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スタートアップには「シリーズBの壁」がある。ここを超えるために必要なこと【声の履歴書 Vol.69】

こんにちは。Voicy代表の緒方です。

この「声の履歴書」という連載は、Voicyがこれまで歩んできた道のりについて創業者の私があれこれ語っていこうというシリーズです。よかったらマガジンをフォローしてくれると嬉しいです。

今日は資金調達について書いてみたいと思います。Voicyも何度かにわたって資金調達を実行しており、累計で8.6億円を投資してもらっています。そんな調達の裏側について。

シリーズAの次の段階、シリーズBには壁がある

以前、初期に受けたエンジェル投資について触れましたが、その後のVoicyの資本政策はとても順調でした。2019年には2月と3月に相次いで調達を実施し、調達額は8.2億円となりました。

この調達から始まった2019年は社内・組織がいろいろ混乱し、ここから1〜2年は社長としてけっこう苦労したのですが、その話はまたいつかするとして、このシリーズAという初期段階の投資は時代が良くなり近年ではわりとどの会社も上手くいくんです。

問題はその次の段階、シリーズBです。

ここにシリーズBの壁がある、ということを今日は言いたい。

VoicyもまさにシリーズBを目前にしているスタートアップですが、ここはなかなか大変なんですね。

たとえば「◯◯という会社がシリーズAの調達!」なんていうニュースは、TechCrunchなどのスタートアップ媒体でよく見ませんか?でもシリーズBとなると、そんなに目にしないと思います。それはやっぱりシリーズBには明確な壁があるからなんです。

Voicyの場合で言うと、Clubhouseの席巻からはじまった2021年は、その勢いに乗るかのように次々と新機能・新課金システムなどを投入し、インフラとしてかなりの成長を見せたと思います。

8.2億円を調達したときから比べると格段に進化し、もはや別サービスといってもいいくらいの仕上がりになってきました。そこからシリーズBの資金調達をサクッと決めてしまおうと思うわけですが、今度は投資家の方々の目線も厳しくなります。

たとえば、「Clubhouseが沈んだ理由を説明せよ」みたいなことを求められたりして、すごく大変(笑)。それに音声サービスが盛り上がっている、とは言われていますが、実際に音声の未来を見せている会社はまだまだ少ないんです。

Voicyがようやくユーザー課金の仕組みを整えつつあるくらいで、実は少ない。Spotifyがいるじゃないかと言っても、やはり主力は音楽です。Netflix型の音楽サブスクのようなモデルなので先行事例としてはちょっと違う。まだ成功した音声のサービスというものはほとんどない状態です。

なので、相変わらず時代の一番先頭を走っていかないといけなくて、将来像の大きさを説明しても、なかなかわかってもらえなかったりします。

シリーズAではトントン拍子でいくものの、シリーズBはより確実な未来が求められる、というのがこの世界。

たとえるなら、小学校のときは神童と呼ばれていたのに、高校・大学受験ではどうも勝手が違うぞ?みたいになってきて、社会人になったら勉強ができるとかどうでもよくて、どんな結果を出せるわけ?みたいな厳しさが待っている。要は大人扱いされるわけです。

シリーズBは「ビジネスモデルの確定」が必須

いまの日本のスタートアップ業界には、大きくわけると、原石のようなスタートアップにお金を払いたい人たち堅く成果を出す会社に乗っかりたい人たちの2通りがいます。原石にシリーズAとしてお金を出す人はここ数年でかなり増えてきています。だからこのエリアではバリュエーション(企業価値)を上げやすい。

でも、ちゃんとロジカルに、確実に、これは成功するだろうとまでは言えないような原石プラスαみたいなところにお金を出してくれる投資家はまだ少ないんです。だからこのシリーズBを抜けるのに、わりと多くの会社が苦戦する印象です。

原石のシリーズAは、最初の取っ掛かりのユーザーを喜ばせていたらOK。そのまま大きくなりそうな予感をさせるのが大事です。シリーズAの時点までは「TAM」が大事だと言われます。Total Addressable Marketというやつです。「このマーケットは動画広告なので1000億市場です」みたいなことですね。「旅行業界なので2兆円市場です」とか、そういう数字を挙げて、そこを取りにいきます、と。自社事業が成り立ってなくても市場が大きいことや類似成功企業があること、といま手前でユーザーがいることで期待してもらえます。

でもシリーズBは、それがちゃんとお金になって、将来ペイするという確実な流れがちゃんと見えていないといけない。ビジネスモデルが確定して、どういう組織体制になっていくかもだいたいわかってきて、将来はどのくらいの大きさの会社になるのか、シリーズBの時点で見られるのです。

このシリーズBの谷で死んでいく会社はすごく多いですし、谷を超えられずに永遠のシリーズAとなる会社も多いです。シリーズAでバリュエーションは12億で、その次は13億、また次は13.5億、みたいに刻んでいくわけです。

シリーズBになると投資家は読める数字が欲しくなってきます。読めるようになったら、投資する人がいっぱい出てくる。

シリーズBにSaaS事業が多いのは「読める」から

なのでその段階ではSaaS事業が評価されやすい傾向にあります。理由はすごくシンプルで、さっさと数字が読めるからなんです。

たとえば労務管理のSmartHRなんかはその代表ですよね。この先どう伸びていくかが読めるから、もう今は1700億くらいにまでいっています。会計サービスのfreeeとかもそうですね。

こうしたSaaS事業以外のコンシューマー向けサービスで歴史上すごかったのは、メルカリとスマートニュースです。ただ、この2つはすでにわかりやすいベンチマーク企業があって、その会社がしっかりと稼いでいたんです。

どこかというと、もちろんヤフーですね。

メルカリはヤフオク、スマートニュースはYahoo!ニュースが仮想敵です。そういった先行している巨人がいるから、ヤフーの時価総額とユーザー1人頭の金額を見積もれば、数年後にここまではいく、みたいな読み方ができる。「ユーザーさえ増えたらいくじゃん」ということがわかるんです。メルカリとスマートニュースはそういうところが見えた稀有な個人向けサービスでした。

というわけで、ユーザーさえ増えたらいくらでも稼げる、というモデルをつくるとシリーズBにいけるし、そこが確立できないと壁は超えられない。

Voicyはもちろん超えられると思っています。代表・緒方としては今年はそこが1つの目標だったりします。

ーー次回も引き続きファイナンスの話をしていこうと思います。よろしくお願いします。

声の編集後記



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緒方憲太郎(Voicy代表)
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