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起業家の自信と不安とアドリブと…。【声の履歴書 Vol.35】

こんにちは。Voicy代表の緒方憲太郎です。

この「声の履歴書」という連載は、Voicyがこれまで歩んできた道のりについて創業者の私があれこれ語っていこうというシリーズです。よかったらマガジンをフォローしてくれると嬉しいです。

今回は起業家として自信を持つことが大事、でもたまに不安になることもあるという話をつらつらと書いてみました。

声の履歴書 Vol.35-2


起業家は自信を持って言い切るしかない

前回、投資を受けたときの話をしましたが、それに関連して「バリュエーション」という言葉があります。

これは企業の価値評価のこと。 例えばVoicyという会社が10%の株式を投資家に渡す代わりに3億円の資金を調達したら、Voicyのバリュエーションは30億円(10%が3億なので)となるわけです。

でもこのバリュエーションという数字は起業家の「言い値」なんですよね。

例えばVoicyの2回目の調達のときは「5億円でいこう」と考えていました。何人かの投資家は「5億ね、ふんふん」みたいな感じで進みます。

でも人によっては「面白い事業だから出すよ。でもちょっと高いな」ってなったりします。「3億円ぐらいじゃない?」とかね。

そういうときは意見を呑んで「じゃあ3億で」と落とし所をつける。他の投資家にも「やっぱり3億円でお願いします」と合わせてもらう必要が出てくる、なんてこともあります。

なのでバリュエーションとは、初めは起業家の言い値で、それで折り合いがつけば決定。でも自分がいくら「5億円だ、5億円」って主張しても、投資家が「3億円だったら出すけど5億円はないな」と言ったらまとまりません。

もちろん現実味のない金額ではただのボッタクリです。いま自分たちはこういうマーケットを目指していて、ここまで来てるからこの金額だと思うってちゃんと説得する必要があります。

ちなみに僕はそのあとVCに出資してもらう「シリーズA」では30億円って言うんですけど、細かいロジックよりも覚悟の言い値の金額になります。でも出してくれた人がいたからその価格になりました。スタートアップでは夢と覚悟を信じて貰える人がいるかどうかがとても大事です。

「うーん、10億円くらいですかね」って言う人もいました。企業の価値評価というのはもちろん人によって全然違います。だからもう度胸を持って言い切るしかない、「この金額っす」って。そういうところはありますね。

そして、その言葉を言ったからにはちゃんと責任を取らないといけません。事業をその投資に見合うだけの成功に導かなければいけない。集めたら集めたなりに、プレッシャーも出てきます。

ベンチャー支援のときは言えたコトバ

僕はベンチャー支援の仕事をしていたときに、そのプレッシャーでつぶれそうな経営者をたくさん見てきました。そんなときにいろいろなアドバイスをしてきましたが、そこで僕が必ず言うことは「出資した奴も悪い」でした。

どういうことかというと、株式会社は有限責任会社やと、彼らができない仕事を起業家が時間・人生、全部使って活動してんねんから、むしろお金で働かされとんねんと。向こうだってうまく行かない可能性が十分あることも含めてお金を出してるわけだから、もう出した奴も悪いと。

そういうふうに励ましてきたわけですね。なので自分も一応それに倣って、出した奴も悪いと……

思い込もうとしましたけど、絶対に無理ですね(笑)

頭ではそう考えることもできますけど、いまこの立場になってみると、やっぱりプレッシャーは感じるんですよね。言うのは簡単です。

アドリブが得意。 裏を返せば「覚えられない」

プレッシャーといえばちょっと話が戻りますけど、Voicyのサービスをリリースをする時に、ずっとお世話になっていたKDDIのインキュベーション施設の卒業ピッチ(プレゼン)イベントがありました。

僕はそれまでピッチはそれなりに得意というか、とにかくたくさん数をこなしてきたのでまったく苦にしていなかった。

でもKDDIのプレゼンで初めて、ちゃんとやらなくちゃと思って台本書いていったんですよ。

それまではけっこう適当なもので、台本なんて1度も作らずぶっつけ本番だったんですよね。

それを初めて全部覚えていったんですよ。そうしたらリハで、ガチガチになってっていうか、もう全然言葉を思いつかないんですよ。そもそも頭がそういう構造になっていないということを知らなかった。

アドリブが得意だと思っていたのは、実はアドリブしかできないっていうことに気づいたんです。覚えるのは不可だったんですよ、人間としての仕様として。

だけど僕はなんとなく、覚えてしゃべるのは当然できる。あえてアドリブでやってるんだ、ぐらいの気持ちでやっていた。それが初めて人生で覚えるのをやったら何もできなかったんです。

翌年、大規模イベント「TechCrunch Tokyo」でのプレゼンは、社員の皆も応援してくれて、資金調達もしていた。

自分の失敗が多くの仲間のチャンスの芽を摘むかもしれないって初めて思ったんですよね。いままで自由人に生きていた人間が、初めていろんなものを背負っているというのを感じました。

最初に3000万借りた時ではなく、TechCrunchのプレゼンのほうがむしろ何かを背負う感じはありました。

採用もしてるし、ユーザーも増えている。そこでしょぼいプレゼンして、最下位とかになったら、皆が頑張ってくれてるのに申し訳ない。誰かに申し訳ないと思うから、人は緊張するんですね。

ほどよい緊張感は大事なのかもしれません。


ーー以上、次回もよろしくお願いします。

声の編集後記


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