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読書『正体』:早々に「今年イチ」出たかも

お正月に読んだ、染井為人さんの『正体』。
面白かったーーー!!面白いだけじゃなくて最後重くて放心した。ずっと読んでたから読後のロスがやばい。


それぞれの人物への共感

主人公は脱獄し、名前や姿を変えながら生きている。お金を得るために日雇い、在宅ライター、住み込みリゾバなどを転々とする。語られるのは本人ではなく各地で出会う人の目線。

作者さんは芸能界でマネージャーやプロデューサーをしていたらしい。描写がくどくなくて、好き。

そして主人公が出会う人たちの悩みがリアル。30代女性にかかる結婚や孫のプレッシャーとか、パート女性の義父の介護や夫婦間のイライラとか。身近に起こる冤罪とか偏見とか。

行く先々でトラブルが起こるから主人公はそこに居続けられないんだけど、そのトラブルも「作り物」感があまりない。賢く冷静で、追われる立場なのに人を助けようとする主人公のトラブルの切り抜け方も見もの。

権力、拡散と大衆の力

日本でも実際に毎年相当数の冤罪が発生してしまっているらしい。権力で「犯人に仕立て上げる」力が働いたらすさまじいんだろうな…。
警察・検察・弁護士・裁判官と力が分散しているはずなのになぜ、とも思うけど。

SNSの拡散力、匿名で誰かを叩く力も本当に恐ろしいと思った。

各局で事件の報道がされたら、SNSで動画を見たら、当たり前に信じてしまうと思う。事の真偽なんて確かめもしない。こちらが正義とばかりに集団の力で叩いてしまうかもしれない。

その時点、その視点から見ればそれは確かに正義であったわけだけど、私が受ける方なら正気を保てないかも。

全ての情報が正しいかどうか確かめるのは難しいけど、よく知らないことまでむやみに批判することは避けたいと思った。

突然奪われるということ

娘が生まれて、子どもが被害に遭う事件を聞くだけで落ち込んだり憤ったりするようになった。
無差別殺人とか、飲酒運転の車が突っ込むとか…

今回の小説は冤罪だったけど、真犯人には生きているうちに(死刑とかになっちゃう前に)心の底から悔やむような何かを味わってほしいと思う。

でもそれだって無念は晴れない。犯人にとっては自分の過去の行動という恨むべき対象がある。
突然奪われた方には感情のやり場がない。
戦時中なんて、残された家族の思いはどれほどだっただろう。

…と新年早々世界平和に思いを馳せた。

本の帯を見て「なんでミステリーなのに泣けるんだい?」と思ったけど、分かる。まだ三ヶ日だけど今年イチ良かった本の候補になった。ただ読んでほしい。


横浜流星さんの5役、どんな感じかな。映画も観たくなった。



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おがわ みずほ
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