ファッションは自己表現じゃなくて、「自分が進んでいくための指標」だと思う。 「Design Complicity」デザイナーの小暮史人さんへのインタビュー【第3話】
— 小暮さんはいま、「スローファッション」(ファストファッションの逆。質のいい服を、愛着を持って長く着ようとする動き)に興味があるとのことですが、逆にファストファッションについてはいまどう思われていますか?
小暮 ファストファッションは僕たちとは別の業種だと思っています。
ファッションの中のジャンルとしてあるけど、自分とはあまり関係のないこと、と言ったほうがいいでしょうか。
でも、ファストファッションはある意味で新しいひとつの答えであるとも思っています。
「ファストファッション」というのは、要は「市場の早さ」だと思うんですよ。
ファッションの業界が、「流行」を途切れさせないために、市場が止まってしまわないように積みあげていって、その結果として「安くて1年で着られなくなっちゃう服を売る」というのはひとつの正しい答えだと思うし、だから否定はしてないんです。
でも、僕は「市場の早さ」とは関係のないところで動いたほうが、自分のやりたいことに近い気がしているので、戦う場所がちがうのかなと思っています。
— 極論を言ってしまえば、「スローファッション」ではたとえば「卸をせずに自分でつくって自分で売る」というように地産地消してしまうのが一番いいのではないかと思いますし、そういったお店やブランドも近ごろ増えてきてますよね。ああいったやり方についてはどう考えられていますか?
小暮 やり方としては面白いと思いますし、僕もアトリエ兼ショップのようなことはやりたいなと思っています。
でも、卸しをやめてしまうことはリスクも大きいので、うまくバランスをとれればいいんですけどね。
— 卸しといえば、「セール」についても賛否が分かれています。小暮さんはどう思われてますか?
小暮 セールは「すごく嫌」というわけではないんです。
でも、たとえば年末からセールをはじめてしまうのであれば、10月中旬あたりにはもう買い控えてしまうひとも出てくると思いますし、そうなってしまったら商品が店頭に並んでからの「賞味期限」って何か月なんだろう。
それは、明らかにおかしいんですよね。
だからもう、新しいものを良いものとするにサイクルに疲れてしまったし、いやなんです。
そこから抜けだして、そうじゃないことをしたい気持ちはあります。
— 小暮さんの身のまわりにおいているもので、こだわってることや好きなものはありますか?
小暮 「今そこにある自分」を肯定してくれるものが好きですね。
— それはどういったものですか?
小暮 僕は「どう見られたいか」というより、「どうありたいか」のほうが重要だと思っています。
今までは多分、「どう見られたいか」というほうが重要視されてきたと思うから。でも、そういう考え方ってすごく前時代的だなとおもいます。
ファッションは自己表現じゃなくて、自分が進んでいくための指標だと思っていて、だから、「着ること自体」は表現ではないんですよね。
自分の指標をもって、歩いていくことが表現なんだと思っています。
僕としては、社会的にどうだというよりも、自分がそれに対して満足できるというか、それあやっぱり一番大事なので、そういう意味で、やっぱり「自分を肯定できる」ようなことなのかなと思います。
— 今後のDesign Complicityについて考えてることを教えてください。
小暮 いままでは自分でDesign Complicityはこれくらいの価格帯だから、こうして、みたいなパズルを当てはめていくようなやり方でやっていたので、値段とのバランスとかもやっぱり気にしていたのですが、そうじゃなくて、「自分が良いと思うもの」をつくって、値段はあとで決める。
くらいのほうがいいのかなと最近は思います。
「自分が良いと思うものをつくること」以外のことを気にしてばかりいたら、納得いくものがつくれなくなってきたっていうのもあります。
自分がつくっているものを肯定できなくなってしまうのは、多分デザイナーとして一番良くないことだろ思うので。
だったら、自分の納得できるクオリティーのものをつくって、それで値段が上がってしまったら、それはしかたないなと。
その値段に見合うだけのものをつくろうと思います。
そうじゃないと、自分がつくる意味もわからなくなってしまう気がします。
— そういったことが結果として「長く着てもらう工夫」につながっていくのかもしれません。
小暮 そうですね。
— でもたとえば、それで値段がすごく上がってしまったとしても、お客さんはそれについてきてくれるでしょうか。
小暮 「ものがそのひとの価値観をつくっていく」こともあると思うんです。
そのひとの価値観が先にあって、それからものが選ばれるというよりも、ものを選んで、そのものに影響されて、そのひとがまた価値観を育てていくんだとおもいます。
そういう意味では、お客さんに合わせてやっていくというよりも、ファッションブランドをやってるんだから、そういう「あり方」も提案していくべきなんじゃないかとおもっています。
ファッションは自己表現じゃなくて、「自分が進んでいくための指標」だと思う。 「Design Complicity」デザイナーの小暮史人さんへのインタビュー【第1話】
ファッションは自己表現じゃなくて、「自分が進んでいくための指標」だと思う。 「Design Complicity」デザイナーの小暮史人さんへのインタビュー【第2話】
*この記事は2014年1月におこなったインタビューを一部編集しなおして再掲しています。