「自分のサッカーチームにめちゃくちゃ上手いやつが入ってきた」Voicy代表のClubhouse大解剖 【声の履歴書Vol.42】
こんにちは。Voicy代表の緒方です。
この「声の履歴書」という連載は、Voicyがこれまで歩んできた道のりについて創業者の私があれこれ語っていこうというシリーズです。よかったらマガジンをフォローしてくれると嬉しいです。
今回も先週から日本のインターネットを騒がせている「Clubhouse」というSNSについて分析してみます。
Clubhouseは音声メディアにどのような影響を与えるのか。その可能性みたいなところを整理していきます。
前回はClubhouseのサービス設計としての面白さについて書きましたが、今回はちょっと視点を変えて見てみましょう。
▼前回の記事はこちら
世界中の誰もがいきなり使えるレベルのサービス
Clubhouseは初めから海外に出て一気にグロースする気が満々だったのがわかります(まあシリコンバレー発のサービスはだいたいそうなんですけども)。
例えばアプリのほとんどのアイコンがイラストになっていて、難しい英語は「QUIETLY」くらいです。
あとは「ROOM」とか「LEAVE」とかですね。それ以外はなんの説明もないのに僕らは使えるんですよ。たぶん世界中の誰でも使えますよね。
一般的には、言語の壁があるから音声サービスは国をまたいで海外に出ていきにくいと思われていました。日本にもなかなか入ってきにくいから、日本では国内サービスの牙城がつくるんじゃないかと。
投資家の中でも音声サービスはローカライズが難しいと言われてきました。ローカライズの難しさというのは、日本の旧来の文化の部分だったりとか、日本語そのものの難易度もあります。
そこをしっかり見極めて、デザインの部分でも日本人ウケして、世界中で面白がられるものがしっかりとつくれたというところは、まじですごいなと思いました。
招待した人の名前、クラッカー、アイコンの人
このサービス、細かいところですごく変わっているなと思うんです。たとえば自分を招待した人の名前がずっと残っていて辿れるとか、最近サインアップした人のアイコンには「おめでとう」みたいなクラッカーのマークがずっとついているとか…。
本当にこれっているの!?という機能がたくさんあって、それが意外と面白かったりするんです。変だけどいいな、と思える。
これは天才ですよ。
日本のベンチャー企業がサービスをつくるときって、新機能を出して、PDCAをまわして、ここはこう変えましょうみたいな感じで、ゴテゴテと上に載ったガンダムみたいになるんです。だから、すごく不格好になる。
上手いプロダクトをつくれる人はそれをできるだけやめて、あるべき姿をイメージする。3年後をイメージして、そこから逆算して設計し、今できることをやる。そうすると整合性がとれて、ゴツゴツしたものにならないわけです。
設計したところからさらに引き算していって、どうやったら要素だけを抽出したものだけがつくれるかーー。アプリの中には課題というものがいっぱいあります。その課題の1つ1つを解決するのがソリューションなんですけど、ソリューションばかりをアプリに詰め込むと、ゴテゴテしたプロダクトになっちゃうんです。
課題の3つ4つを同時にまとめて解決することを「アイデア」と呼ぶわけですが、そういうアイデアをいろいろと入れていくと、打ち手を少なくしても上手い具合に全体のバランスが取れていくというところが見どころなんです。そうやって引き算をしていって、素晴らしいアプリが生まれる。
Clubhouseに見る、引き算を重ねた無駄の多さ
けれど引き算をずっとやっていくと、本当にこれで人のコアな欲求に刺せるのか? どこかでバランスが崩れないか? という不安も出てきます。いろんな要素を引きまくった末に、人の欲求の渦のところにちょうど合わせないといけない。
Clubhouseはそういった視点で見ると、極限までシンプルに引き算がされているのに、招待した人の名前を載せるだとか、クラッカーだとか、それはいらんやん、と。
さらにアプリのアイコンが普通のおじさんの写真なんですよ。
こっちはアイコンデザインとかを散々考えているのに(笑)
Voicyの最初のアプリは頭文字の「V」をとって、Vだけのアイコンだったんですけど、いろんなユーザーからブーブー言われたんです。
ロゴが格好悪いから載せたくないです、とまで言われました。わかりやすいやんけ、と思いながらやっぱり変えたわけですよ。リニューアルして、アプリのアイコンとか、ロゴとか、すごくかっこよくしました。
そこで一気に流行ってきたのが、おじさんのアイコンですよ。
このClubhouseってサービスは何もかも感性でやっているのかなと思うんです。ここまで大胆にできるデザイナーがいるのか、代表自ら牽引しているのか、どっちにしても恐れ入りました。
音声はキラーコンテンツだけが「待ち」の状態だった。
ではClubhouse以前と以後で、音声サービスのつくり方は変わるのか?
確実に変わると思います。
海外市場やSpotifyとかPodcastとかも含めて、僕らがもともと目指していたのは、音声で「絶対に聞かないと駄目」というコンテンツをちゃんとつくれるかどうか。それさえあれば人は必ず聞くようになって、イヤホンの準備をする。
いままでの音声サービス市場ってこんな感じでした。
「緒方さん、音声で起業するんですか? 聞く場所も喋る場所もないですよ」
みんなイヤホンなんて持ち歩いてないし、そもそも音声はいらないし、字幕でOKだし、ということを散々言われて、風変わりなやつだと思われていたわけです。
じゃあその中で、どうやったら音声コンテンツがメジャーになるか、人の世界の中にちゃんと染み込んでいくか。そう考えていったときに「週に1回か2回絶対に聞くというコンテンツ」を、日本の中のどこかのプレイヤーが生み出さないといけないと思っていたんです。
Spotifyも同じことを考えていて、けっこうなコストをかけてPodcastの番組をつくろうとしているわけです。
必ず聞かないといけないものがテレビなどの目の世界にないんだったらイヤホンを買おう、イヤホンを持ち歩こう、という文化ができてくると思うんです。そうなってくれば、みんな音声を聞くのが当たり前になる。
そもそも聞く準備ができていない人がめちゃくちゃ多かったのが、音声業界の課題だったんです。けれどClubhouseができたことで、1週間に4、5回は音声を聞く準備ができていく。そういう人口が、今めちゃくちゃ増えているわけです。みんなイヤホンをする時間が増えたんじゃないかと思うんです。
ここ3年間で革新的だったガジェットで、上位に入るのがAirPodsとスマートスピーカーだと思います。そういう状態になっていて、あとは毎日聞きたくなるコンテンツだけが「ラストの待ち」だったんです。
付けっぱなしのワイヤレスイヤホン、声で操作するOSが揃って伸びている。ハードウェアとOSが伸びた産業で、コンテンツが伸びていないところなんてないんですよ。なのでもう結構いろんな企業家が、この分野は来ると思って見ていた状態だと思うんです。
アーカイブコンテンツへのニーズはむしろ高まる
これから誰もが毎日Clubhouseを聞くようになったら、他の音声サービスも同時に噴き上がると思います。
Clubhouseを聞いている人って、なんか耳が寂しいとか、BGMにしている側面もあります。
トップ層のコンテンツは「この人とこの人が喋るなんて…!」みたいなすごいものもありますが、やっぱり自分の時間を無駄に使いたくない、意味のあるものをちゃんと聞きたいというニーズは十分残ってくる。
なので、Voicyだったり、Podcastだったり、アーカイブとして意味のあるコンテンツはむしろ伸びてくるでしょう。
いまでも松下幸之助さんの声は聞きたいし、電気がついた瞬間のエジソンの「できた」という声が残っていたら、ちょっと聞いてみたい。昔の人の写真はあるけれど、声ってないじゃないですか。織田信長の声とか聞きたいですよね。
僕の実家、家の納戸にFAX付きテレビをずっと置いているんですけれど、大きいし、壊れてるし、もう捨てたい。でもおかんが捨てられないのは、留守録に死んだばあちゃんの声が入っているから。
やっぱり、声はちゃんとストックとして置いておきたいんです。
たとえば「Twitterをやっているけど今度noteもちゃんと書いてみよう」という人は一定数いると思うんです。
ClubhouseとVoicyの関係は、おそらくTwitterとnoteの関係になると思います。フローとストック。なので、Voicyはいままさにウェーブに乗っている感じだと思います。
Clubhouseではプロのファシリテーターの価値が増す
あとはちょっと新しい能力が生まれる気もしています。人の話を上手く聞いてまわす「MC」の役割って、上手い人はめちゃくちゃ上手いんです。漫才でいえば、ツッコミに近い感じで人をいかせる人。
ああいったトークができる人がClubhouse上でけっこう可視化されてきている。たとえば「緒方さんはまわすのが上手いから、私のルームに来てほしい」とかね。そういうまわし屋みたいなものが1つの新しい特技になるかもしれない。
トークを上手く回せるのって才能なんです。プロのファシリテーターとして、Clubhouseで転々と生きていくみたいな。そういう仕事は出てくると思う。
たとえば今は結婚式とかがなかなか開かれないので、プロの司会業みたいな人がClubhouseで活躍するでしょうね。企業のイベント的なルームに雇われて場をまわすとか、そういったお仕事ができたりしたらすごく面白いです。
たとえば、「Voicyの緒方さん、ファシリテーターとして入ってください。あなたのフォロワーを連れてきながらイベントをまわしてください」とか依頼があって、「じゃあ行きましょう、今回はおいくらになります」みたいなことは起きるかもしれないですね。
僕は声で人を喜ばせることができる人たちに仕事をたくさん与えたりとか、その人たちのしゃべりによって文化をつくりたいと思っています。Voicyでは1ヶ月でだいたい100万円くらい稼げるプレイヤーも出てきました。
ようやく声がエンタメになって、文化になって、稼ぐ人が出る世界をつくれたと思っていたら、さらに横ではコンテンツじゃない、コミュニケーション側のところで仕事をつくろうとしている。
これはいい流れが来たな、と思いました。
いい刺激というか、その方向性があったんだ、という気づきを与えてくれました。より市場が活性化しそうです。
自分のチームにめちゃくちゃ上手いやつが入ってきた感覚
もちろんClubhouseの登場は悔しい。でも例えるなら、自分のサッカーチームにめちゃくちゃ上手いやつが入ってきた感じです。
めちゃくちゃ悔しいけれど、こんな上手いやつと一緒にプレーできるのは嬉しいという気持ち。
レギュラー争いは激しくなるけど、きっとチームは強くなるぞ、という期待感に溢れています。一緒に良いチームを組めると思うし、そいつが入ることによって、チームはどんどん勝てるだろうなって。
なので僕としてはClubhouseの流行は大歓迎です。今年の音声業界はいきなり面白くなりそうです。
ーー次回もよろしくお願いします。
声の編集後記
音声では毎回ここには書けない裏話をお届けします!よかったら聴いてみてください。
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