「戦略広報」って何だ?
PR会社カーツメディアワークスの小川と申します。PR会社に所属はしていますが、PR支援より分析支援がメインです。具体的には戦略設計の為のマーケティングリサーチデザインを強みとした企業支援や研修など行っています。
【更新情報2024年5月26日】
「その決定に根拠はありますか?」
確率思考でビジネスの成果を確実化するエビデンス・ベースド・マーケティング
戦略を導く為の「エビデンスの作り方」をテーマに、これまで体系化してきたノウハウを紹介したマーケティング・インテリジェンスの書籍を出版致しました。5問の調査でTVCM(施策)→コンビニで商品を見た(要因)→売上がいくら増えたか?→年間16.67億円(効果)の様に経路ごとに構造的に効果を把握する国際特許(PCT)を出願した分析法など、確率モデルや因果推論をプロジェクトで実際に活用している方法を特典の動画講義も活用して実装レベルの知識まで提供しています。
「戦略広報」って何だ?
#戦略広報を目指す会(ツイッターハッシュタグより)というイベントに参加させて頂きました。
改めてヤプリの島袋氏の同会発足を告知するnoteを再び見に行きました。「戦略広報」とは、引用させて頂くと
この会の4回目のイベントに初めて参加させて頂きました。(過去2回申し込んだのに超緊急事態で欠席しておりました)
グローバルブランドに関わってこられたスペシャルゲストお二人の話が深く(名言連発)また、通常行く機会が多いDX(デジタルトランスフォーメーション)をテーマにしたイベントとは違い、乗り遅れたくない危機感から話を聞きにきた大企業幹部やそーいう人たちに言われて来ちゃったコンサバな人達とは違って参加者の方が若い方が多く、活気がありました。
スペシャルゲストの1名はアドテック他、講演や寄稿やツイッターなどで拝見していたニューバランスジャパンの鈴木健氏。
もう1名は、同じく講演執筆多数のROCKERさん(仮)でした。その方が所属する企業の広報に話を通し忘れてたみたいで、まさかの開示NGとアナウンスされていました笑。私はあるROCKイベントでその方にお声がけさせて頂いてからのお付き合いです。博識ですが物腰おだやか、しかし論考や発言などは切れ味があるので、そうした意味でROCKな面をお持ちの方だというリスペクトもあったのでROCKERさんとさせて頂きました。
20代はイベント業界の現場で、30代は広告代理店をいくつか渡り歩き電通グループでテレアポ新規営業したりと、這いつくばって仕事をしてきましたが、ここ1~2年はステージが変わり、コンサルタントとして少し落ち着いて活動できるようになってきました。仕事は自分で創る、または(マーケティング)業界全体のことや日本のこと、そういう視点で考えるようなフェーズになってきました。
イベントは鈴木氏とROCKERさんの漫談型、いきなり質疑応答で参加者からテーマを募ってはじまった即興アドリブトークでした。真っ先に挙手して安パイなお題をブチこませて頂きました。本当は後に紹介する「ソーシャルグッド」についてどう思いますか?とお聞きしたかったのですが、知らない方もいるかもしれないので控えました。でも、自然とそれに関連する話題が出てきました。
若手の前向きな広報パーソンと思われる方の現場の課題に触れることで、自分も結構な年齢になったなーと感じつつも、若い方達が上司や経営者からの指示で動く際、それを指示する人達の広報に対する考え方が悪い気がして、実直にがんばっているみなさんのリソースが無駄になってることも多いのではないか?と思いました。
このnoteは、そうした指示する側の人達の考え方の変化に少しでも寄与できないか?と思って書いたものです。
そもそも広報って戦略ではないか?
鈴木氏の発言でもっとも印象的な内容でした。
PR=「パブリックリレーションズ」であり、それはメディアだけでなく、顧客、株主他、企業を取り巻くステークホルダー全てとの関係づくりという基本概念は広報パーソンならば誰もが知っていることだと思います。
しかし、日本語には「自己PR」という言葉があるように、そうして用いられる「PR」、「アピール」と変えても成り立つPRという言葉に対応する広報活動はマーケティングの売る活動の一部として対メディアに商品をアピールして露出することでが目的であり、もっと言うとTVCMする予算がないから、うまいこと番組に取って売りたい。だから、そのために、プレスリリースを発信して、メディアのご担当者に会いに行って云々。そんな考えです。
企業内でマーケティングに関わる人や全ての方がマーケティングを勉強しているわけではありません。おそらく広報やPRをこうした自己PRのPR的なことと捉えている方もいまだに多いと思います。これってそれなりの商品やサービスを大量に作って宣伝すれば売れた旧マスマーケティング時代の日本のマーケティング(マーケティング=宣伝&広報)発想ですよね。
こうした広報の捉え方をPRのレベル1とします。
鈴木氏の捉え方は、レベル3だと思いました。メディアに載せることや伝えること自体は目的ではなくて、「売る」を前提にしたマーケティングよりも広範囲かつ上位の概念として企業やブランドのスタンスを示すことが広報という捉え方でした。企業があるテーマに対しては言及しない、それを決めること自体も広報であるといった話もありました。
セッションが進むなかで、ROCKERさんより(私が本当は聞きたかった)ソーシャルグッドな企画の成功事例であるNIKEの「Dream Crazy」という事例について言及がありました。鈴木氏も呼応されてお話されていました。2018年にセンセーションを起こして2019年カンヌ受賞、マーケターなら知っておきたい事例です。ROCKERさんはゼロから説明してくれ、以降のセッションでも何度か話題に出てきました。
「Dream Crazy」はJust Do It”30周年記念キャンペーンで、「黒人や有色人種への差別がまかり通る国に敬意は払えない」と、有色人種差別や暴力への抗議のために試合前の国歌斉唱中に起立することを拒否したアメフト選手(コリン・キャパニック選手)を起用したものです。一時大炎上し株価が3.2%減、時価総額が32億ドル(約3520億円)減まで減ったそうだが、結果としては、大きな収益をもたらした企画です。
この企画についてNIKE傘下の「ジョーダン・ブランド(Jordan Brand)」のラリー・ミラー代表はNIKEが「Dream Crazy」を行う選択が完全に正しいという認識を示し、「リスクはあったが、だからこそナイキの一員であることを誇りに思う。なぜなら、ナイキは進んでそのリスクを取り、信条を訴えているアスリートを支援した。そしてわれわれは、彼には自分の意見を主張する機会があることを強調したかった」と言及していたそうです。
こんなスタンスを示し、リスクを承知で大規模なコミュニケーションを実行できるなんて信じられません。自分達はどういう企業やブランドだと明確に示すことが広報であり、だから広報はもともと戦略である。レベル3の企業やブランドを目指したいところですが、現状から考えるとその距離がありすぎて、まずはレベル2を目指すことからではないか?思いました。
一般的にはマーケティング業界でIMCとか戦略PRと呼ばれてきたものに近いのがレベル2だと考えています。
マーケティング戦略として有機的に機能させる広報(レベル2)
そもそも広報による効果をどのように説明しているか?といった質問もありました。その際、ROCKERさんから数理モデルによる効果検証法のMMM(マーケティング・ミックス・モデリング)について言及がありました。下記noteでは、CCI社のツールから得られたツイートの全量データなどを用いて、映画「天気の子」と「アベンジャーズ」の指名検索貢献をMMMによって定量化する例を紹介しました。
現在、広報PRで使われているスタンダードなKPIに「広告換算」があります。TVCMの視聴率1パーセントあたりのコスト(パーコスト)や新聞広告の段単価など、メディアの値付けを基準として、ある一定の露出量を捉える定量化という意味では有意義です。それは否定しませんが「その先までやりましょうよ」と言いたいです。たくさん露出しても好ましい態度変容が得られず、売れなければ意味がないからです。
ROCKERさんの発言にあったMMMのアプローチもありますし、消費者パネルのシンジケートデータを用いて態度変容を分析し因果関係の定量化を模索する分析などアプローチは色々あります。
レベル2は広報をレベル1のような一部のパーツと捉えるのではなく、マーケティングの戦略の絶対設計の中で機能させるものです。
元USJ、現「刀」の森岡毅氏の著書では数理モデルから導いた事業目標を達成するために必用だった認知率の達成に広報が必要不可欠であったことを言及していました。元マクドナルド、現ナイアンティック社の足立光氏の下記の書籍では、商品ができた後にどうやってアピールする?というレベル1の発想ではなく、マクドナルドで新たな話題を作って売るには?広報的な視点から逆算して商品企画から考えてキャンペーン全体を設計した事例が紹介されています。広告会社を含めたマーケティングの体制とプロジェクトの進め方を全て変えたそうです。
マーケティングにおける広報活動の露出結果による売上効果をどのように推計したか?直接的な言及はありませんが、おそらく、MMMのようなアプローチも用いて定量化しているかもしれません。レベル2=MMMのような効果検証をすることだと申し上げたいわけではありません。レベル2の広報はマーケティング戦略の全体設計の中で有機的に広報を機能させるものです。そうしたアプローチをとるのであれば、「広告換算」の把握だけでは足りないはずだと考えています。
『戦略PR』で有名な本田哲也氏(現 本田事務所代表 ※取材当時はブルーカレント・ジャパン株式会社 代表取締役社長)の以下記事では
マーケティング先進企業のユニリーバやP&Gは効果検証から「社会問題はマーケティングに直結する」 こと(以下抜粋引用)を捉えていると言及されています。
徳の時代から正義の時代へ
弊社のPRパーソン「サワディー」がまとめてツイートした同イベントのメモには、
ROCKERさんの「徳の時代から正義の時代へ」という言葉と以下2行のメモが書いていました。
激しく共感致しました。過去私が書いたnoteからも引用します。
レベル2からレベル3へ
徳の時代から正義の時代へ。誰かの正義は誰かの不正義である。そんな時代に企業やブランドがレベル3を目指すには?すなわち、リスクをとって「Dream Crazy」を行うべきだと言い切れるようなNIKEのような確固たるスタンスを築くにはどうしたらよいでしょうか?
おそらくレベル2を高度に遂行し続け知見を得ることではないか?私はそう考えます。何を選んだらどんなことが起きるか?定量的に因果関係を捉えるようなアプローチを繰り返すことが必要だと思うのです。P&Gやユニリーバが「社会問題はマーケティングに直結する」ことを捉えているのは、おそらくそうしたアプローチ何度も繰り返し、知見を蓄積したからだと思うのです。
企業のマーケティングは経済活動として行われます。資源は有限です。よって何かを選ぶには何かを捨てることが必要であり、そうした「選択」こそが戦略です。それを確からしく判断するための道具を使いこなすことは重要だと思います。これは森岡毅氏の影響を受けた発言です。
企業の活動は合理的な経済活動が前提です。強固なスタンスを作る、すなわち戦略としての広報ができる企業になるには、ROCKERさんの言葉をお借りすると何を正義とし、何は不正義とするかを選ぶ、つまり何かを選ぶために何かを捨てることであり、そうした強い意思決定を行う風土を作っていくためには、森岡氏がマーケターに教えてくれたような、根拠となる確からしい材料の作り方を知ることではないでしょうか?
以上となります。ここまでお読み頂きありがとうございました。
【更新情報2024年5月26日】
「その決定に根拠はありますか?」
確率思考でビジネスの成果を確実化するエビデンス・ベースド・マーケティング
戦略を導く為の「エビデンスの作り方」をテーマに、これまで体系化してきたノウハウを紹介したマーケティング・インテリジェンスの書籍を出版致しました。5問の調査でTVCM(施策)→コンビニで商品を見た(要因)→売上がいくら増えたか?→年間16.67億円(効果)の様に経路ごとに構造的に効果を把握する国際特許(PCT)を出願した分析法など、確率モデルや因果推論をプロジェクトで実際に活用している方法を特典の動画講義も活用して実装レベルの知識まで提供しています。