確率思考の戦略論の数式でアプリと広告の効果を把握@外食チェーン
「プレファレンス(消費者の選好性)」によって市場構造が決定する法則や、NBDモデルという数式などが紹介された「確率思考の戦略論」に影響を受けた方は多いと思います。
このnoteでは、書籍で紹介された数式を用いて10問の調査を分析することで、TVCMなどの施策によってターゲットごとに売上がどれだけ増えるかを定量化する画期的なマーケティング分析法の「顧客理解 MMM(マーケティング・ミックス・モデリング」を共有します。
顧客理解MMM紹介ページ
ブランドの認知度や好意度、利用意向などの変化(ブランドリフト)を観測するインターネット調査の際に、ひと手間かけるだけで、
TVCMなどのマーケティング施策ごとに
ブランドごとに(自社だけでなく競合も)
ターゲット(年代性別)ごとに
どれだけ売り上げが増えるかわかります。
分析テーマは外食チェーンです。たとえばマクドナルドのアプリによる店内の飲食回数増加による推計金額(2021年10月)は11.7億円でした。TVCMやネット広告などそれぞれの施策ごと、ブランドごとに推計することができる画期的な方法です。
2024年6月26日更新
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はじめに
2020年3月以降、外食のテイクアウトやデリバリーを使う機会が増えたのはないでしょうか?本noteでは、デリバリー、テイクアウトと店内で食べる需要のそれぞれを定量化し、外食業界の市場構造を把握します。
2021年10月末に全国20歳から69歳男女2万人に調査したデータを分析します。マクドナルド、ケンタッキー、モスバーガー、丸亀製麺、スシロー、ガスト、吉野家、計7ブランドの外食チェーンを調査対象にしました。
2つのブランドについては、さらに詳しく分析します。
外食業界最大手のマクドナルドです。もうひとつは、森岡毅氏の刀社が支援した丸亀製麺です。それぞれの需要を分解し、また、アプリと広告(TVCMとネット広告)による効果を横並びで把握します。
店内、デリバリー、テイクアウトとドライブスルー(以降「テイクアウト」)3カテゴリーの需要を把握
「あなたは最後にいつ、〇〇しましたか?」という設問から得た結果を分析することで、消費者行動の回数や人数を推計することができます。
今回は調査タイミング2022年10月末からさかのぼって31日間、10月1ヶ月の需要を推計します。
2つのブランドそれぞれ「店内」「デリバリー」「テイクアウト」それぞれ最後にいつ食べたかを聞いた結果から分析します。
まずはマクドナルドです。
利用人数と利用回数がもっとも多いのは店内です。次に多いのはテイクアウトです。人数も回数も店内に迫ります。一方デリバリーは店内の1/3以下です。少ない気がしますがどうでしょうか?のちほど丸亀製麺と比較します。
平均回数は1ヶ月に利用した方1人あたりの回数です。これはカテゴリー間、性別年代で大きな差はありません。しかし、Mという値はかなり違います。1番Mの値が大きいのは店内の20代男性で0.72です。
MはNBDモデルという消費者行動の確率分布の数式に関わる値です。マーケティング戦略を決めるための重要な値でプレファレンス(消費者の選好性)に対応するものです。
確率統計の専門用語で表現すると、消費者1人あたりの購買などのアクションをする回数の期待値です。たとえばサイコロは1から6の目がありますが、出る目の平均は3.5です。これがサイコロの目の期待値です。
サイコロを振るとそれぞれの目の値が出る確率は均等で1/6です。その確率に1から6までの値を掛け合わせます。
1の目・・・ 1×1/6=1/6
2の目・・・ 2×1/6=2/6
3の目・・・ 3×1/6=3/6
4の目・・・ 4×1/6=4/6
5の目・・・ 5×1/6=5/6
6の目・・・ 6×1/6=6/6
これを足しあげた数字21/6=3.5がサイコロを振ったときの目の値の平均であり期待値です。
NBDモデルではある一定期間に消費者が買う、調べるなどのアクションを行う人が何%になるか?確率を求めることができます。これがアクション回数別の市場浸透率(Pr)です。
確率思考の戦略論で紹介された数式が以下です。左辺のPrを求めるものです。
Prと購買回数を掛け合わせます。サイコロの目と違い、Prは一定ではなく、NBDモデルが前提とする法則に従って変化します。以下は説明用に抽象化したものです。
Pr(0) 0回買う人が60%→0
Pr(1) 1回買う人が20%→0.2
Pr(2) 2回買う人が10%→0.2
Pr(3) 3回買う人が5%→0.15
Pr(4) 4回買う人が2.5%→0.1
Pr(5) 5回買う人が2%→0.1
Pr(6) 6回買う人が0.5%→0.03
Pr(7) 7回買う人は0%→0※8回以上も同様に0
太字の数字の合計0.78がMです。消費者1人あたりの購買回数の期待値です。購買回数を人数で割った値です。1.2億人の市場で1ヶ月に1,200万回購買される商品の月間のMは0.1です。1人あたり0.1回の購買の発生が期待できます。
Mがわかれば確率からどれくらいの購買が発生するか予測することができます。
20代男性のMは0.72でした。人口は6,601,265人です。これに0.72を掛け合わせた4,752,910回が2021年10月のマクドナルドの店内での飲食の回数の推計値です。
次は丸亀製麺です。
マクドナルドのデリバリーの利用人数と利用回数は店内の1/3で少ない印象がありましたが、丸亀製麺のデリバリーは店内の1/4以下です。テイクアウトは店内の1/3以下です。
マクドナルドのテイクアウトは店内に迫る購買回数でした。2つのブランドを比較すると、マクドナルドはテイクアウトとデリバリーの比率が相対的に高いことが分かりましたが、
他に調査した5ブランド(ケンタッキー、モスバーガー、スシロー、ガスト、吉野家)と、その他の外食の需要の全体から見ると、どうなっているでしょうか?
7ブランド全てと、その他の需要も含めた全体像
7ブランド以外のその他で最後にいつ(店内/デリバリー/テイクアウト)食べましたか?という調査も行っていたので、それぞれ分析して集計し、全体の需要を把握します。
緑色の表は、3カテゴリーそれぞれの月間の飲食回数をその他と7ブランドで合計し、全体の需要を把握しました。
水色の表は、各カテゴリーの回数に対するシェア(%)を記載しています。店内のその他は51.0%、テイクアウトのその他が39.2%ですが、デリバリーのその他が27.8%で、マクドナルドのシェアは25.5%もあります。テイクアウトのシェアも29.9%で突出しています。
UberEatsでは、マクドナルドの配達が多く、稼ぐのに効率が良いので、配達パートナーの方が店舗周辺で待機するマクドナルド地蔵(マック地蔵)という言葉もあるそうです。
店内とテイクアウトの回数がほぼ同じなのはマクドナルドとケンタッキーフライドチキンだけで、突出してテイクアウトが多いことが分かります。
あなたは最後にいつ〇〇しましたか?を聞くことで、需要全体の中で、各ブランドの相対的なシェアがわかります。
(情報量が多すぎるのでここでのデータ掲載は控えますが)7ブランドの年代性別ごとにMを見ていくことで、ターゲットの強み弱みを把握することができます。
マーケティングサイエンスの専門家バイロン・シャープ氏の著書「ブランディングの科学」で紹介されたダブルジョパディの法則では、市場で利用している人が多い、市場浸透率が高いブランドほど、購買頻度も多いことが過去の研究から証明されています。
なぜそうなるかというと、強いブランドほど消費者の頭の中で想起される確率が高いからです。その確率が高いので、利用者数も利用頻度も増えるわけです。
私の家からは自転車で5分くらいで行ける距離に2軒のマクドナルドがあり、自転車で15分~20分の少し離れた駅も含めると4軒のマクドナルドに行くことができます。スーパーやコンビニで売られている商材の配架率に対応する買いやすさ、店舗数が多いマクドナルドには、利用しやすさがあります。子供がハッピーセット欲しいと言い出したり、家内がお昼マックにしよっか?と提案したり、お店を通りがかったり、TVCMを見て、ふと食べたくなったり。わが家では、会話にでてくる回数も実際に利用する回数も1番の外食チェーンです。
確率思考の戦略論でプレファレンスを高め、Mを増やすためには、水平拡大が特に重要であると語られていました。これは、バイロン・シャープ氏が、書籍で再三に渡って主張していた、ダブルジョパディの法則に対応しているのではないかと感じました。ブランディングの科学と確率思考の戦略論で語られていることを見比べると理解が深まると考え、繰り返し読んで分析をして勉強中しています。
この法則を踏まえ、ブランドの明確な利用意向がある人を増やすと、Mはどれだけ変化するのか?という観点から分析し、NBDモデルをマーケティング施策の効果把握に応用する方法を紹介します。
アプリと広告(TVCMとネット広告)の購買回数の貢献はそれぞれどれくらいあったのか?
わが家は、マクドナルドに行くのは休日のランチでテイクアウトが多いです。家内がアプリを使ってますが、事前に注文しておけば、待たずに買うことができて、店内で食べるときも待たないで済むので、利用するたびに、その利便性に感心しています。
全てのアプリの中でもユーザー数トップクラスだと思いますが、売上にどれだけ貢献しているのでしょうか?
アプリは、利用頻度を高めてロイヤルユーザー化する役割で、TVCMやネット広告は、主に、ブランドを思い出させたり新しい商品やキャンペーンを伝える役割だと思いますが、アプリと広告はどちらが売上への貢献が多いのか、横並びで把握します。
まずはマクドナルドの分析結果です。3カテゴリそれぞれの購買回数のうち、それぞれの施策による貢献回数が何%を占めるか集計しました。
マクドナルドは3カテゴリともにアプリの貢献数がもっとも多くなっています。特にテイクアウトが多いです。待ち時間無しで買えて便利だからでしょうか?
次は丸亀製麺です。
こちらは、3カテゴリーともにTVCMの貢献が1番多いです。アプリの利用者数がマクドナルドと比較して少ないことから、アプリの貢献比率が低くなっています。
ここまで紹介した施策ごとの購買回数の貢献を推計する方法は、
・その施策にどれだけの人数が影響されたのか?(広告は接触者数、アプリは利用者数)
・どれだけの割合の人が態度変容したのか?(今回は利用意向5段階尺度のTOP回答)
・態度変容により購買回数が何回増えたのか?(消費者行動の確率分析から)
以上3つの係数を掛け合わせることで推計しています。ここからは、分析法を解説していきます。
どんなデータから導いたか?
全国20歳から69歳男女2万人に行った消費者調査データです。Freeasyというセルフリサーチを使いました。
ここから紹介する結果は、年代性別と関東近畿など全国7エリアの人口を加味した重み付け集計値です。
1問目はブランドの助成想起です。
どのブランドもほぼ認知100%です。
Q2からQ4までは、3カテゴリに分けて、それぞれのブランド認知者に直近で食べたタイミング(または食べたことがない)を聞きます。このデータをリーセンシーデータといいます。このデータからExcelのソルバーで計算することで、アクション回数の分布を把握することができます。
Q2は店内です。
Q3はデリバリーです。
Q4はテイクアウトです。
Q5は、対象7ブランド以外のその他の需要を把握するための質問です。
Q6は好意度です。今回紹介する分析法はブランドの利用意向が高い人を増やすと食べる回数がいくつ増えるかを推定するためのものですが、好意度や興味などの指標で推定することもあります。
好意度は、効果検証のときに、広告接触者やアプリを利用した人としていない人の単純比較で起こる可能性のあるバイアスを調整するときにも活用します。
Q7は利用意向です。明確な利用意向がある方(「利用したい」と回答する方)を増やすと購買回数はいくつ増えるか?という考え方で効果を推計します。
Q8は、対象メディアの利用時間が多い人ほど対象広告に接触しやすく、購買しやすい(または購買しづらい)という影響によるバイアスを分析時に調整するための質問です。
Q9は直近1年で見たことがある広告を聞いた集計値です。今回はインターネット広告とTVCMを分析対象とします。
Q10はアプリの効果を推定するためのもので、「今も使っている方」を分析対象とします。
消費者調査から、TVCMなどの施策ごとに、アクション貢献数を推計する方法
マーケティング施策による購買回数の増加を把握して、投資判断に活用する分析法をこのパートで紹介します。
ブランドの利用意向の変化とMの変化から効果を推計するために、因果推論と確率モデルの分析を併用します。
傾向スコア分析(因果推論の分析)
TVCMなどのマーケティング施策によってブランドの利用意向がどれだけ増えたかを推定する際に、TVCMを見た人々(介入群)と見なかった人々(対照群)の利用意向を単純比較してその差分をTVCMによる効果と判断することがマーケティングの現場で行われていますが、
TVをよく見る人や、ブランドロイヤルティが高い方のほうがCMを記憶しやすく、かつ利用意向も高い傾向にあるなど、原因(TVCM)と結果(利用意向)の双方に影響を及ぼす要因によるバイアスが発生していることがほとんどです。
単純比較の介入群と対照群の利用意向の平均値の差分は、「TVCMによる効果」だけでなく、原因(TVCMを見る)と結果(利用意向)の両方に影響を与えている要因の影響を含んでいます。
こうした原因と結果の双方に影響する要因を交絡因子または共変量といいます。
これによるバイアスへの対策が必要です。無作為抽出によるランダム比較実験ができれば、介入群と対照群の偏りがない状態で比較できますが、お金と手間がかかります。
そこで、分析によって実験に近い状態を作ってバイアスを調整する、因果推論の分析手法のひとつが傾向スコア分析です。
介入群となる確率を予測する分析(ロジスティック回帰分析など)を行い、それぞれの調査モニターに介入群となる確率(傾向スコア)を付与します。
このスコアを元に共変量が同じくらいの対象者を介入群と対照群のそれぞれから抽出し共変量のバランスを取った2つのグループで利用意向を比較します。ここでは、IPW推定量という集計方法を使っています。
介入群と対照群の共変量のバランスの確認(標準化した差のプロット)
Freeasyモニターの基本属性(世帯年収/職業/結婚/持ち家か賃貸か/子供有無/年齢/地域)と、推定したい効果(好意度)と別のブランドロイヤルティ指標(今回は好意度)と、TV、またはインターネットを1日に何時間見ているか?を共変量として2つのグループのバランスをとって、利用意向を比較します。
マクドナルドのアプリによる利用意向UPの効果検証で、アプリを今使っている人とそうでない人の「利用したい」回答率の差分です。
単純比較とそれ以外の結果(傾向スコア分析)では、大きな差があります。
このケースでは、単純比較は効果の過大評価をする可能性が高くなります。
傾向スコア分析を年代性別ごとに行い、アプリ利用者のうち何%が態度変容したかを推計し、利用人数にかけ算して態度変容した人数394.8万人を把握します。(ここではIPW推定量ATTを参照)
ガンマ・ポアソン・リーセンシー・モデル(確率モデル)
あなたは最後にいつ、○○しましたか?と聞くことでNBDモデルの式にあてはめた予測値と実績値(期間別浸透率Pn)の予測誤差を最小にするMと、Kという分布の形を決める係数をExcelの計算ツールのソルバーで計算します。確率思考の戦略論で紹介されていたガンマ・ポアソン・リーセンシー・モデルという分析です。
Mは1人あたり、一定期間でブランドが選ばれる確率であり期待値でした。
これを年代ごとに明確なブランド利用意向がある方(「利用したい」と回答)と、それ以外の方に分けて推計し、2つのMの差分をとります。
この2つのMの差分が、好意度が高い人を一人増やした際に、期待できるアクションの増加数です。
態度変容した人数に、差分Mを掛け算することで月間で何回アクションが増えるかを推計します。
右下の補正係数(1.5倍)で掛け算した234万回が、マクドナルドのアプリ利用によって増えた2021年10月1か月の店内での利用回数増加の推定結果です。ここで1.5倍にしている理由を説明します。
同伴者のアクション数を考慮
この方法で考慮できていないのが同伴者の飲食の回数です。
この分析では、施策の接触者または利用者本人の態度変容によって増えたアクション数を推計しています。
仮にアプリを利用して態度変容した方がマクドナルドを利用した時に、一人で行くときもあれば、複数で行くときもあると思います。同伴者分の飲食の回数は推計結果に入りません。
ここでは、必ずしも二人以上で行かないとして暫定で1.5倍にしました。
この係数を精緻に導くには自社の分析の場合は、会員データなどをヒントにします。競合ブランドの場合は、一人で最後にいつ当該店舗を利用したか?複数の人数でいつ当該店舗を利用したか?それぞれのリーセンシーデータを分析するなどして、複数の人数で利用する割合を把握すれば補正係数のヒントを得ることができます。
1人当たりの利用金額をかけ合わせて効果を金額換算します。暫定で500円とすると、アプリ利用によって増えた店内での飲食への貢献金額は15.6億円です。
効果の金額換算は、
・その施策にどれだけの人数が影響されたのか?(接触者数※消費者調査から広告を記憶していた人数、アプリを今利用していると答えた人数)
・どれだけの割合の人が態度変容したのか?(ここでは好意度5段階尺度のTOP回答)
・ポジティブな態度変容によりアクションは何回増えるのか?(消費者行動の確率分析より)
以上の3つの係数と同伴者を考慮した補正係数(暫定で1.5倍)と購買単価500円を掛け算して推計しています。
以下は、TVCM、ネット広告、アプリの各施策が、2ブランドの利用回数(店内のみ)を増やす貢献に関わる指標をまとめたものです。
ここで紹介した分析結果はあくまで一例です。
より詳しい分析結果は、2021年10月末に行った2万人の外食チェーン調査と、2022年1月中旬に行った2万人のテーマパーク調査、合計4万人の調査分析をまとめた38ページのレポートPDFをご覧ください。
導いた効果をどのように解釈するか?
導いた効果の解釈は、理論上は、「調査時点から直近1年間で認識された各施策(TVCMなど)による調査以前1ヶ月の効果」です。
理論上としたのは、調査(Q9)では「直近1年に見た記憶がある施策」と聞いていましたが、実際には1年より前に広告などを見ていたが、1年以内に見たと勘違いしている回答を含む可能性が多くあるためです。
直近1年ではなく、調査時点までユーザーが見てきたTVCM、ネット広告、利用してきたアプリの経験の累積による調査以前1ヶ月の効果と捉えるほうが現実的かもしれません。
確率思考の戦略論では森岡氏がガンマ・ポアソン・リーセンシー・モデルによってUSJ最大の需要期だったハロウィーン時期の売上を2倍以上に伸ばせる余地があると予測し、その時期に注力する戦略から導いたハロウィーン・ホラー・ナイトが大ヒットとしたエピソードが紹介されました。
最後にいつ○○したか?の調査結果は聞く時期によって変化します。いつ調査するかによってMが変化します。
たとえば、12月初旬と1月初旬それぞれで、最後にいつケンタッキーを食べましたか?と聞いたリーセンシーデータから1ヶ月の需要を推定した場合、明らかに後者のMが多くなります。クリスマスに食べた方が多くなるので、例えば2週間以内や1ヶ月以内などに食べたと回答する方が多くなるからです。調査時期によって変化する結果から、月次などで需要の変化を捉えることができます。
森岡氏がハロウィーンに注力したように、月次での需要の変化を捉えることができます。マーケティング施策による効果の変化も捉えることができます。
季節性とマーケティング施策による市場のダイナミックな変化を構造的に捉えることが、この分析の真骨頂だと思います。
まとめ
アプリなどのCRM施策を、利用している人と利用していない人を単純比較して、利用意向や好意度を比較したときの差分はアプリによる効果だけではありません。ブランドのロイヤルティが高い人ほど、アプリを利用し、購買回数が多い傾向にある、こうした交絡または共変量による影響を含みます。
バイアスを調整するために、傾向スコア分析で確かな態度変容率を割り出し、態度変容した人数を推計してから、リーセンシーデータを利用意向が高い方とそうでない方に分けて分析した2つのMの差分をかけ算することで、マーケティング施策によるアクション数の増加を推計します。
アプリは、利用頻度を高めてロイヤルユーザー化する役割だと思います。主に、ブランドを思い出させたり新しい商品やキャンペーンを伝える役割の広告(TVCMとネット広告)とどちらが売上への貢献が多いのか、横並びで把握します。
把握すべきは、もし、アプリを提供していなかったら、もし、TVCMを投下していなかったら、それぞれ売上はどれだけ減るのか?現実には観測できない、反事実の売上と現実の売上との差分を知ることです。それが、アプリとTVCMの因果効果です。
マーケティング上の役割に関係なく、これを横並びで評価することが重要です。ここで紹介した分析が役に立つと思います。
森岡 毅 氏の著書から引用すると戦略とは、
購買などのアクションの確率から需要を把握し、季節性とマーケティング施策による市場の変化を捉えることがこの分析の真骨頂です。データドリブンに戦略を描くマーケターの武器となるはずです。
まずは、消費者調査に「最後にいつ○○しましたか?」という設問を加えてみませんか?
分析方法を共有するオンライン講義(無料版+有料版)
いかがだったでしょうか?
10問の調査から、
マーケティング施策ごとに
ブランドごとに(自社だけでなく競合も)
ターゲット(年代性別)ごと
効果を定量化して把握できます。
体系化したノウハウを顧客理解MMM(マーケティング・ミックス・モデリング)と表現しています。
顧客理解MMM紹介ページ
この分析を使いこなせる方を一人でも増やすお手伝いがしたいと考え、2020年4月から約700人に受講頂いた2時間のデータ分析講義に基礎編(1,000円)という講義を新設し、これまでの講義(2時間7,800円)を実践編としました。基礎編の講義は、YouTube動画+演習Excelデータで無料配布します。ご興味頂ける方はぜひアクセスしてみてください。
無料配信ビデオ講義90分(Zoomビデオ+Excel演習データ+PDFテキスト)ダウンロード
ストアカ講義2時間
ストアカについては不定期開催となります。「受けたい」登録数に応じて開催を検討しております。企業向け研修も行っております。
傾向スコア分析について
・「交絡」「共変量」の違いとは?
・マッチング法とIPW推定量とは?
・強く無視できる割り当てとは?
・最新のCBPSとは?
・どんな風に活用できるか?(コンセプト調査や顧客調査のバイアス補正)
こうしたことを網羅して紹介する120分のビデオ講義を公開しました。こちらも演習データは弊社申し込みフォームで配布しています。
傾向スコア、まだ浸透していないので活用をビジネスに広げたいという考えをnoteにまとめました。(2022年5月9日更新情報)
効果が正しいか?他の手法による答え合わせ
2018年に発売した拙書「Excelでできるデータドリブン・マーケティング」では時系列データ解析による効果検証のマーケティング・ミックス・モデリング(以降「MMM」)をExcelで行う方法を体系化し、アドストック効果や投下量による飽和する非線形な影響を考慮した分析を行えるようにしました。相応の難易度のため、ハードルを下げてMMMの分析を体験できるようにした「統計モデルで効果検証」の講義では、映画「天気の子」の検索数やツイート数などの時系列データをオープンデータから整形した演習データで、売上を説明する分析を学ぶことができます。飲食の様に購買頻度が高い商材は、直接売上を説明する精度の高い分析モデルを構築することができることも多いです。
また、TVCMのように、投下エリアと、非投下エリアを分けて分析できる可能性があるときに、それぞれのエリアでTVCMの実施前後の売上の変化を比較することで、TVCMをやっていなくても実施後に変化する売上の目星をつけて、TVCMによる売上の変化(介入効果)を捉える、差分の差分法や、Excelの基本機能でできる簡単な効果予測計算なども共有します。
本腰を入れてTVCMの因果効果を分析する場合は、インテージ社のシングルソースパネル®︎など、行動ログから、TVをつけていた、またはタイムシフト視聴していたデータをもとに分析することをオススメします。「岩波データサイエンスvol3」ではゲームアプリの例で同社のデータを使った傾向スコアの分析例が紹介されていて、読者用のデモデータも提供されています。専門的な内容なので、はじめて因果推論を学ぶ方は、ビジネス書の文脈で書かれた「原因と結果の経済学」もオススメです。
おまけ(確率モデルによる購買回数推計の答えあわせ)
NBDモデルを活用する際は、調査で起こりえる様々なバイアスやExcelの最適化計算で起こりえる問題を調整して、実態に即した推計値になる様にキャリブレーションしています。
今回、正解データとしたのはマクドナルドの全店売上です。同社のHPで発表されていた2020年12月期の売上は5,892億円です。単価500円として9,820万回が月間平均です。
のちほど掲載する、Excelソルバー計算時のキャリブレーション設定をしないと、月間の購買回数の推計値は1億を軽く超えてしまいます。
平均所得の半分に満たない、相対的貧困にある方は全人口のおよそ15%と言われています。また、インターネット調査はモニターも希望者かつ、調査テーマもみずから選んで回答するかを判断します。日本全体を母集団としたとき、調査テーマに興味がある人に偏る傾向があります。それを考慮した補正や、ここで解かせる最適化問題は最適解の保証がない非線形な問題で、計算時の初期値の違いによりエラーがでるなどExcelの最適化計算ツールの機能上の限界を踏まえた設定を行い、計算しています。
2024年6月26日更新
新著「その決定に根拠はありますか?」Amazonでの販売を開始しました!
MMM活用支援
マーケティング投資予測モデル支援例のPDF資料です。1クリックでダウンロードできます。※資料は適宜更新します。