モデルC予測グラフ

マーケティングミックスモデリングを1000万円近いソフトではなく「Excelでできる」様にしたワケ。

※このnoteは2019年に公開していたnoteを以下の最新情報を加えて再公開(2023年12月21日)したものです。

【2023年12月公開】高機能なMMMツール(無料)Robyn 徹底解説

(かつて1,000万円近い欧米製のソフトを使っていましたが)今はMETAやGoogleからオープンソースで使える高機能なMMMツールがあります。METAのMMMツール「Robyn」を応用してデジタルマーケティングで広告→指名検索→コンバージョンのアシストを考慮したモデルで最適化を行う方法を2時間のYouTube講義で徹底解説しています。

【更新情報2024年5月26日】

「その決定に根拠はありますか?」

確率思考でビジネスの成果を確実化するエビデンス・ベースド・マーケティング

戦略を導く為の「エビデンスの作り方」をテーマに、これまで体系化してきたノウハウを紹介したマーケティング・インテリジェンスの書籍を出版致しました。5問の調査でTVCM(施策)→コンビニで商品を見た(要因)→売上がいくら増えたか?→年間16.67億円(効果)の様に経路ごとに構造的に効果を把握する国際特許(PCT)を出願した分析法など、確率モデルや因果推論をプロジェクトで実際に活用している方法を特典の動画講義も活用して実装レベルの知識まで提供しています。



マーケティングミックスモデリングを1000万円近いソフトではなく「Excelでできる」様にしたワケ。


本noteで紹介するのは時系列データを統計的に解析しTVCMやインターネット広告などのマーケティング施策によって売上がいくら増えるかを定量化する「マーケティング・ミックス・モデリング」という分析です。以降「MMM」とします。得られた予測モデルから売上を最大化する、または同じ売上を達成するための投資額を最小化するなどの最適化予算配分を試算できます。年10億円マーケティング投資をしている企業が最適な予算配分により10パーセント効果を改善できれば1億円の価値が生まれます。

MMMを行う為に1年1ライセンス1000万円近い専門ソフトを使っていたこともありましたが、ある時期からExcelのマクロを組んで自らが使いやすい分析ツールを作って分析する様になりました。昨年、そのExcelを付録にし、分析しながらマーケターがMMMを学べる書籍を出しました。

私は広告会社やデジタルマーケティング会社コンサルタントの立場で企業のマーケティングや宣伝を担当するマーケターの方にMMM分析を提供してきました。ある時から分析受託よりも書籍を出して世のマーケターにノウハウを共有することに注力しました。

なぜか?

MMMを紹介するセミナーなど何度か行い、多くのマーケターとお会いし、ご興味頂いた方に説明したり、受託して分析結果をご説明する場面を数多く行ってきましたが、「時系列データを解析してそこから効果を導く。」部分について「腹落ち」して頂く為には、感覚的な理解が必要だと感じたからです。

クライアントに限らず多くのマーケターが実務に役立つ統計や多変量解析などを勉強できる書籍でノウハウを共有し、腹落ちして頂く環境を作ることで、MMMを一般化できないか?そのほうが生産性が高いはずだと考えました。

そこで、誰もが分析できる様に身近なExcelでできる分析手法の開発に時間を注ぎ、3年かけて書籍を出しました。マーケティングサイエンス寄りのデータサイエンティストの方からは「Excelでここまで分析出来る様にしたんですか!?」と驚いて頂きました。使いやすいものに出来たと思います。書籍は「統計学が最強の学問である」シリーズ著書、西内啓氏に推薦を頂き、社会情報サービス社の統計検定1級の方に監修を頂きました。分析をテーマとした書籍であるが故「中立的なスタンス」を大事にしたので、書籍内での露骨なアピ―ル表現は避けましたが、ここで申し上げさせて頂きます。


以降、書籍で学べるMMM分析がどんな内容か?はしょって紹介します。

書籍ではアルコール飲料と通販の2つの事例を紹介しています。週単位で2年強の時系列データを解析し予測モデルを探索します。基本となる解析アルゴリズムは回帰分析です。

Excelの基本機能の回帰分析は操作に時間がかかります。説明変数の最大数が16までしか使えません。(書籍の手法では20まで対応可)また、多重共線性というエラーを把握する為のVIF統計量を計算出来ません。これらをクリアする為に分析の手順を汎用化しマクロを組んだ【MMM_modeling】Bookを予測モデル探索に使い、そのモデルのデータを貼り付けた【MMM_simulation】Bookで予算配分を試算する手法を開発しました。

アルコール飲料の事例では【MMM_modeling】Bookで売上本数を目的変数としてTVCM、紙媒体、OOH(交通や屋外広告などのアウトオブホームメディア)、WEB広告など、企業が効果を把握したい施策で、自らがコントロールできる内部要因と売上に影響するが自らコントロールはできない外部要因(季節要因等)を説明変数として、目的変数の変動をどれだけ説明出来るか?予測精度の指標となる自由度調整済み決定係数を8割以上にしていき、予測精度の高いモデルを探索していく過程を演習で実行していきます。

こんな感じ(下記GIF動画)でサクサク分析し、予測精度の高いモデルを探索していきます。

※解像度が粗く見える場合は画像をクリックしてみてください。

画像1

初めにCMなど4つのマーケティング施策だけを説明変数にした予測モデルを作りました。折れ線グラフの予測値(赤線)と実績値(青線)のズレが大きい状態です。次に正月、ゴールデンウィーク、お盆や月次の季節性を考慮した外的要因の変数を加えて(14の説明変数)で予測モデルを作り直しました。ズレが小さくなっています。

MMM_modeling】Bookのポイントは翌週または翌々週、最大10週先まで効果が続く可能性を考慮する為の「残存効果」と週ごとの投下量の増加に伴い効果が減衰する「非線形な影響」を加味する為の複雑な計算をExcelの数理最適化計算ツールのソルバーを使って実現したことです。こんな感じ(下記GIF動画)でグリグリ計算します。

画像2

予測値と実績値のズレを少なくする(正確には残差と言います。残差の二乗値の総合計の値を最小化する)ことを目的とした最適化計算を行っており、画面左下の数字がグリグリと小さい値に変化していきます。各説明変数の1単位が目的変数にどれだけ影響するかを導く為の係数と切片、残存効果と非線形な影響の基準値の最適解を同時に探索して、ズレを最小化する値を探索しています。

【モデルA】TVCM、紙媒体、OOH、WEB広告の4つの変数だけ用いた場合

画像3

【モデルB】外部要因(季節要因)を加えた場合

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【モデルC】さらにソルバー計算で残存効果と非線形な影響を加味した場合

画像5

予測精度の目安となるのが「補正R2(自由度調整済み決定係数)」です。赤線で囲んだ部分です。

※補正R2はExcel独自用語で統計用語として正しいのは「自由度調整済み決定係数」です。

モデルAでは0.389637、モデルBでは0.8046460、モデルCでは0.862111と上がっているのが分かると思います。各説明変数が目的変数となる売上をいくつ増やすか?計算したものが効果数(青線で囲みの部分)です。TVCMの効果数はモデルAでは23,761,417本。モデルBでは23,566,772本とあまり変化がありませんが、残存効果と非線形を加味したモデルCでは60,999,154本まで増えています。モデルCではTVCMの残存効果(E10セル)の値が60.02%となっています。残存効果と非線形な影響を加味しないモデルA・BモデルCでは効果数に2倍以上の大きな開きが出ています。

モデルA・BはExcel標準の回帰分析でも(頑張れば)実行できますが(このケースでは)モデルCの様な残存効果などを加味したモデルを作らないと、TVCMの効果を過少評価してしまうことになります。

※ここまで紹介した手順は書籍の演習を大幅に割愛したもので、書籍では月次の季節性を考慮するダミー変数の作り方、変数選択、タイムラグの加味、残存効果や非線形な影響をどの様に計算するか?計算の為のソルバーの設定方法などについて詳しく解説しています。

次に最終的に使用したモデルのデータを【MMM_modeling】Bookから【MMM_simulation】Bookに貼り付けてグラフを生成します。

※以降は書籍で紹介する演習手順を参照します。参照ページ数は割愛していますが図の番号から引用箇所を特定できます。

画像6

横軸が週あたりの投下金額、縦軸が各施策がアルコール飲料の売上を増やす本数です。傾きが最も急なWEB広告が最も効率よく売上本数を増やすことになります。

このモデルを基準とし、各施策の投下量の実績を100パーセントとした際にそれぞれ何パーセントに変更し、更に全体の予算は実績予算を超えないという制約をかけ、売上数を最大化できるか?を目的関数としてソルバーで最適化計算を行うと下記の結果になります。

画像7

WEB広告(現状の7倍)に配分しましょう。。。。という極端な結果です。

実現したかったのは最適化の計算において現実的な前提を加えチューニングする試算です。例えば、WEB広告はリスティングやDSPなど入札制で機械的に値付けされる運用型広告が主体となる為、一般的に投下量を増やすとクリック単価など仕入れ単価が上がる傾向にあります。反面、TVCMなどは人的な交渉による為、一般的に投下量を増やすことで単価を下げやすくなります。効率だけでなく、違う理由から、ある施策については実績に対して70パーセント以上は投下する。といった制約をかけることもときに必要です。

そうした前提となる補正式や制約条件を加えながら、最適な予算配分を算出し直していく手法について紹介ています。最終的な試算結果が下記です。

画像8

納得感を得られそうな配分案になったのではないでしょうか?実績予算と同様の予算で10パーセント売上本数が増える見込みの配分案となっています。精度の高いモデルが得られてから行う予算配分の最適化においても、腹落ち感のある配分案を作るにはチューニングが必要なのです。

本noteのタイトルとした、

マーケティング投資配分最適化分析を1000万円近いソフトではなく「Excelでできる」様にしたワケ。についてまとめると、

1.MMMを一般化したい。だからExcelで分析できる環境用意し、書籍で演習しながら学べる様にした。

2.その為に効果な分析ソフトの使用経験から残存効果や非線形な影響も加味するモデリングツール【MMM_modeling】Bookを作った。

3.運用型広告とマスメディアの特性を踏まえた予算配分試算が出来る【MMM_simulation】Bookを作った。

マス広告がデジタル売上にどう寄与しているか?デジタル広告が実店舗の売り上げにどう寄与しているか?などクロスチャネルでの効果検証ほか、活用の切り口は色々あります。マーケターの皆さんが施策の純増効果を定量化して把握して、意思決定を行うことを一般化していくために、ここで紹介したノウハウがお役立てできれば幸いです。

追加情報2023年12月18日

(かつて1,000万円近い欧米製のソフトを使っていましたが)今はMETAやGoogleからオープンソースで使える高機能なMMMツールがあります。METAのMMMツール「Robyn」を応用してデジタルマーケティングで広告→指名検索→コンバージョンのアシストを考慮したモデルで最適化を行う方法を2時間のYouTube講義で徹底解説しています。


【更新情報2024年5月26日】

「その決定に根拠はありますか?」

確率思考でビジネスの成果を確実化するエビデンス・ベースド・マーケティング

戦略を導く為の「エビデンスの作り方」をテーマに、これまで体系化してきたノウハウを紹介したマーケティング・インテリジェンスの書籍を出版致しました。5問の調査でTVCM(施策)→コンビニで商品を見た(要因)→売上がいくら増えたか?→年間16.67億円(効果)の様に経路ごとに構造的に効果を把握する国際特許(PCT)を出願した分析法など、確率モデルや因果推論をプロジェクトで実際に活用している方法を特典の動画講義も活用して実装レベルの知識まで提供しています。