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スタートアップはAI時代にどんな未来をつくるべきなのか。〜Voicyがいま“第二創業”を宣言する理由〜
こんにちは。Voicy代表の緒方です。
あっという間に2月も後半ですが、年が明けてから、Voicyは組織としても、サービスとしても新たな成長フェーズに入る準備を進めてきました。
そしてこのタイミングで、僕たちは「第二創業」を宣言します。これはVoicyが次のステージへ進むための大きな決断です。
この決意の根底にあるのは、AI時代だからこそ、人間味あふれるコンテンツの価値がますます高まるという確信です。
その本質は、AI時代に人間味で勝負をすること。人間味あふれる人たちの魅力を最大限に引き出し、輝かせること。それこそがVoicyの使命だと思っています。
そのためにも、引き続き「しゃべる」ハードルを徹底的に下げ、より多くの魅力的な人々が発信しやすい世界を作り上げていきます。AI全盛の時代だからこそ、人間らしさ、人間味にこだわり抜くことが何より大切です。
ぼくらVoicyは、社会を豊かにすることに特化します。ジャンルをむやみに増やしたり、手を広げすぎたりするのではなく、より深く、濃密な価値を提供することで、社会の豊かさに貢献していきます。
世間に溢れる刺激的なコンテンツも素晴らしいですが、Voicyはあえて領域に特化し、独自のポジションを確立していきます。もちろん、犬や猫のかわいらしさには癒やされますし、ショート動画の刺激も魅力的です。しかし、Voicyはそれらとは異なる価値を提供したいと考えています。
もっと心の奥底に響くもの、人生を豊かにするようなコンテンツにこそ注力したい。その結果、ターゲットとする層は、マス向けの広範なものではないかもしれません。
でも、そこにこそ、「自分の人生をもっと良いものにしよう」と真剣に考え、行動している "リアル"な人たちがいるはずです。そんな人たちに、炎上のリスクも少なく、居心地の良い場を提供する。私たちが目指すのは、そんな空間を創ることです。
AI時代を勝ち抜く鍵は、間違いなく人間性の部分に隠れています。ここに僕たちの勝機があるはずです。
そのためにVoicyは、自分自身も変えていかねばなりません。メンバー一人ひとりが互いを尊重し、創造性を発揮できる組織。オープンなコミュニケーションを重視し、誰もが意見を言いやすい環境。そして普通では生み出せないような感動を生むだけのハードワーク(量ではなく質)ができる、そんな会社にしていきたい。
再スタートを誓うにあたって、ざっくりとVoicyの歴史を振り返ってみようと思います。どこにもない歴史なのでぜひ一緒に振り返ってください!
Voicyのこれまでの歩み
ぼくらがVoicyを立ち上げる前、世の中の音声コンテンツは主にラジオ。そしてポッドキャスト番組がわずかにあるくらいでした。どちらもいまほどの勢いはなかったかもしれません。
YouTubeはいまでこそトークコンテンツが中心ですが、当時はまだ「鉄球入れてみた」などのビジュアル的にインパクトの強い動画が多かったように思います。
まだまだ個人がしゃべってお金を稼ぐのはむずかしい時代でした。それができていたのは、講演会などでギャラが発生する一部の著名人、文化人枠の人くらいでしょう。
一部でラジオCDなどのボイスコンテンツが存在する程度。つまり、喋ることで収入を得るなんて一般の人からすればほぼ考えられない、非常に限定的な世界だったと思います。
「好きなことで生きていく」というメッセージが打ち出されたのが2014年、YouTuberという言葉が定着しつつある時期でした。
「これからは動画だよね」。そんな空気のなかでVoicyは生まれました。
Voicyをつくった理由
人の声にはもっともっと価値があると信じていました。
声で思いを伝えたい人は絶対に増えるはずだし、より手軽に声で発信したり、それを届けたりできる仕組みがあれば、これまで以上に輝ける人はきっといるはずだ。
ぼくがネット上で拡散されるコンテンツを見て思ったのは、人生が忙しくて時間のない人ほど発信から遠ざかっていることです。充実した生活を送る人に限って、大事なことを外に向かって発信していない。
なぜなら、単純に発信のハードルがめちゃくちゃ高かったからです。テキストで長文を書くのも、テロップ入りの動画を作るのも膨大な時間がかかります。そんななかで発信をちゃんと続けられる人は超人か、あるいは暇人か。きっと、どちらにもなれない人がほとんどだったと思います。
「好きなことで生きていく」という合言葉も、実際にはみんな必死になって動画編集ばかりに時間を取られ、本当の意味でのやりたいことができずにいたんじゃないか、とも思います。
クリエイターたちは、コンテンツ制作に人生の多くの時間を捧げないと成功できない時代が長く続いていたんです。
そこにまだ挑戦の余地があると思いました。もっと素敵に生きている人たちの情報が、もっとたくさん世の中に広まればいいなと思いました。
だからVoicyをつくる時に最も意識したことは、誰もが使える最も発信コストの低いサービスにしよう、ということでした。トップクリエイターから一般ユーザーまで誰でも気軽に、大きなコストをかけずに始められる場所を目指しました。
開発当時はAirPodsもスマートスピーカーもない時代でしたが、それでもIoTのトレンドは盛り上がっていました。きっとこれから生活のあらゆる場面にインターネットが入り込む時代がくる。そのとき最も身近な存在になるコンテンツは「声」だろう、と。
忙しい現代人は目も手も塞がっているけれど、耳はまだ空いている。そこから生まれる新しいメディアがあるはずだと確信していました。
2016年9月、Voicyはひっそりとリリースされました。サービス開始直後はほとんど注目されていませんでした。
それどころか1年たっても、日々のユーザーは100人ほど。周りからは心配されてばかりでしたが、一部の熱狂的なユーザーは毎日Voicyを使って発信し、あるいは聴いて喜んでくれていました。
利用者は圧倒的に少ないものの、好きな人にはめちゃくちゃ刺さるサービスになっているという手応えが、ぼくらには確かにありました。
5年目にして、初のマネタイズ機能
とはいえ、あまりにユーザーが少なかったのでどうにか使ってもらいたいと、ニュースメディアや活字メディアの人たちをVoicyに巻き込んでいきました。無理やり、ニュース原稿を読み上げさせてもらって、音声コンテンツとして配信しました。いまも初期にはじまった新聞社さんのコンテンツはVoicyで人気です。
ちょうどそのタイミングでスマートスピーカーが出始めました。ニュースコンテンツはそこにハマりました。AmazonやGoogleなどともいち早く連携し、メディア・媒体社の音声シフトを少しだけ後押しできたと思います。
そこにAirPodsのようなワイヤレスイヤホンが加わり、音声コンテンツはより身近な存在になっていきました。
2018年、Voicyに最初の転機がありました。突然、有名なブロガーがたくさんやってきてくれました。それまでテキストで発信していた人たちがVoicyに参戦し、「声のブログ」という新ジャンルを作ってくれたんです。おかげでユーザー数もグンと伸びました。
多くのトラフィックがきて、盛り上がり感は出ましたが、Voicyはずっと赤字サービスでした。マネタイズの機能が一切なかったからです。
初めて本格的なマネタイズに乗り出したのは2020年になってから。Voicyにサブスクリプションと有料放送の仕組みを導入しました。これによってパーソナリティが音声コンテンツから収益を得られるようになり、「声だけで稼げる時代」の幕が上がったんです。
これをきっかけに、それまで動画や写真、テキストで活躍していたインフルエンサーたちが音声に参入し始めました。Voicyではしゃべるだけで十分伝わる。面倒な編集はしないで済むからです。
なかには講演会に出るよりもVoicyでしゃべったほうが効率的だと判断する人も出てきました。こうして「声」そのものを収益化する動きが加速したことで、後に「声のインフルエンサー」が生まれる土壌となりました。
Voicyはリスナー体験も徹底的に見直しました。BGMとトークを分離したり、倍速再生に対応したり、あえて編集機能を制限したり。そういった工夫の積み重ねが、新しい音声体験の形になったのだと思います。
クラブハウスの登場
そんな中、奇跡のようなタイミングであの「クラブハウス」が現れ、一気に音声ブームが到来しました。2018年のブロガー参入に続く、2度目の神風でした。
クラブハウスの突然の盛り上がりを機に「しゃべる」ハードルが一気に下がりました。「みんな喋ればいいじゃん」という空気が一斉に広がったんです。
それまではラジオパーソナリティだけの特権だと思われていた「声の発信」が、突如として一般の人に開かれました。もちろんやろうと思えばポッドキャストなどで誰でもできたことですが、「自分もやっていいんだ」という雰囲気が醸成されたのが大きかったです。
ここで興味深いのが、声の発信と受信に対する意識の違いです。発信する人からすれば、声はテキストや写真での発信に比べて気恥ずかしいもの。でも受け手は、その人の恥ずかしさも含めて生の声を、ありのままを聞きたがる。
Voicyは当初からこの心理的ギャップに着目し、ありのままの声を切り取って届けることにしたんです。Voicyアプリは収録した音声を編集できない。これは発信の手軽さと、音声に本来あるべきリアルさを両立させるためのものでした。これこそがVoicyの大きなイノベーションだったんじゃないかと思います。
音声のインフラを志向
こうしてVoicyから多くの音声インフルエンサーが誕生し、クラブハウスの登場でそのムーブメントはさらに加速しました。ぼくらが昔「Voicyで月に10万円稼げたらすごいよね」と言っていた時代が嘘のよう。
いまではVoicyで月100万円、1000万円の売上をあげるパーソナリティも珍しくありません。正真正銘、Voicyは「声で生きていく人」を輩出してきました。
もともとVoicyは音声のインフラになることを志向していたので、さまざまな企業にも活用してもらいたいと考えていました。実際、グロービスなどの企業がVoicyで発信し、ファンプールを構築できるようになりました。
企業が音声市場に参入する動きは、まさにVoicyが切り拓いてきた成果だと自負しています。
最近ではポッドキャストでも企業の発信が増えてきましたね。Voicyではかなり前から、社内コミュニケーションを音声化する「声の社内報」という取り組みもおこなってきていました。
残念ながら現在は開発リソース不足で一時的に中断を余儀なくされていますが、近い将来必ず復活させます。その人の魅力がストレートに伝わる音声の力は、社内コミュニケーションにも大きなインパクトを与えるはずです。
こうした数々の挑戦の結果、Voicyは2022年に27億円の資金調達を成し遂げ、評価額は100億円を突破しました。それに先立って僕は「ボイステック革命」という本も上梓しましたが、その題名の通り、Voicy は音声コンテンツ業界の"革命児"と言ってもらえるようになりました。
日本に音声文化を根付かせる。そんな目標にむかって、きっとゼロから20歩くらいは進んできたと思います。
でもそんなふうに考えていると、だいたい8歩は戻ることになるもの。ここまでいろいろな失敗もしてきました。
原点回帰を決断
この2年間、僕はVoicyという会社組織の分散化・権限委譲を進めようと試みましたが、正直なかなかうまくいきませんでした。株主や社内の提案について積極的に取り入れて任せてみたりも試みましたが、それもうまくいきませんでした。会社の成果を生まない組織体制にしてしまい、退職者も増えてしまいました。
資金調達後はもっとイケイケに、どんどん数字を伸ばす方向にいかなければという焦りもあったので、とにかくジャンルを増やしていこうとか、楽しさや刺激を増やしていこうとか、データマッチングで数字を増やそうといった、あまり自分たちの強みじゃないところに舵を切ったなという感覚もありました。
それは社内報の一時的な凍結だったり、アプリトップのリニューアルだったり、あるいはボイスドラマへのシフトだったりと、いろいろです。
ボイスドラマは2年前に大きな戦略として打ち出しましたが、結果としては数億円を投資したところで見直し、もう一回自分たちの強みに集中しようと原点回帰に向かっています。それは自分たちしか出せないユーザー体験を提供すること。
リリース時には「豪快に空振るかもしれませんが、こういう挑戦を続けていくのがスタートアップなのです」とnoteに書きましたが、まさにその通りになってしまったわけです。
コストダウンや意識の引き締め、活性化施策の削減で、Voicyの組織としての活力も一時的に停滞してしまったと実感しています。
組織が停滞すると、それがまた数字に跳ね返ってきます。この2年間、リスナー数、パーソナリティ数、流通総額、売上高も伸び悩みました。
そこで今一度、組織の活性化に向けて、みんなで仕事を面白いと思えるように、パフォーマンスが上がるための投資をしていきます。
2024年の秋から組織体制を大幅に変更し、検証と各種施策を始めて、再び最高流通総額を毎月記録するようになりました。体制を変えて、とにかく動いて再構築した結果、直近は5ヶ月連続で伸びています。新規のパーソナリティもどんどん増えてきました。
「第二創業」とは、既存の企業がその事業活動を大きく転換、拡大、または再構築することで、新たな成長フェーズに入ること。
その手段は新規事業への進出、ビジネスモデルの転換、経営体制の変更、リブランディングなどさまざまありますが、あらゆることに手を付けて走り出しています。
すでに、もう一度成長フェーズをちゃんと作れていることを確信できるまでになりました。
でっかい未来を創る
そして、これは僕自身の反省も込めてですが、もう一度「でっかい未来を創る」ことに軸足を置いた経営をしていきます。
これからはもっともっと「夢を語れる経営者」にならないといけない。この点については、まだまだ及第点とは言えないです。
自分にないものを持つ人材を採用し、ときに厳しい意見もどんどんぶつけてくれる仲間を増やしていく。でもそこで社長の私がヘコんでしまっては元も子もありません。
そもそもいまや、あの孫正義さんですら「AIに1000万円渡したら良い事業プランを提案してくる」なんて言っているご時世です。つまり経営者のライバルだってAIになろうとしているということ。
それに打ち勝つには、とにかくクレイジーでなければならない。AIには到底及ばない大胆な発想、瞬発力こそが僕たちの武器になるはずです。もはや単なる物量作戦では勝負にならないでしょう。
大事なのは、常にめちゃくちゃ夢を語り、めちゃくちゃこだわり抜き、めちゃくちゃ熱くなること。常軌を逸するほど没頭できる何かを持つこと、それが今を生き抜く術なのかもしれません。
生き残るのは、巨大な留保金を持つ大企業か、徹頭徹尾ユニークでクレイジーなスタートアップのどちらかだと思います。
Voicyはどこよりもユニークに、それでいて狂気すら感じさせる存在であり続ける。それこそが、これからのスタートアップに求められる唯一の生存戦略だと考えています。
AI時代に生き残るのは人間性
繰り返しになりますが、今回、第二次創業を宣言する大きな理由は、冒頭にも書いた通り、「AI時代に生き残るのは人間性」だというところにあります。
実はこれはずっと言ってきているんです。でもブレてしまった部分もありました。なのであらためて宣言しておきたい。
あらゆるコンテンツがAIで作られ、人間のクリエイターでは到底作れないようなコンテンツが際限なく生み出される時代の到来です。
僕はAIに負けない唯一の価値は「人間性」だと確信しています。人間性を届けるためには、人は声で語るしかない。コンテンツの大半は声へとシフトしていくでしょう。
僕たちの会社は「イヤリー」とか「ヒアリング」っていうサービスじゃなくて、Voicyという声のサービスを出してるんです。「耳」でも、「聞く」でもなく、「声」なんです。
だれかの口から出た音を、言葉を、預かっています。
VoicyはAI時代の唯一の価値である人間性というものの魅力を最大化するために、声を出す人がその人間性を表現するところにめちゃくちゃ特化して、とにかく人がしゃべりやすくする。
これからの時代になんとか自分らしさを出していきたいのなら、Voicyでしゃべればいい。そしたらいろんな形でお客さんに届けてくれる。そういう存在になれたらいいなと思っています。
AI全盛の時代に唯一無二の価値を放つ、人間性の源泉となる生の声。その入り口を担うことこそが、Voicyの使命だと私は考えています。
あらためて、声で人と人が繋がり、コミュニティが生まれるという体験には本当に計り知れない価値があります。
これからのVoicyは、ある意味「Humanity」そのものに近いサービスになるのかもしれません。AIにもできるありきたりのコンテンツからは一線を画し、人間性の価値を追求し続ける。それが音声プラットフォーマーとしての私の決意です。
まとめますと、
Voicyはいままさに第二創業、再構築のさなかにいます。そこで考えているのは大きく3つ。
・初心に立ち返り、Voicyの強みに集中して唯一無二なプラットフォーム
・日本で最も豊かさを生み、最も愛されるサービスであり続ける。
・AI時代に最適化された企業として「AIにできないこと」x「AIを活用できること」を組み合わせる
やりたいこと、やらなければいけないことはたくさんあります。
AI時代に人間性の温かみと繋がりを提供していく
ユニークな体験を提供し、日々が豊かになるサービスに集中する
社会に話題になり、期待を超える体験を届けるからこそ成長する
パーソナリティファーストでの成長を軸にする
文化は一定作れた。ここからは事業と産業を作る
これらを成し遂げるために、組織も制度も、ミッション・ビジョン・バリューも、戦略も再設計しています。もう一度ユーザー体験にフルコミットした熱狂的なドベンチャーから再スタートします。
これからのVoicyに、あらためて期待をしてください。
お知らせ
こんなイベントもやります。ぜひご参加ください!
現在、Voicyは第二創業期として未来を共に創る仲間を募集しています。
今回の採用イベントでは、Voicy代表・緒方憲太郎が登壇し、Voicyが目指したい社会や、事業の展望などをお話しします。
そのほか、事業部別のメンバーとのフリートークも実施予定です。実際の業務内容や働く環境など、ざっくばらんにお話ししませんか?
まだ転職までは考えていない方や、少し興味があるというくらいの方でもウェルカムです!
声の編集後記
記事の執筆後に、あらためて音声でも話しています。よかったらこちらもお聴きください。
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