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盗み聞き②
課題が進まなすぎてひとりファミレスに行った。
平日の田舎のファミレスはすきすきで、ひとりでも広い卓に案内してもらえる。
ドリンクバーで取ってきたコーヒーで目を覚ましパソコンの電源をつける。
英語の論文をひたすらコピペしてDeepLにかけ翻訳する。日本語になってもよくわからないから研究分野の専門用語集で検索する。
次第に意識が遠のいて手を動かしているだけになっていく。
ついていけない。脳がショートした。糖分を入れよう。
そう思って注文用タッチパネルを手に取った。
するとねこロボットが隣の卓にパフェを届けにやってきた。
…思わず同じものを頼んだ。
隣の卓は女の人二人で、どうやら友達同士らしい。歳は40,50代くらいだろうか。
「いやー、ほんとに素敵な結婚式だったよ」
片方の女の人が言う。
どうやら彼女の姪っ子の結婚式が海外だったらしく、そのお土産話をしているようだった。
姪っ子さんはどうやら国際結婚らしく、結婚式を挙げた後はそのまま現地で暮らすとのことだった。
「結婚式中の両親への手紙の場面では意外にも誰も泣いてなかったのに、空港で別れるときになんかみんなダーーって泣き出してさー、式のときは実感なかったけどやっぱり飛行機乗るときに急に『お別れ』感が現実になって押し寄せて来たみたいで、私叔母なのに一緒に泣いちゃったっけ笑」
「ていうか両親やっぱ反対したのかな、だって国内結婚でさえ結婚式で親泣くくらいだし、海外で暮らすんじゃ本当になかなか会えないでしょー!」
「やー、最初はみんなびっくりしてたし『どうするの?』って言ってたけど、今っておんなじ日本人同士でも離婚したりするのはざらにあるし
そんな中で結婚したいって覚悟を決めるくらいだし認めないほうがおかしいしさ、すごく心配ではあるけど反対する理由もないし認めたんだって」
「すごいな…私自分の娘だったら心配すぎて猛反対しちゃうわ。いやでもそうよね~、この時代に一緒にいたいって思える人がいるだけですばらしいことよね、国境を越えてそう思えるなんですごいって思っちゃう
だってなかなか価値観って国によって違うから合わない事多いだろうに」
「反対したい気持ちもたくさんあったけど本人たち前にしたら反対するのは違うなってなったらしい。まあ、結婚式見てて本当に姪っ子ちゃんが幸せそうで、思うまま、そのままであってほしいって思った。旦那さんもすごくいい人で、てか日本語ぺらぺら過ぎて普通に日本人だと思うくらいだった」
「あー日本に理解がある感じしてそれは安心感あるかも」
「まあほんと、人間関係ってお互いの価値観を理解する努力をし合わないと続かないから、そういう努力を当たり前にできる二人が輝いて見えたわ…」
「国関係なくそうよね…」
「はあ…まぶしかったわ…」
「尊いわね…」
「尊いわ…」
思わず盗み聞きしてしまった。
いや、この会話も尊いわ。
それにしても甘美な沈黙だった。
課題は進まなかった。