身近な事例とドラッカーでDXを考える「産学官地域課題研究会」第1回レポート
こんにちは。地域活性化総合研究所の種延です。
レポートが遅くなってしまったのですが、2022年11月11日に令和4年度 産学官地域課題研究会第1回を開催しました。研究課題を提供してくださった㈱海楽荘 大船渡温泉の志田豊繁様、市内外の参加者の皆様、大船渡市、大船渡商工会議所様に感謝申し上げます。
産学官地域課題研究会とはどういったものなのか、なぜ行うか、実際行ってみてどうだったかを、第1回のレポートと合わせて書いていきたいと思います。今これを書いている僕自身が途中から参加した立ち位置なので、自分なりに解釈してまとめてみようと思います。
産学官地域課題研究会って何?
産学官地域課題研究会は産学官が一体となって地域課題に取り組む研究会です。大船渡市の地場産業高度化・人材育成を目的として始まった事業で、事務局である地活研が取りまとめ、進行・まとめ役として明治大学サービス創新研究所の阪井和男教授を座長としてお呼びし、大船渡市内の事業者を中心に地域課題の見える化に取り組んできた、というのが令和3年度までのアウトラインとなります。
昨年の話を聞いてみると、R3年度から徐々に自分ごととして取り組む兆しが見え始め、経営者たちがお互いのナレッジを活かしながら学び合う場所にしようという方向づけになったようです。
そもそもDXとは何なのか
DXの定義
そもそもDX(デジタルトランスフォーメーション)とは何なのでしょうか。様々な定義がありますが、今回は経済産業省の「デジタルガバナンス・コード2.0」(旧DX推進ガイドライン)で示されている定義を見てみます。
DXはデジタル技術の導入が目的ではないことに注意です。DXの最終的な姿は競争優位性が確立した状態であり、そのためには変革・変容が必要であり、さらにそのためにデジタル技術が活用できる、というロジックになっています。
なぜDXが必要なのか?
こちらも経済産業省のDXレポートを参照してみます。2018年の9月でレポートの背景について次のように述べられています。
デジタル技術を持った新規参入者によって、あらゆる産業のゲームが変わってきているという状況と認識されているようです。ここは誰もが同意する点ではないでしょうか。
これがいわゆる「2025年の壁」と経済産業省が呼んでいるものです。レガシーなシステムがDXの足かせとなっており、このまま放置すると経済損失がすごいことになると国が危機感を持っている、ということですね。このあたりの細かい話は資料のポンチ絵を見たほうがいいかもしれません。
中にはピンとこない人がいるかもしれませんが、個人的には「そらそうよね」という感じです。悲観的な情報ばかりなので付け足しておくと、DX実現シナリオでは「実質GDP130兆円超の押上げ」というのも謳っています。
初版のDXレポートはこのような状況を見て、「レガシーシステムから脱却し、経営を変革」する必要性を報告するものです。 DXレポートは2、2.1、そして2.2とバージョンアップしていきますが、レガシーからの脱却、変革という骨組みは変わりません。
デジタル化は「避けようのない渦」
総務省の情報通信白書はデジタル化の破壊的変化についても触れています。
経産省のレポートで「経済損失」「競争に敗れる」とありますが、もう少し視点を落とすとこのようなディスラプター達が参入・台頭して、既存企業が倒産するという破壊的な市場変化が起きるわけですね。
DXが求められるのが「あらゆる産業」とあるように、このデジタル・ディスラプションはほとんどすべての産業に起こるという認識です。この避けようのない変化を表現するために渦として表現したのがデジタル・ボルテックスです。
まとめるとDXが国レベルで推し進められているのは次のようなストーリーのようです。
デジタル環境に適応するように企業を変容させなければ、競争に破れてしまう。
破壊的変化はあらゆる産業に訪れる。どの産業も逃れることができない。
だから国内企業はDXを推し進めなければならない。
この辺りは個人的に特に異論はないのですが、皆さんはいかがでしょうか。
産学官地域課題研究会は何をするのか
このような状況にあり、令和4年の産学官地域課題研究会はDXを大きなテーマとして取り組むことになりました。上記の議論の通り、DXは単なるデジタル化ではありません。DXを進めるためには顧客や社会のニーズを基にして企業が変容する必要があります。
ドラッカー学会フェロー、明治大学サービス創新研究所所長の阪井和男教授に引き続き座長を務めていただき、取り組むことになりました。
地域の企業、大船渡温泉の具体例で考えるDX
おそらく上記のような環境変化は2022年現在どの地方でも、どの業界でも感じていることだと思います。では具体的にどのようにDXと向き合って変容していくか、という部分について考えるのは非常に難しいのではないでしょうか。最新のDXレポート2.2でもDXは前進しているものの「順調ではない」という指摘があることを認めています。
そこで、抽象的な議論ではなく、大船渡のリアルに沿った具体的な事例を取り上げて、そこからDXについて学ぶ場所にしたらどうか、というプログラム案がでてきました。というのも、これに先立って開かれたライトニングトークイベントの「知の縁側」で、大船渡温泉の志田豊繁社長が経営上の悩みを共有していただいたのですが、その事例がDXを考える上で非常に良い題材なのではないかと思ったからです。
志田社長はデジタル以前の民宿「海楽荘」時代の旅館経営を経験されています。2014年に開業した大船渡温泉は、クラウドファンディングによる資金調達を始めとして、ネット予約、SNSの情報発信も積極的に行っている、大船渡市内でもデジタル活用が進んでいる企業です。
電話で予約をとっていた民宿時代と比べると、デジタル化の恩恵は強く感じられているそうです。一方で、宿泊客―民宿という二者関係から、宿泊客―予約サイト―ホテルという構造になっており、民宿時代との収益構造の大きな違いもあります。
デジタル技術を持った企業が業界に参入してきている状態で、既存業界がどのように収益を伸ばし発展していくか、という課題意識はまさにDXの課題そのもののように感じました。そして、デジタル化を進めていく上で、このような構造の変化は必ず直面するものです。経産省の定義のもとになったIDC Japanの定義では「第3のプラットフォームの利用」というのがDX定義に含まれていることからも伺えます。
漁師である志田社長にとって忙しいシーズンではありますが、テーマ提供をご快諾いただきました。
変容の武器となる「ドラッカーの5つの質問」
DXにおいてデジタルは手段であり、本質は変革・変容という話でした。この主体は経営者・経営層です。事業の変容なので当然といえば当然なのですが、IT部門に任せたり一部の部署からテスト的に始めて到達できるものではありません。このことは経産省のDXレポートに記載があります。
変容のためには経営者が自身の事業を正しく捉え、トップダウンで変容を推し進めていく必要があります。ここで強力な武器になり得るのが「マネジメント」の開発者、現代経営学の父と呼ばれるピーター・F・ドラッカーによるドラッカーの5つの質問です。
この「われわれの事業は何か」という本質的な問いを5つの質問にブレークダウンしたものが5つの質問です。
第1の質問 われわれのミッションは何か
第2の質問 われわれの顧客は誰か
第3の質問 顧客にとっての価値は何か
第4の質問 われわれの成果は何か
第5の質問 われわれの計画は何か
令和4年の産学官地域課題研究会では、ドラッカー学会フェローの阪井教授に例年に引き続き座長を務めていただきます。「大船渡温泉」という身近な事例をケーススタディとして、ドラッカーの5つの質問をどのように適用していくのかを、志田社長だけでなく参加者の皆さんに持ち帰っていただくのが大きな目的です。これを全5回に分けて、毎月1回ずつ進行していきます。
第1回の実施の様子
2022年11月11日に第1回を開催しました。市内外から経営者・NPO団体・行政関係者など13名の方がご参加いただきました。
大船渡温泉の志田社長から、課題に感じていることを共有いただきました。
今回は結晶化ワールドカフェという形式でワークショップを進めました。①参加者を3~4名のグループに分け、話し合い→②ホスト役の1名を残してほかは席替え→③ホスト役が前のメンバーの議論を紹介し、さらに新しいメンバーと議論→④再度、元のグループに戻してそれぞれの場所で聞いた話を共有、という形式です。
出たアイデアは模造紙に書き込みます。
グループでまとまった内容をそれぞれ発表しました。
それぞれのグループの発表に真剣に耳を傾けていた志田社長からも、今回の感想をいただきます。
詳しい内容はネットには挙げられませんが、お互い顔が見える場での議論は鋭い質問や完全にオープンな場では話せない経営的な話もされていたと思います。ワールドカフェを始めとしたワークショップは「隣の人が最大の教育資源」という考え方です。参加者の経験やナレッジをシェアして、深堀りして、新しいアイデアを生み出す場になっていたと思います。
全体として「漁師である社長をもっと前面に出した商品はどうか」「新規とリピーター比率はどのくらいか」など、経営者視点の活発な議論があり、また「どの業界でも似たような構造なんだな」というデジタル化の課題が業界を問わずある程度共通して現れるということも垣間見れました。
次回以降の展開
第1回は参加者の知恵を結集して、たくさんのアイデアが出てきました。これがドラッカーの第5の質問にあたります。次回以降はいよいよドラッカーの5つの質問に本格的に取り組む予定です。
ドラッカーの5つの質問は順番に意味はあるものの、実際は第1から順番どおりに取り組んでもうまくいかないケースが多いのだそうです。そこで、研究会の取り組む順は下の「顧客」側の柱と「われわれ」側の柱で「ミッション」を支える阪井先生のモデルに沿った順番で取り組んでいきます。
結晶化ワールドカフェで参加者のアイデアを吐き出す(第5の質問「われわれの計画」がたくさん出てくる」)
たくさん出てきた計画をすべて実行するのは不可能なので、計画を絞るために「顧客は誰か?」ということを考える(第2の質問)
顧客が定まったら「顧客の価値」を考える(第3の質問)
顧客の柱が固まったら、「われわれの成果」が見えてくる(第4の質問)
「われわれの成果」が定まってくると、「われわれの計画」が見えてくる(第5の質問「われわれの計画」が洗練される)
顧客側の柱とわれわれ側の柱が固まると、「ミッション」が自ずと見えてくる(第1の質問)
第2回の産学官研究会は、たくさん出た「計画」をもとに、第2の質問「顧客」に焦点を当てた内容になる予定です。
反省点
今回実施していくつか反省点もあります。
まず連続構成であるという点が参加者に伝わりづらかったと思います。まず知恵を出していただくという点でドラッカーをあまり前面に出していませんでしたが、全体の構成をまず提示すべきだったかなと思います。これは事務局の準備不足でした。
また、音響設定が事前のテスト不足で聞きづらかったと思います。この点は、現在解消されていいバランスポイントを見つけたと思うので、次回以降は円滑になると思います。
進行も適宜見直しながら、実りのある会にしていきたいと考えておりますので、ぜひ次回以降もご参加よろしくおねがいします。
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