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『飯沼一家に謝罪します』の「りんごを送っていた理由」について

昨年末にTXQ FICTIONにて放送されたモキュメンタリーホラー『飯沼一家に謝罪します』を見て感じた、考察とまでも呼べない何かをここに記しておきます。

ネタバレ&妄想全開ですので、未視聴の方は必ず(岸本さんと共に)TVerで見てからお読みください。



「岸本さんのお宅に毎年りんごを送ってますよね」

いきなりですが、本作のクライマックスで発せられる非常に意味深なセリフについてです。

スタッフによるこの発言が明正さんを追い詰める最後の一手となりましたが、いち視聴者としては「何でこれでチェックメイトになるの……??」という感想が先に出てきて、とても消化不良みがありました。

しかしこれは、4話に渡って数々の点を繋ぎ、虚実を選り分け真実に繋がる一本の線を紡いだスタッフの言葉であるため、おそらく読み解くことができれば、この物語の核心に迫れるのではないかと考えました。


本記事ではこの「岸本さんのお宅に毎年りんごを送ってますよね」について。その発言の真意について考えてみたいと思います。


明正さんの立場から考える

(いきなりネタバレになりますが)明正さんにとって、スタッフを含めた世間に知られてはならないことは「自宅放火の犯人が自分であること」です。

(呪いの対象が誰だったのかは置いといて)オカルトに傾倒していたことや家族仲が悪かったことについては別に今更バレたところで問題ありませんし、幸運を呼ぶ儀式や100万円番組云々は明正さんには関係のない『家族が勝手にやったこと』なので最優先で隠すべき事実ではないでしょう。

とにかく明正さんとしては「自分が放火の犯人であることを知られてはいけない」という思考が大前提にあり、(別件とはいえ)スタッフには真実に近付かれると困るわけで、それを回避するために色々な嘘をついていたわけです。(特に放火については早い段階で「親父が無理心中しようとした」と嘘をついていました)


その上で、明正さんの発言と行動を抜き出してみます。

【第2話】

・(「飯沼一家に謝罪します」番組の存在について)(聞き取れないが)おそらく「知らない」という旨の回答

・(幸せ家族王に出演していたか)「はい」(ハワイ旅行と賞金100万円について覚えているか)「うん」

・(顔の歪んだ写真は儀式失敗の影響か)「まぁ、変な写真だとは思いますケド」

・(ご家族が亡くなられている)「はい」(詳しく)「親父が借金苦で一家心中しようとした」

・(一家心中は儀式失敗の影響ではないと考えているのか)「そうですね、俺元気だし」

・ナレーション「明正さんは、矢代さんから謝罪を受けるようなことは一切ないと言います」

【第4話】


・奥さん「私も色々聞けてよかった。前に言ってたおじさん?私そんなに顔合わせてないんで」(ここで明正が帰ってきて会話が途切れる)

・(幸せ家族王に出ていたのは代役の良樹さんだった)「すいません、ちょっと待ってもらっていいですか」(奥さんと子供を部屋から出す)

・幾重にも縛られたビデオカメラとテープを持ってくる

・(映像の意図を問われ)「家族の様子がおかしくなって。特に旅行に行った後に(おかしくなった)。その時の映像です」

・スタッフ「映像に映っていた輪っかは岸本良樹さんも同じようなものを作っていた」→(無言)

・スタッフ(明度を上げた写真を見せ)「これって明正さんですよね?」→(無言)

・スタッフ「オカルトにハマってたんですか?」→(無言)

・スタッフ「岸本さんのお宅に毎年りんごを送ってますよね」→(家族から負の対象として見られていたことが判明し、暖炉の火がアップになった後に)「すいません」



字数稼ぎみたいになってしまいますが、一つずつ検証していきます。



(「飯沼一家に謝罪します」番組の存在について)(聞き取れないが)おそらく「知らない」という旨の回答

早速ですが正確な発言が聞き取れませんでした(何て言ってるかわかる方いましたら教えてください……)

ですがスタッフさんの反応を見るに「知らない」という意味合いの発言をしていると思われます。これについては本当に存在を知らないのか、知っている上で嘘をついているのかは不明です。


(幸せ家族王に出演していたか)「はい」(ハワイ旅行と賞金100万円について覚えているか)「うん」

これについて、明正さんは出演していないので完全に嘘をついています。何故嘘をつくのかと言うと「出演していないことがバレると何かしらの都合が悪くなるから」と考えていたからでしょうか。

では、都合が悪くなる理由について考えましょう。もし正直に出演していなかったことを述べてしまうと「なら誰が出ていたのか」「その良樹さんはどういう関係なのか」「いま良樹さんはどこに住んでいるのか」となり、明正さんと岸本さん一家との関係が明らかになるからと考えるのが自然かもしれません。

事実、岸本一家から替え玉を出していたことを突き止めたのはスタッフであり、良樹さんの口から言及されたのは最後の最後の「すみません」だけです。これが物語のオチとなっているため「明正さんが岸本さんとの関係性を認めたこと」が(本人にとって)いかに重要であるかという証明にもなっています。

しかしながら、岸本さんとの関係性が明らかになることがなぜ明正さんにとって不都合があるのでしょうか。これは後々考えたいと思います。


(顔の歪んだ写真は儀式失敗の影響か)「まぁ、変な写真だとは思いますケド」

明正さんは件の儀式に参加していないため、反応としてはそこまでおかしなものではないかもしれません。

ただこの場合の返答として自然なのは「顔が見えなくなってますね」「不気味ですね」「(儀式の影響かは)ちょっとわかんないです」あたりではないでしょうか。

しかし、下手に答えてしまって儀式のことを深掘りされると(参加してないので)答えられないため「これ以上深掘りされたくない」「早くこの話を終わらせたい」という感情が読み取れる気がします。

あるいは。当時明正さんが行った別の「家族を呪うための儀式」によってこういった影響が現れているのでは、と考えているのかもしれません。これについては後述します。


(ご家族が亡くなられている)「はい」(詳しく)「親父が借金苦で一家心中しようとした」

「親父が借金苦で〜」という話から読み取れる通り、やはり「火事(放火)の犯人は自分ではない」ということをスタッフに強く印象づけようとしています。

明正さんとしてはまさか発言内容について(結果的に)裏取りされるとは思ってもいないでしょうから、これでこの話は終わり、ということにしたかったのでしょうか。


(一家心中は儀式失敗の影響ではないと考えているのか)「そうですね、俺元気だし」

ぱっと見はおかしな点はなさそうですが、明正さんが放火したことを隠したいのであれば「そうですね……そういうこともあったのかもしれません」とか何とか言って全てを儀式のせいにすれば良かったのではとも思います。

つまり明正さんは「儀式」や「呪い」の存在を隠したかった。そして、それは矢代さんが行ったものではなく……自分自身が「家族」に対してかけた「呪い」の存在をひた隠しにしたかったのではないでしょうか。


ナレーション「明正さんは、矢代さんから謝罪を受けるようなことは一切ないと言います」

これはおそらく明正さんの本心だと思います。

先にも述べたように、もし一家心中の原因を全て矢代さんに押し付けてしまえばそれだけで自分は放火の犯人からは逃れられるのにもかかわらず『謝罪を受けるようなことはない』と発言していることから「家族がこうなったことに矢代さんは関係ない」と犯人を擁護することになっているのです。

もちろん先述のように呪いの存在を隠すため「矢代さんは関係ない」と言ったのもあるかもしれませんが、私は「家族をおかしくしたのは矢代さんの儀式ではなく、もっと他の原因がある」。

……つまり「自分がかけた呪いが原因である」という意を感じました。


奥さん「私も色々聞けてよかった。前に言ってたおじさん?私そんなに顔合わせてないんで」(ここで明正が帰ってきて会話が途切れる)

テロップも出ていないような何気ないシーンでしたが、何やら意味がありそうな場面でした。(ですがよくわかりませんでした、すみません)

明正さんを引き取ったおじさんはりんご農園を営んでおり、明正さんに引き継いでから亡くなったようです。これらが結婚前の出来事であれば奥さんがおじさんの顔をほとんど見たことないのも頷けます。ですが、何らかの意図が含まれているように思えるワンシーンでした。


(幸せ家族王に出ていたのは代役の良樹さんだった)「すいません、ちょっと待ってもらっていいですか」(奥さんと子供を部屋から出す)

良樹さんの存在にまで辿り着かれたことに危機感を覚えた明正さん。

しかしこの時点では「岸本さんとコンタクトを取ったこと」はまだ明正さんには知らされていないため、(岸本さんとの繋がりが火事の真実に結びつく重要なピースなのだとしたら)明正さんとしては「火事の犯人は自分ではない」ことを弁明するためのラストチャンスとなりました。


幾重にも縛られたビデオカメラとテープを持ってくる

中身が簡単には見られないように固く封された荷の中には、明正さんにとって最後の切り札となりうる映像が収められていました。

封されていた理由ですが、呪術的な理由ではなく単に「奥さんと子供に見られたくないから」だと思います。それなら捨ててしまえばいい気もしますが、今回のように追い詰められた時に「狂っていたのは自分ではなく家族だ」と証明するための武器として持っていたのではないでしょうか。


(映像の意図を問われ)「家族の様子がおかしくなって。特に旅行に行った後に(おかしくなった)。その時の映像です」

この最後の手で明正さんがなんとしても防ぎたかったことは「スタッフに岸本さんとコンタクトを取られ、岸本宅に取材に行かれること」だと思います。

なので明正さんがスタッフ達に見てほしかったのは「家族が狂ってしまった様子」でした。また「旅行に行った後」という発言から『家族はハワイでおかしくなった』という設定にしようとしているようにも感じました。

しかし、明正さんにとって想定外だったのは、スタッフが既に岸本さんと会っていたことでした。


スタッフ「映像に映っていた輪っかは岸本良樹さんも同じようなものを作っていた」→(無言)

ここで明正さんは初めて、自身が最も阻止したかった「岸本さんとのコンタクト」が既に行われていることを知ります。明正さんはここからラストの謝罪までの間、言葉を発さなくなります。

岸本さんと会っていたことに気が動転していたとはいえ、もし輪の存在(意義)を全く知らないのであれば「そうなんですか?」とか言えばまだ言い逃れ出来そうなものです。

それすらも言わなかったということは、明正さんはその「輪の持つ意味」を知っていた。ということになります。それはつまり……『明正さんがかけた呪いによって、家族や良樹さんが輪を作った』ことに他なりません。


スタッフ(明度を上げた写真を見せ)「これって明正さんですよね?」→(無言)

窮する明正さんにスタッフは追い討ちをかけます。「呪い」と「明正さん」を繋げる写真を提示しました。


スタッフ「オカルトにハマってたんですか?」→(無言)

ここまでの話を踏まえた上でこのセリフを言い換えると「家族と良樹さんが狂ってしまう呪いをかけたのは、矢代さんではなく明正さんですよね?」と明正さんに問うているように感じます。


スタッフ「岸本さんのお宅に毎年りんごを送ってますよね」→(家族から負の対象として見られていたこと、暖炉の火がアップになった後に)「すいません」

いよいよラストシーンです。ここまでの内容を踏まえて真相を推察してみます。

「岸本さん」及び「良樹さん」は明正さんの父が経営していた会社で働いていた社員の親族であり、明正さんにとっては非常に縁の遠い人物です。替え玉による番組収録があったとはいえ限りなく他人であるため、普通なら交わることのない相手でしょう。

しかし、その方に対してりんごを送っているということは「お互いに現住所を知っている」ということであり「明正さんと岸本さんの間には当時から今もなお繋がりがある」という何よりの証明となります。

そして明正さんはその事実を知られたくなかった。繰り返しになりますが、昭正さんが最も隠したいのは「自分が放火の犯人である」という真相です。

これらを統合すると明正さんは「岸本さんに当時の話をインタビューされると、火事の真相に辿り着かれる可能性がある」と考えているわけですね。

ならば「当時、岸本さんと明正さんとの間でどのようなやり取りがあったのか」を知ることができれば。この「飯沼一家に謝罪します」の真相を知ることができるのではないでしょうか。


ここまでの推察もイチ視聴者の単なる妄想でしたが、ここからは更に酷い妄想となります。ご容赦ください。


・引きこもりの明正さんは家族から疎まれており、また明正さん自身も家族を疎んでいた。嫌いな家族を呪うため、明正さんはオカルトに傾倒するようになる

・矢代さんが行った儀式には効果がなく(あるいは本当にポジティブな効果だけがあり)、家族や良樹さんがおかしくなったのは全て明正さんの呪いによるもの

・呪いにかけられた相手が手製の輪を作って異世界に行こうとするのは「対象をこの世界線から消し去る(自ら違う世界に行くことばかり考えるようになる)」呪いだったから

・良樹さんがおかしくなったことに対して岸本母は飯沼家に電話なり手紙なりで連絡を入れるもまともに取り次げる相手が(呪いを受けていない)明正さんしかおらず、ここで明正さんと岸本さんとの間で関係性が生まれる

・自分が全ての原因であることへの追求を恐れた明正さんは自宅を放火することで「被害者」としての立場を確立する

・数年後、息子がおかしくなった原因を知ろうとする岸本さんに対して明正は「一連の異常行動は全て(程度の低い)矢代による儀式の失敗の影響」と嘘をつき、それを信じた岸本さんは矢代さんに謝罪番組を制作するよう要求する(岸本さんが言っていた「東京の知人」とは明正のこと。『北海道の知人』と言わなかったのは、明正は「自分が情報提供者であることは秘密にする」という約束で儀式の話をしたから。また、事を大きくしたくない明正にとって「謝罪番組の制作」は想定外であったと思われる)

・「四十九日の裁き」も矢代さんの中では呪いを終わらせるために意味のある儀式であったが、実際は対呪いとしての効果はなくただ良樹さんに飲み込まれる結果となってしまった(なお明正は矢代さんのことを悪く言っていたため、岸本さんも「中途半端な知識で〜」という呆れるようなセリフを述べている)

・良樹さん、矢代さんが共に呪われてしまい救う事は叶わなくなったが、明正にとっては「火事の真相」を知られることが最も恐ろしいことであり、その真相に最も近い岸本さんが生きている限りは真の安寧を得ることができない。そこで年に一度、りんごを送ることで「岸本さんが存命であるかどうか」を確かめ続けている



いかがでしょうか。

もし「何でもいいから何かしらの解答をくれよぉ〜〜〜」って方の溜飲を少しでも下げることができたのなら幸いですが、私も親戚の集まりを終えたあとに泥水している中で本編を一度通して見ただけなので実際のところは何の全く自信ありません。すみません……(明正風に)


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