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グレイス・ペイリー「最後の瞬間のすごく大きな変化」を読んで

オンライン講座の課題図書であるグレイス・ペイリー(1922-2007)の「最後の瞬間のすごく大きな変化」(文春文庫、1999)を読んだ。

おそらく40歳くらいのアレクサンドラが20代半ばくらいのデニスと出会い、セックスをして、子どもを授かる。アレクサンドラが妊娠したと聞いて激昂した父は発作で倒れ…というストーリー。

アレクサンドラはデニスからの「僕のコミューンで育てよう」という誘いを断り、ソーシャルワークの仕事で知り合った同じく身重の女の子たちと支え合って暮らしていくことにする。
と、ピアカウンセリング、ピアサポート的なことをするわけだけど、果たして上手くいったのだろうか。

アレクサンドラは女の子たちに住まいを提供する。女の子たちはアレクサンドラに男について教える。
この関係はギブアンドテイクで平等なようで、そうでもない。アレクサンドラがいなくとも彼女たちには保護者がいたし、必要があれば匿ってくれる機関は他にもあったはずだ。
もし彼女たちが今いる場所が良いものでないのであれば、それを改善させるか、シェルターに入れるのがアレクサンドラの仕事だ。
そうではなくて、わざわざ彼女たちの自宅に訪れて自分の家に住まうように促すーーつまり自分の庇護下に置き、自分が必要とするもの(助言や“支え合い”)を貰う。
妊娠後期〜産後すぐは引越しもままならない。放っておけばすぐ死ぬ生命体も増えている。そんな中で住居に関する決定権を握るということは、かなり強い権力を持つということだ。

これがどうしても私には形を変えた家父長制にしか見えなかった。デニスのコミューンのことも笑えない。

だいたい、男についての助言であれば妊婦でなくても良い。産褥期を考えればせめて妊婦同士でない方が良い。
40歳くらいの大人がやるには短絡的で自己中心的で、ティーンに男についての助言を頂戴して後々まで感謝するというエピソードと合間って、まるでチャム・グループ(共通点を確かめ合い同質性を重視するグループを作りたがる中学生くらいの発達段階)から人生をやり直しているようだなと思った。そのやり直し方がなあ…というところが切ない。人生って難しい。
そして案の定女の子たちには「自分たちより男を気にする」と看破されていて、この関係は早晩行き詰まるだろうなと思わされる。まあ、夜中の頻回授乳あたりでストレスが溜まって誰かが出ていくよ。

正直に言うと、この筆者の作品は苦手だ。
それはたぶん私がフェミニズムというものがあまり好きでないからで、かなり激しいフェミニストだった作者の思想がビシバシ伝わってきてウッてなる。
ロシア系移民のパパがチョコレートプティングに刺さった旗に苦言を呈するとか面白いところもあるのにメインが受け入れられないのは辛い。

あとイマイチ日本語訳がスッと入ってこなくて、英語で読んだ方が分かりやすかった。言い切りの形を避けてきたアレクサンドラの語気が強くなるところとか、表現難しいよなあ。村上春樹をしてこうなんだから、翻訳って大変だよね。

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