中小飲食店を応援するマーケティングの打ち手
自己紹介
株式会社秤 代表の小川と申します。セールスプロモーション業界で4年、電通グループなど広告会社の営業とプランナーとして10年、データ分析を軸にしたコンサルティング支援3年強。マーケティング戦略から戦術まで幅広く関わってきました。2018年11月に「Excelでできるデータドリブン・マーケティング」という書籍も出版しました。
宣伝会議のマーケティング分析講座の講師や企業向け研修も行っています。マーケターがデータドリブンな意思決定を行うことができるよう、マーケティングを科学するためのノウハウを共有する活動をしています。
【更新情報2024年5月26日】
「その決定に根拠はありますか?」
確率思考でビジネスの成果を確実化するエビデンス・ベースド・マーケティング
戦略を導く為の「エビデンスの作り方」をテーマに、これまで体系化してきたノウハウを紹介したマーケティング・インテリジェンスの書籍を出版致しました。5問の調査でTVCM(施策)→コンビニで商品を見た(要因)→売上がいくら増えたか?→年間16.67億円(効果)の様に経路ごとに構造的に効果を把握する国際特許(PCT)を出願した分析法など、確率モデルや因果推論をプロジェクトで実際に活用している方法を特典の動画講義も活用して実装レベルの知識まで提供しています。
飲食業界(大企業)の現状
上場企業(店舗業種)23社の3月売上を前年対比でまとめた内容では、
居酒屋系やファミレス系、ラーメンの一風堂あたりが特に大幅に下がっており、カフェ ラ・ボエムや権八などの飲食店を展開するグローバルダイニングは売上が前年同期比で半減しています。テイクアウトやデリバリーが強いケンタッキー、マクドナルドは堅調です。吉野家は昨年と同様でモスバーガーも-0.8%に留まっています。
中小規模の飲食店について考える
バズっていた「なぜコロナウイルスは飲食店を殺すのか」noteでは、飲食店は一般的に5年残るお店は2割、10年残るお店は1割と言われており、営業利益で5〜7%前後で上場企業でも3〜4%が中央値であり、利益率の低い業界であるとしています。
コロナでまともに営業できなくなった飲食店を応援したいと、「さきめし」といったサービスがリリースされたり、
無観客形式の“オンライン酒場”にチャレンジされる方がいたりと、
店舗での飲食の機会を自粛しつつ、飲食店を存続させるための取り組みが模索されています。
昨日(4月10日)神戸大学医学研究科感染症内科教授の岩田氏がツイートで共有されていた、数理モデリングによる感染者数の試算をいくつかのシナリオで行った内容などを見ると、
この夏を超えれば収束に向かうといった時間軸ではなさそうです。アフターコロナではなくWithコロナという考え方で長期戦となりそうです。その場合は、昨日都知事から発表された、1店舗50万円、2店舗以上100万円の感染防止協力金やデリバリーへのサポートなども、継続して行われることを願うばかりです。
厳しい現実がある中、マーケティング支援のプロとして私も何かできることはないか?と考え筆を進めました。まずは中小飲食店に共通するマーケティング課題から考えました。
最重要課題はリピーター化
飲食店向けの予約/顧客台帳サービスのトレタを導入した約15,000店舗と予約件数約6,600万件、予約人数約2億8,000万人のデータ(2019年2月時点)の分析では、初めて来店した人が2回目に来る確率はたった10.6%で、一般的な飲食店で2年後に残る顧客数は1,000人に対して2名(0.2%)でした。
初回来店で取りこぼしてしまっている9割を改善することが最重要課題だと思います。
記事で紹介されていた事例のうち、客単価3000円ほどの渋谷にあるカジュアルな居酒屋は、新規顧客が多く、リピーターが少ない状態です。
客単価5000~6000円のバル業態のお店は、ある施策を行ったことで、リピーターが3~4割増え、2年間で坪月商が16万円から33万円と倍になっていました。ある施策とは、顧客の注文や気に入っていたワインや食べ物の志向を記録し、接客をパーソナライズしたことでした。
4人に1人がリピーターという超繁盛店では、予約来店のリピーターには必ず1品サービスするオペレーションを行っていました。
1回来たお客様をもう1回、さらにもう1回来てもらうお客様にすることであり、料理の質は当然ですが、本質的には大きな差がつくものではなく、リピートの鍵を握るのは、接客です。ここで差がつきます。
たとえば、ラーメン屋に行ったら、麺の茹で方が失敗して少し麺がくっついていたとします。こうした時、多少目をつぶって我慢するか迷いますが、店員さんに話したとします。そのとき、真摯に謝罪して頂き交換する姿勢を示されたら、もったいないからこれでいいですよと言って、くっついた麺をそのまま食べて、また来ようと思うかもしれませんが、ちょっとでも嫌な顔をされたら、もう二度と来るかとなります。そうした差がリピートを左右します。
店舗に行った時のサービスの質だけでなく、お客様とのコミュニケーションによってそうした差を作ることができるツールがSNSだと思います。
クーポンに頼らないSNS活用
前述のトレタの記事では、「飲食店の多くはIT化が進んでおらず、気合と根性で切り盛りする人海戦術でなんとか乗り切っている状態」であることも言及しています。
たとえば私が家族でよく行く(今はテイクアウト)近所のお店にインドカレー屋と中華料理屋と焼肉屋がありますが、3店舗ともSNSをやっていません。非常にもったいないと思います。マーケティングのアドバイスをするのであれば、まずクーポンに頼らないSNS活用を提案します。
それは、お客様にとって魅力的な「コンテンツ」とは何かを考え、それを発信することで、リピート率を向上させる施策です。
たとえば、10周年だからいつものメニューを1日だけ「100円で食べれます」など、強烈なインセンティブには心が動きますが、1割引き、2割引きなどありきたりなクーポン連打をされてもお客様には響いかないことが殆どです。私なら即フォロー外します。
でも、こうしたコンテンツなら歓迎です。
たとえばインドカレー屋であれば「ダルカレー(私の好物)のこだわりポイント教えます」とか、中華料理屋「今日の餃子仕込み完了です。(これも我が家のテイクアウトのお気に入り)食感を大事にするために実は〇〇を入れています」とか、焼き肉屋が「今日の焼肉弁当はハラミを増量です。見てください、このサシ!」など、お気に入り店舗の隠れたこだわりなどの情報、コンテンツです。
また、私はこれまでの経験から、コンテンツマーケティングとしてSNSを運用する威力を知っています。有意義なコンテンツを提供することで、来店売上金額を全国で数億円規模で増やしたことや、食品ブランドのコンビニ売上が前年対比で10%以上増えたこともあります。クーポンを軸としたコミュニケーションではなく、ユーザーにとって有益なコンテンツを丁寧に発信したことで得られた成果で、その成果は統計モデルで検証しました。私はそうした分析をZoomで教える活動もしています。
マーケティング投資最適化の教科書(基礎理解編)
この分析は1店舗の飲食店でも可能で、SNSのリーチ数と店舗来店売上数やデリバリー注文数の時系列データを統計的に解析することで、効果を定量化することができます。
話を本題に戻します。チェーン店の全国キャンペーンやクーポン情報は興味がなくても、近所の◯◯店の固有のコンテンツには興味を持つ方は多いと思います。クーポンを連発するSNSではお客様と関係づくりができないので、しっかりとコンテンツを発信することが大事です。先ほど例にあげた「ダルカレーのこだわりポイント教えます」とか「今日の餃子仕込み完了です。食感を大事にするために実は〇〇を入れています」とか、「今日の焼肉弁当はハラミを増量です。見てください、このサシ!」とか、そうした投稿こそがコンテンツです。
初回来店で離れてしまう9割のお客様をつなぎとめ、1年で2~3回来店頂ける客様を1割から2割〜3割に増やすことができれば収益はおおきく改善するはずです。
デリバリーシフト
「なぜコロナウイルスは飲食店を殺すのか」noteでは、デリバリーだけで乗り切るのは現実的ではなく焼石に水であると言及されていました。
冒頭で紹介したモデリングから考える長期的なCOVID-9戦略を読むと、自粛要請が5月6日までだけで終わるとは思えません。外出自粛の長期戦が不可避であれば、デリバリーシフトはより強く求められるはずです。デリバリーでいくばくかの現金収益を得る取り組みを模索しながら、SNSでのコミュニケーションでリピーターを育成するための打ち手を考えてみました。
代表的なサービスとなるUberEatsを例にすると、加盟するのに初期費用はかかりませんが、飲食店には注文総額に対して35%の手数料が発生します。なかなかの料金です。それでも、今は申請が殺到している模様です。原価率などから計算し通常の店舗よりも高めの価格設定をしている飲食店が多いようです。私も、UberEatsにユーザー登録して近所(世田谷区)のカレー屋で注文してみました。お店を探すと、マクドナルドなどチェーン店の多くが目に入ってきますが、中小のお店の登録はまだ少ない印象でした。最寄りの駅で、思い浮かんだ飲食店のうち、登録していたのは1割未満でしたが、登録していた店舗は「UberEats限定メニュー」を用意するなどの工夫をしていました。知っていた店舗の限定メニューには興味がわきました。ただ、これは頼んでみないと分からなかったのですが、使い捨てのトレーの料理の見た目には期待ハズレ感がありました。35%の手数料で利益を出すためには、安価な使い捨てトレーにせざるを得ないと思いますし、配達員も運んでナンボの仕事なので多少盛り付けが崩れるのも不可避だと思います。こればっかりは高望みしちゃいけないと思いました。でも、そのお店の味は良かったので、また頼みたいと思いました。その時に、思いついたシンプルな打ち手が同梱チラシです。
同梱チラシによるフォロワー獲得
初Uberとなったカレーには何のチラシも入っていませんでしたが、同梱チラシをこんなクリエイティブで行えば有効だと思いました。
・(状況が落ち着いたら)ぜひ店舗にいらっしゃってくださいといったメッセージ、店舗や店員さんの写真など、SNS投稿する方の顔が見える内容
・SNSで発信している内容を記載しフォローを促す
・そのほか店舗固有の押しメニューなど
ピザや寿司などの全国宅配チェーンのチラシは見慣れたものなので、驚きはありませんが、デリバリーで開拓し、はじめて注文した飲食店のチラシならば見てみたいと思いませんか?
報道を見て飲食店が大変なことは皆よく知っています。寄付するまでの経済的な余裕はなくても、外食を控える代わりに、プロの飲食店の味を食べて応援したい方は多いはずです。それを踏まえた中小飲食店ならではの暖かみのあるクリエイティブの同梱チラシです。
同梱チラシで獲得できたフォロワーは商圏エリア内(配達可能エリア内)のリピーター予備軍です。フォロワーを1,000人にできて半分の500人が単価3,000円で平均年2.5回利用すれば450万円の売り上げになります。実店舗の営業がまともに行えるようになって単価が8,000円にできれば年間1,000万円の売り上げになります。1日20件のデリバリーで4割の8名がフォローしてくれたら週5日で40名、およそ半年でフォロワー数1,000名を達成できます。
デリバリーの収益は実店舗の収益と比べたら焼け石に水かもしれませんが、実店舗で通常営業できるようになるまでの取り組みとして、いくばくかの現金を得ながらリピーター予備軍を育成するコミュニケーション活動と捉えれば、有意義なものになるのではないでしょうか?
「なぜコロナウイルスは飲食店を殺すのか」noteでは、こうした話で結ばれています。
思えば、飲食店には色々な幸せや活力をもらってきました。こうした状況で店舗には行けなくても、飲み会やランチもZoomなどで行う機会が増えていますので、たまにはデリバリーを頼んで会話のネタにしてみる、家族でたまに行く外食をデリバリーに置き換えてみる、そんなことから着手してみたいと思います。以上となります。お読み頂きありがとうございました!
【更新情報2024年5月26日】
「その決定に根拠はありますか?」
確率思考でビジネスの成果を確実化するエビデンス・ベースド・マーケティング
戦略を導く為の「エビデンスの作り方」をテーマに、これまで体系化してきたノウハウを紹介したマーケティング・インテリジェンスの書籍を出版致しました。5問の調査でTVCM(施策)→コンビニで商品を見た(要因)→売上がいくら増えたか?→年間16.67億円(効果)の様に経路ごとに構造的に効果を把握する国際特許(PCT)を出願した分析法など、確率モデルや因果推論をプロジェクトで実際に活用している方法を特典の動画講義も活用して実装レベルの知識まで提供しています。