ファッションは自己表現じゃなくて、「自分が進んでいくための指標」だと思う。 「Design Complicity」デザイナーの小暮史人さんへのインタビュー【第2話】
— 小暮さんは、いつごろからファッションに興味を持ちはじめたんですか?
小暮 まだ小学生だったころに、当時高校生の兄から古着のTシャツをもらったのですが、 それがすごくうれしかったことは、今でも覚えています。あれがファッションへの「あこがれ」の入り口だったのかもしれません。
— なるほど。それでは、いわゆる「デザイナーブランド」への興味はどうでしたか?
小暮 専門学校に入って、「マルタンマルジェラ」とか「シンイチロウアラカワ」とかを好きになってからですね。
でも、専門学校に入ってから少しして、パタンナーを目指そうとしたときに、「着ること」よりも「作ること」に興味が完全にむいてしまいました。
だから、専門の最後のほうとか、ANREALAGEのときは毎日おなじような服を着ていたような気がします。
お店に入って服を見ていても、買う対象としては全然見ていなくて、「確かめに行く」ような気持ちでした。
それからある程度時間がたってから、「それじゃダメだな」とおもうタイミングがあったんです。
自分がこれまでに着てこなかった服って、わからないことに気づきました。
きれいな服を着てこなかったひとにきれいな服はつくれないし、土くさい服を着てこなかったひとが土くさい服を作ろうとしても、それはむずかしいんですよ。
多分、自分が着るものにまた目が向くようになったのはDesign Complicityをはじめたあたりですかね。
自分のことを考える時間ができたというのもありますけど。
— では、今のお気に入りはどんな服でしょうか?
小暮 ブランドでいうとスポーツメーカーのNIKEですかね。
NIKEの「NSW」というシリーズがあるんですが、ANREALAGEに入って1年目のときに、忙しさもあったのですごく疲れていて、もう辞めてしまおうかと思った時期があったんです。
そのときに、たまたま通りかかったNIKEのお店でちょうど「NSW」が展開されていて、それがもう、すさまじかったんですよ!
超音波縫製とかウェルダー加工とかレーザーカットを駆使していて、それを見て、またやりたいなって。
やっぱり服っておもしろい、こんな服があるんだ、って思いました。
それから一番好きなブランドはずっとNIKEです。
*「NSW=NIKE Sportswear」
— NIKEのテクノロジーは革新的でやっぱり、夢があります。小暮さんが自分でつくられる服は、「機能性」と「美しさ」の一方をとるなら、どちらをとりますか?
小暮 服をつくり始めたころは見た目のほうを重視してたんですけど、今は機能をとるとおもいます。
「機能的に美しくないもの」は見ためも美しくないことにだんだん気づいてきました。
パターンでいえば、たとえばレディースの服は「からだとの距離をどうやって作るか」というもので、それがギャザーとかタックだったり、ドレープとか、「距離」をつくるためにいろんな手法があって、その中からどれを選択するか、というものだと考えています。
— Design Complicityと「usual design」のダブルネームによる「木漏れ日傘」という作品がありますが、ダブルネームのお相手でもある「usual design」について教えてください。
小暮 「usual design」は僕と、建築の仕事をしている友だちとやっているものづくりユニットです。
20歳くらいのときに、僕はファッションの勉強をしていて、友人は建築を勉強していたけど、おたがいに共通点を知りたいね、と話になりました。
そのころから、おたがい働きながらプロダクトのコンペに応募したりしてたので、おたがいがそれぞれのジャンルじゃない分野でやってみて、ちがう勉強をしてきたはずなのに、なにか共通点が見えたりしたら面白いなと。
そのうちのひとつに東京ミッドタウンのデザインコンペがあったんですけど、「緑の上で使うもの」というのがテーマでした。
そのときにはじめて「木漏れ日傘」のアイデアが出たのですが、「木漏れ日傘」は緑のないところに緑を持ちこむことなので、そのときはテーマに合わなくてボツになったんです。
でも、それからずっとひっかかっていたのか、そのあとで木をモチーフにしたり、服と服以外のものが連動したり、光とか影をテーマにしようと思っていたときに「木漏れ日傘」のことを思い出して、「あれ、面白かったよな」と思ったんです。
— 「木漏れ日傘」はすごくユニークな発想で、ずいぶん話題にもなりました。傘につづく新しいアイテムは作られてるんですか?
小暮 新しいものもつくってはいるんですけど、まだあまりしっくりきていないので、展示会に出したりはしてないんです。
でも、プロダクトの製作もこれからもっとやっていきたいなとは考えてます。
*表紙の画像はDesign Complicity × usual designによる「木漏れ日傘」
ファッションは自己表現じゃなくて、「自分が進んでいくための指標」だと思う。 「Design Complicity」デザイナーの小暮史人さんへのインタビュー【第3話】
*この記事は2014年1月におこなったインタビューを一部編集しなおして再掲しています。