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スタートアップの熱狂と仕組み化のあいだで起きた、OKR導入のドタバタ【声の履歴書 Vol.83】

こんにちは。Voicy代表の緒方です。

この「声の履歴書」という連載は、Voicyがこれまで歩んできた道のりについて創業者の私があれこれ語っていこうというシリーズです。よかったらマガジンをフォローしてくれると嬉しいです。

さて、シリーズAの調達とその後の反省点について2回にわたって書いてきましたが、今回が最終回です。「調達と採用」の話をしてみたいと思います。

調達すると採用難易度は上がるのか

お金が入ると、当然、採用をがんばりたいわけですが、そうすると実は採用の難易度はあがってきます。なぜなら期待値調整というものが発生するから。僕らが良いことばかり言って、入ってもらったら、それに対してちゃんと見合ったものを提供できないとすごく不誠実ですよね。

スタートアップの場合、「うちは良い会社だよ。でもどんなことがあっても覚悟してね」みたいなことを言いがちです。マイナス分がどれだけあるかわからないから、「どんなことがあっても覚悟してね」と言う。でもそれって無責任に甘えていることでもあります。採用側が「どんなことがあっても覚悟してね」と言うことは簡単だけれど、実際に入ってくる人たちの期待と、その後に提供できるものをできるだけずらさないということは、すごく大事。

そして採用する僕らもいきなり採用スキルが上がるわけではない。キャリアコンサルタントでもないし、「そんなことできるわけないよ」と思っていたけれど、「うちは今どういう状況で、これからこうなります」ということだけでもきちんと説明できる力は必要です。

いま思うと僕らはそれができなくて当初うまくいかなかったのかな、ということも、すごく感じています。

会社が成熟すると、プロフェッショナルが必要になる

会社がスタートしたあと数年は、何でもいいからカルチャーが合っていて、いろんなことを一気に処理できる人のほうが助かっていました。それが調達を経て、どんどん会社が成熟してきて、分業化されてくると、本当にちゃんと専門領域を持ったプロフェッショナル人材に入ってもらう必要が出てくる。

「とりあえず、適当にボールを蹴ったらいいよ」というサッカーをやっていたところから、「センタリングが上手い人が欲しい」に移行してくるわけです。

そこで起きがちなことが、組織の成熟度がついていかず、結局は「どんなポジションを言われてもやってほしい。でも、君のセンタリングにも期待してるよ」みたいな状況です。

そうすると、「センタリングを打つために入ってきたのに、全然回ってこないんだけど」と言われてしまったりする。期待値という意味では、適切な仕事がやってこない、ということもあるわけです。

それに加えて僕がすごく苦戦したことがあります。いろんな言葉が足らずに、「何をやるかをちゃんと説明したり、事業計画がしっかりしていないトップは良くない」とすごく言われていました。

そこで会社の目標をしっかりとつくろう、会社が上手くワークするためには、それにピッタリの評価基準が必要だ、みたいなことが社内で言われるとうになり、流行りの「OKR」を取り入れようとしました。

でも一瞬で、やめることになったのです。

「OKRってなんだ?」からの導入へ

「評価がないと人は走れない」という前提に立ったとき、次に必要になるのは「良い評価基準」です。それで当時、スタートアップの中では「Googleとかが使っているOKRというものがイケているらしい」という話が出てきました。それでVoicyとしても「そんじゃあOKRを入れようか」ということになったんですけれど、僕は「OKRって何?」みたいな理解度でした。

それでまずはOKRを導入したことがあるというメンバーにプロジェクトに入ってもらって、皆でOKR合宿をやったんです。OKRの本を読んで、「OKRってこういうものじゃないか?」ということをやったんですけれど、それがまあ全然ワークしなかった(笑)

OKRとは「Objective and Key Result」の略で、要は「こういう結果を得るためには、それぞれのメンバーに考えてもらって、動いてもらおう」とか、「マネジメントがすごく大事だよ」というものなんです。

でも正直、僕は「みんなでワンピースを獲りに行くぞー!」というときに、「評価が大事だ」とか、「やることを事前に決めて、ちゃんとやったかどうかのフィードバックが大事だ」と言っている人はなぁ、という気持ちもどこかにありました。

理想はマネジメントフリーで走れること

「そういう評価基準が大事だ」と言う気持ちもわかるんですけれど、僕は“スタートアップしているとき”は、マネジメントが大事なんじゃなくて、マネジメントフリーに全員が全力で走れる状態のほうが大事なんじゃないかと、すごく思っています。

結局、Voicyでは2〜3か月間OKRの勉強をして、みんなの目標を決めて入れてみたけれど、初月から上手くワークしない、という結果になりました。

そんなことより、「3か月後にとりあえずここまでいこう」「1か月後はここまでいこう」という旗だけを立てて、全力で走っていく。何のためにやっているのかといったら、それはもう、ユーザーを喜ばせるためだとか、音声の文化をつくるため。

だから、Voicyの場合は、良い仕組みをつくらないと回らない会社じゃなくて、仕組みなんかなくても全力で走れる会社にしていく必要があったのかな、とも思います。

OKRを入れたときのことを振り返ると、なんというか理想と違いすぎて、全然マッチしてなかったです。小学生がアメリカのトップモデルの服の着こなしを真似している、みたいな感じになってました。バスケを始めてすぐにマイケル・ジョーダンの真似をする、みたいなもの。「なんて無駄な時間を過ごしたんだ」と思います。

その思考の未熟さというもの自体も恥ずかしいですが、でも、「なんとかして今を打破しないといけないんじゃないか?」と思って、やってしまうわけです。だから、もちろんOKRという概念自体は素晴らしいとは思うんだけれど、会社によっては上手く回る仕組みとかをつくること以上に、放っておいても同じ方向に走るようなメンバー集めと風土づくりのほうが大事という見方もあります。

スタートアップの熱狂と仕組み化と

目標と、そのためのステップと、評価の仕組みをしっかりと入れていくということは、“スタートアップ初期の終焉”だと思います。それまでは熱狂できるスタートアップをできる限り長く続けるほうがいいのかもしれません。僕がやっているような会社では、そういうところがあったのかなと思います。

それが実体験でやーっとわかってきた。商品が決まっていて、あとは売るだけ、みたいなフェーズの会社だったら、もっと早めに仕組みによる経営を導入したりするのかもしれないですけれど。

Voicyはしばらくは熱狂と仕組み化の中間くらいにいるのでしょう。もちろん僕は説明を尽くして、旗を立てていきますが、同時にみんなが自分で考えてある種マネジメントフリーに全力で走っていけるような組織にしていきたいとも思っています。

ーー最後まで読んでいただきありがとうございました。

声の編集後記

記事の執筆後に、当時のことを振り返って音声でも話しています。よかったらこちらもお聞きください。



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緒方憲太郎(Voicy代表)
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