お帰り寅さん①「男はつらいよ」と昭和の映画館
令和元年の年末、「お帰り寅さん」を学生時代の映画館バイト仲間と3人で見た。昭和の終わり頃、私たちは銀座の松竹系の劇場で働いていたので、お盆と暮れ・正月の寅さんのシーズンは大変忙しかった。正月になると必ず満員御礼になる興行で、立ち見客も多く、扉が閉まらないほどギューギューにお客が入っていた。
「寅が来ると忙しいから」とお互いに文句のように言いながらも、その活気がお祭りみたいで楽しかった。大学生になる前、高校1年の冬から働いていた池袋の劇場でも、寅さんの興行が始まる前にはベテランのもぎりのおばさんたちが「もうすぐ寅が来るからね」と「忙しくなるねえ」と言いながら、仕切る腕を見せるのを楽しみにしていた。
扉の外にいても、青い空と富士山に重なる「松竹映画」の文字でお客さんたちが寅さんに再会できるワクワクを高めていることがわかり、ドッという最初の笑い声で「寅さんの夢」のオープニングが始まったことをと思い浮かべることができた。お正月は特に、富士山と寅さんのおかげで一層めでたい気分になるのだった。
忘れられないのは、終映後のお客の表情だ。ギューギューに入っていた大勢のお客さんが、たくさん笑って、すっきりしたような、おだやかな、うれしそうな表情で帰っていく。その表情が表していたのは「幸福感」と言ってよいだろう。
いい大人が集団であれだけ幸せそうに帰っていく光景を、他の映画で思い出すことができない。
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