Take The Book Back - ライブラリアンの名のもとに
先日、俺が小学生くらいのときに、初体験だの夏の性体験だのの短編を集めた、変な文庫本があったということを思い出した。
こういうやつだ。
平成・令和っ子には、なんでそんなのがあったのかサッパリわからないと思うのだが、80sあたりには、なぜか
「女子高生は、大人になるために初体験を心のなかで望んでいる」
「女子大生は、どこかで性的に冒険したい気持ちがある」
という、昭和おっさんに都合の良いエロ妄想みたいなのがあった。それは令和ですら時々それを引きずってるオッサンもいるので注意だ。
その妄想は様々な文化と魔合体し、
・ヤンキー系少女ファンシー恋愛との融合
「キッスの味はレモンの味(はあと)」とか「恋のABC」とか、ファンシー・パッケージのエロ。
・バカ童貞との融合
「パンツの穴」とか「毎度おさがわせします」などのパロディ系エロ。
思い出しただけで「もう勘弁してくれ」という、頭のおかしいカルチャーが実際、日本にあったわけである。
最初にお伝えしたあの文庫本は、そんな少女ファンタジー、実録もの、バカ童貞エピソード、などを全部集めたような奴だった様な気がする。
レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンが様々な音楽ジャンルからミクスチャーを行って、独自のグルーヴを出していたように、あの文庫本も、当時のしょうもないエロ話をミックスして、当時のバカ少年少女をレイヴ・オン!させていたのであろう。
そんな、かすかに記憶に残っている狂ったエロカルチャーを思い出している中、中学校時代に俺が図書室係だった時の、その時代ならではの俺の悪行が蘇った。
ここでその懺悔も込めて、俺の罪を告白したいと思う。
1.図書室係になる
俺が中学生の時は、なにかしら学校行事の係にならねばならなかった。
清掃係とか授業の準備係とか色々あったのだが、俺が選んだのは、中学校の図書室係であった。
図書室係とは、まんま図書室の係で、週だったか隔週だったかに一度、昼休み&放課後に図書室に出向き、生徒から本の借し出しや返却を受け付ける係である。
当時は本を借りるときは、借りた人の名前、日付を書く図書カードが本についており、それを記入して係に渡す。
そして係はそのカードを保管し、返却されたときに、そのカードにはんこを押して、元の本棚に戻すのである。
2.図書室係のひらめき
…とは言うものの、平日の放課後なんざ、授業が終わって1時間を過ぎると誰も来ない。
その上2人1組で俺と委員のコンビを組んでいた奴は、ヤンキーに憧れてたバカで、そういう係をサボるのがワルでクールと信じてたわけである。なんてセコいワルだ。
俺は、まあまあ本が好きな方だったので、図書室係そのものは嫌いではなかった。
だが、一方で自分が借りた本を返すのを遅れるのを誤魔化すため、ハンコでは”済”と黒ハンコで押すなど(遅れると本当は赤ハンコ)の悪事を働く毎日だった。俺もセコいワルだが。
そんな中、俺は当番の度に図書室で一人になる時間が多かったのだが、ある日、本についている図書カードを見ていて、
…これって、俺が勝手に書いても誰も分からんよな
ということに気が付き、ある悪戯を思いついた。
3.男子中学生のピラミッドシステム
当時の男子中学生にとっての最大の屈辱の一つは「あいつはエロい」というレッテルを貼られることである。
当時の俺の中学校では、男子は下の図のようなピラミッドシステムになっていた。すなわち、最下位のリーグに降格すると、男子からも女子からド畜生扱いされるわけである。
<プレミア>
イケメンなヤンキーもしくは運動神経いいやつ
<チャンピオンシップ>
普通のヤンキー・普通に運動神経いいやつ
<ナショナルリーグ>
学業も運動も普通のやつ
ーーーー バレンタインで女子からチョコが貰える壁 ーーーー
<カンファレンスリーグ・ノース/サウス>
コメディ枠(俺はこのへん)/ヤンキーではないがバカ
<地域リーグ>
成績上位陣・生徒会など、体制側のクソ野郎/アニオタ・ゲーオタ
ーーーー ド畜生 ーーーー
<サンデーモーニング・チーム>
エロのレッテルを貼られる/トイレで大便をしてしまったのがバレる
そのエロ認定は、本屋でエロ本を立ち読みしていたとか、エロ映画の看板をずっと見ていたとか、そういう実証拠が元となる。
よって、ボンクラはよく誰かに見つかってしまい、畜生リーグに放りこまれる羽目になる。その場合、数カ月はそのカテゴリで耐え難きを耐えねばならない。
ちなみに俺もこの畜生エロリーグに入れられ、非常にツラい日々を送ったことがある(理由は下記Twitterのスレッド参照)。
4.太陽がいっぱい
そのピラミッドシステムに関連して、中学校では真面目な性教育の本ですら、全てエロ本扱いだったのだが、校内で「図書室にエロい本がある」として有名だったのは
「思春期へのメッセージ」
という性教育の本であった。
当時のクラスの男子は、自身のリーグ降格を警戒して、その書を手に取る勇者はいなかった。
俺はその、伝説の本の図書カードを抜いた。もちろん図書カードは、誰も借りないからまっ白である。
そこに当時の友人、三浦の名前を20回くらい書き、それぞれの日付と”済”ハンコをバンバン押した。
奴は俺にトールキンを教えてくれた恩人でもあるのだが、それを逆手に取り、彼の借りたホビットの冒険だかを探して彼の筆跡を研究した。
そして彼の名を真似た筆跡で図書カードに記入する際、ボールペンを毎回変えたり、ハンコを時々赤くしたり、押す力を変えたりしたのだ。
映画でいえば「太陽がいっぱい」のアラン・ドロンが、パスポートを偽造するシーンとダブるぜ!
これで、この本の図書カードを見た奴は、三浦が本当に借りたと思うだろう。
そして次の日。
俺は奴を図書室に呼びだした。
「お前エロだな!こんな本、何度借りて読んでるんだ!」
と言いながら、三浦にその本と図書カードを見せると
「お、俺は!一回も借りてないぞ!なんだコレ!?」
と、顔面蒼白になって大慌てする姿に、俺は腹を抱えて笑ったのだった。
5.思惑が外れる
奴の「思春期へのメッセージ」への慌てようがあんまりにオカシかったので、さらに悪戯はエスカレートした。
また図書室係の地位を利用し、その本を外部に持ち出すと、今度は奴の学生カバンの中に入れておいた(奴と俺は、当時同じ部活をやっていたので、そんなことは朝飯前である)。
その時の俺のシナリオでは
1. 俺が部活の終わりになんだかんだでカバンを開けさせる
2. そこで三浦のカバンから「思春期へのメッセージ」を発見する
3.「お前やっぱり借りてるじゃねえか!このエロ!」と叫び、ヤツのエロリーグ降格の決定的瞬間を作る。
となるハズだった。
しかし!
しかし!
奴は部活を早退してしまったのだった。
というわけで、奴は家に持って帰ってしまった。
6.ライブラリアンの良心と後悔
…次の日、奴は俺のところに怒鳴りこんできた。
「変な本、カバンに入れたのお前だろ!」
「お母さんに見つかっただろ!バカヤロウ!」
「図書カードも見られて、お父さんにも怒られたんだぞ!」
…その場で涙が出るほど大笑いした俺は、本をどうしたかと奴に聞いた。
すると、
「田んぼの藁の山のとこのビニールシートの下に隠したわ!」
と吐き捨てるように言った。
さんざん悪事を働いた俺でも、図書室係のスピリットは持っていた(持っていたうちに入らないが)ので、本を田んぼまで取りに行き、そっと図書室の本棚に戻した。
...以上が俺の告白である。
図書カードの管理は、本が無くなった時くらいしか行われていなかったので、俺と三浦以外はこの本が一時とはいえ、正式なルート以外に図書室外に出た事を知る人はこの世に居ないハズである。
それでもそこは今でも本の立場を考えると、心が痛むと言えば痛む。
今もあの「思春期へのメッセージ」は中学校にあるのかな。
三浦という苗字の生徒名が20個くらい連続で書いてある図書カードと共に。