんわりとお願いすることをお勧めします。


信頼関係の効果

信頼関係が構築出来ている場合、最もその関係の有難さが分かるのはトラブルが発生した時です。

トラブルが発生した場合、誠意ある対応をするのは当然なのですが、信頼関係が構築出来ている場合は十分な情報を頂ける場合が多く、ENDユーザーも協力的です。その結果、トラブルの調査も迅速に行え、復旧も早期に行える場合が多いです。

信頼関係が構築出来ていない場合、少しの問題がエスカレーションして大きな問題になることがあります。

20代の頃は多くの現場を経験したのですが、お客さんや現場で一緒に仕事をした人達との交流も多くありました。時には取引先の上役の方にご馳走していただいたり、お客さんからお土産を頂いたりといったこともありました。

今思えば、これらの出来事が信頼関係の構築を表していたのだと思います。その結果、担当した現場でのエスカレーションは1度もありませんでした。

経験の浅い時期にした失敗が、結果的に助けとなったことが幸運でした。当時仕事に関わった皆さんありがとうございました。


まとめ

今回の交渉では結果的に前期のJOBをベースに経験豊富な人の単価が上昇した時にどの程度の改善がみられるのかをシミュレーションし、その結果を参考資料として取引先に提示することで、改善頂く方向でまとまりました。

また、普段私が関わっていない業務でしたので、今まで私が行ってきた様々な改善についてお伝えすると共に、通常業務以外でも技術的サポートをさせていただく旨、お伝えしました。

理解を示していただけたことが今回は何より大きな一歩だと感じました。もし、同様の状況で悩まれている方が居られれば、参考になれば幸いです。

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尾川 俊司
お気持ち感謝に尽きません🙇‍♂️