香港上陸前に知っときたかったこと:精神衛生編
オチから言うと、基本的にグランジでダラシない俺が、なぜか香港でフィットネスジムに通うことになってしまった、という精神状態の記録である。
▼香港で(野郎)一人暮らし!
香港渡航前、俺は「香港!楽しいに決まってるだろ!あのフェイ・ウォンが街角で軽食売ってて、アンディ・ラウが警察に潜入してた国やぞ!」と思っていたわけである。
過去の経験上、俺の英国・カーディフでの最初のひとり暮らし期間は、とにかくいろいろやることがあったし(メインは家族が来るための準備)、その間に海辺に行くだの、庭の手入れだの、花を見て風を見て目をそらさず、と原田知世的な、やること満載だった体験がある。
そのうえ英国と違い、簡単にうまいもんが手に入る。なんせ周りはすべて東アジアスーパーだ。その上、東アジア人この野郎!とレイシスト共に殴られる危険性はかなり低い。
なんのストレスがあるというのか。
▼だがそれは妄想だ!
しかしだ!
家族が帯同しない一人暮らしは、自分の身の回りはすぐに揃ってしまう。俺たちの味方、IKEAに3回くらい行ったら終了である。
一通り生活の基盤が出来、さてこれからが俺のワンダフル・ライフ!と思ったが、現実には言語の壁が思いの外デカく、到着時に真っ先に広東語教室に行けば良かったと後悔したのだが、そのタイミングでちょうど香港のロックダウンみたいなのが始まった。
オフィスには誰も来ねえわ(数カ月は俺一人出勤だった)、スーパーマーケットすら夕方にとっとと閉まるわ、語学学校は閉鎖かオンラインだ。
俺が外出するほぼ唯一の理由のスポーツ観戦すら、どの競技も閉鎖という、ワーストタイミングだったわけである。
さらにだ。
いくら待っても、クランベリーズをBGMに、短髪でグラサンのイケてるスケが俺の部屋に掃除に来ない。
ううーむ、これでは日本に居ても一緒ではないか…
▼マズい自分に気づく
この頃は、普段の仕事がある平日は特に問題ないのだが、これがふと休日になったとき「今日は何をすればいいんや…」と憂鬱になった。
そんな中、ふと俺が「家族を日本に置いて1人で香港に行く」と伝えたときの、義理の両親からの言葉が頭をよぎったわけである。
その言葉を聞いたとき、ありえねえええ!なんで俺がそんなギラついた昭和的☆中年オッサンみたいに(脳内イメージは山城新伍)ならなきゃいけないんすか!
と思ったのだが、こんな精神状態だと、少しわかる気がしてきたのである。
この状況のタイミングで…日本語ができる女子が来たら…いやマルチ商法とか新興宗教の男子でもいいのだが、ソーシャルアクション不足なこの状況下では、相手の国籍だの性別だの年齢だの関係なく、接近されたら騙される可能性が高いぜ俺は!
なんとなくだが、この時間の持て余しは「フラッとなにか悪いものにハマりそうな気がする」もしくは逆に「なんか自分がストーカーとかそういうものになりそうな気がする」という嫌な予感である。
俺は…俺は…どうなっちまうんだ…
と、厨二病のアニメのキャラみたいなことを思い始めたタイミングで、運良く香港のクソ隔離2週間が1週間になった。だからすぐに航空チケットを買い、日本に2ヶ月ほど帰国することにした。ちょうど日本での仕事もあったからだ。
▼そして香港に戻る
日本に帰国して家族と会い、もちろん精神的には落ち着いた。
一方俺は日本に職場が無いので、しゃあないから家で仕事をしていたわけだが、これがどうもアカンかったらしく、日本での最終日に初めて腰痛というものを体験したわけである。
香港でクソったれホテル隔離1週間を終えたが、まだ痛い。痛いのはしゃあないのだが、また1人というのがめちゃくちゃ精神的に弱らせるわけである。病は気からではなく、病が気を弱らせるもんである。
こりゃアカンわと香港ローカルの病院に行った。英国の7年間では1度も病院に行かなかったのだが。
「運動不足ですね。とりあえずリハビリして、そのあとハイキングか水泳しなさい。うん、じゃ、あと念のため来週来てね。次来たらもう通院しなくていいから」とお医者さんに言われる。
「グランジでロックな俺がハイキング…だと…ククク、笑わせるぜ!」
とニヒルに構えて、そんなことやってられっかとその日はすませた。
▼知人のアドバイス
通院の翌日はたまたま、他社の顔なじみの人が香港駐在になったというので、一緒に晩飯を食うことにした。もうこの時期は香港もまともに外食もできるようになったからだ。
彼も単身だったので、俺の悩みである「このままでは俺はアカンと思うので、なんかいいモンはないスかね」と聞くと、彼いわく「フィットネス・ジムはイイですよ」と言う。
ふぃ、ふぃっとねす…
ジムに行くやつなんざ、小金持っててエグゼクティブなホワイトカラーどもやんけ!
と彼に問うと、彼はバカを説得するように優しく教えてくれたのであった。
そんなもんかねえ。
▼再度病院に行く
「痛みは消えたと。もう大丈夫ですね。これで診察はおしまいです」
「なにか質問はありますか?」
香港訛りの英語でセンセーがにこやかに診察してくれたのだが、ここで俺はアドバイスされた話をしてみた。
「先生はハイキングと水泳が腰にはイイと言ってましたが、ジムはどうですかね?知人に勧められたのですが」と聞くと
「軽めならいいですよ。無理はダメです。あと何度も言いますが、座り続けるのはやめなさい。座り続けるのはお酒やタバコよりも体に悪い」
彼からジム行きのお墨付きをもらったのであった。最後はちょっと極論な気がするが、タバコより座るほうが悪い、というのは素晴らしい考えである。
▼ロックな俺がなぜかジムに行く
こんな俺だが、今では週に3-4日くらいはフィットネスジムに通い、そして広東語教室にも通いはじめ、毎日最低1時間位は勉強するようになった。
こう書くとまるでキラキラした意識高いような行動に見えるが、全ては「俺が美人局に引っかかったらどうしよう」という自意識過剰な恐怖か「暇過ぎて憂鬱だ」というとんでもなく後ろ向きなモチベーションである。
てか正直いうと、ジムも勉強もどっちも面倒くさいが、ワクチンみたいなもんである。要は、昭和な浮気やマルチにハマるという第2次厨二病とも呼ぶべき病気への予防なのだ。
Twitterやインスタでキラってるオッサンたちをみると、以前は「全員SWATにドアを破壊されて、部屋に突入されてほしい」という想いがあったが、今では「切実な状況を見せるのはみっともないっていうプライドもあるんだろうな」、と、以前から1.37mmくらいは近づいて同情して理解できるようになった気がする。俺も大人になった。
▼エピローグ
そんな精神状態の動きの一方で、ジムで懸垂が3回しかできなくなっていたのは相当自分でがっかりした。
おれはスクールウォーズのイソップか!と毒づきながら、今日も香港で働くのであった。