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日本の米生産原価(人件費除く)の規模別比較(2022~2024年)

日本における米生産コスト(人件費を除く)は、農家の規模によって大きく異なります。以下では大規模農家・中規模農家・小規模農家に分けて、2024年後半時点(最新データは令和5年産=2023年収穫分)での米生産原価をまとめ、過去数年(2022年〈令和4年産〉、2021年〈令和3年産〉など)との比較を示します。データは主に農林水産省の「農業経営統計調査(農産物生産費)」に基づきます。各項目は人件費を含まないため、種子・苗、肥料、農薬、機械費(減価償却含む)、水利費、燃料費、流通・保管などの費用に着目しています。

大規模農家(例:経営面積15~50ha超)

▼ 生産コスト水準: 大規模経営では、単位当たりの生産コストは最も低く抑えられています。令和5年産(2023年)のデータによれば、大規模農家(15ha以上規模)の米生産費(人件費除く)は10aあたり約60~70万円程度です () ()。これは小規模農家の約半分以下の水準で、60kg当たりに換算すると1万1千円台に収まります (23年産米 生産費高止まり 個別経営は10年で最大 肥料高騰が直撃 / 日本農業新聞)。例えば、経営面積50ha以上の農家では60kg当たりの全算入生産費(人件費含む総コスト)が約1万1,165円 ()であり、人件費を除けば1万円強と推定されます。

  • 機械費(減価償却費含む): 大型機械を導入して効率化を図ることで、単位面積あたり約20%前後のコスト構成比となっています ([PDF] 米の生産コストに係る日韓比較)。大規模ほど機械当たりの作付面積が広く、減価償却費や維持管理費の負担が薄まるため、機械費は規模拡大によるコスト低減効果が大きいです。

  • 種子・苗費: 規模による差は小さい項目です。10aあたり数千~1万円程度が目安で、大規模農家では自家採種や一括購入により若干のコスト削減効果が見られます (米作りにかかる費用の目安を教えてほしい)。

  • 肥料費: 化学肥料は大規模でも必要量自体は面積比例ですが、まとめ買いや直販ルートにより若干安く調達できる場合があります。ただし近年は価格高騰の影響が大きく、2023年には前年から約28%増加し10aあたり1万円強(個別経営体比+2,754円、組織法人比+2,513円)に達しました (23年産米 生産費高止まり 個別経営は10年で最大 肥料高騰が直撃 / 日本農業新聞)。肥料費の上昇は全規模で共通の課題です。

  • 農薬費: 病害虫防除のコストで、10aあたり数千円~1万円弱程度です。大規模ほどドローンや省力防除技術の導入による効率化が進んでおり、単位面積あたりでは若干低めに抑えられる傾向があります。近年は農薬価格も上昇傾向で、2023年は微増(数%程度の上昇)しました ()。

  • 水利費: 用水管理費用は地区の水利組合費など固定的な負担が多く、規模当たりでは数千円/10a程度と小さいですが、大規模農家でも面積比例で負担します。水利費自体は毎年大きな変動はなく安定しています (米作りにかかる費用の目安を教えてほしい)。

  • 燃料費: トラクターやコンバイン等の燃料(軽油)コストです。大規模農家は機械作業の効率が高いため5,000~6,000円/10a前後 (米作りにかかる費用の目安を教えてほしい)に抑えられます。しかし燃料単価の上昇は直撃するため、2022年頃に高騰した燃料価格が2023年も高水準を維持し、コスト押上要因となりました。

  • その他の固定・変動費: 米の乾燥・調整・保管コストや流通経費、消耗品費等が該当します。大規模経営では自前で乾燥機・貯蔵庫を備えるケースも多く、設備投資費用の減価償却や維持費が発生します。ただ規模当たりでは効率的に利用できるため、小規模に比べ低コストです。

▼ 過去との比較: 大規模農家の生産費(人件費除く)はこの数年で若干の増加傾向にあります。令和4年産(2022年)は10aあたり約65~75万円程度で、令和3年産(2021年)と比べ概ね横ばい~やや増でした。2023年産では肥料や燃料の価格高騰により非人件費も上昇し、例えば組織法人経営体の全算入生産費は10aあたり9万9,462円と前年より2.7%増加しています (23年産米 生産費高止まり 個別経営は10年で最大 肥料高騰が直撃 / 日本農業新聞)(人件費を含まない物財費ベースでも数%の上昇)。ただし、大規模では米の収量向上などで60kg当たりコストはわずか0.8%減少し1万1,841円となっており、依然として小規模に比べ低コストを維持しています (23年産米 生産費高止まり 個別経営は10年で最大 肥料高騰が直撃 / 日本農業新聞)。政府目標である「担い手(主に大規模)のコメ生産コスト60kg当たり9,600円」には届いていないものの、大規模化によるコスト低減効果は顕著です。

中規模農家(例:経営面積5~15ha前後)

▼ 生産コスト水準: 中規模クラスの農家では、大規模ほどの効率化メリットはないものの、小規模に比べればコストは低減しています。令和5年産(2023年)で見ると、中規模農家(5~15ha程度)の米生産費(人件費除く)は10aあたり約70~85万円前後です(規模区分5~10haで約72,000円、10~15haで約71,000円の物財費 ())。60kg当たりでは1万2~1万3千円台となっており、小規模より低く大規模に近い水準です ()。例えば作付面積5~10haクラスでは60kg当たり約1万3,542円、10~15haでは1万2,402円と報告されています ()。人件費を除けば、中規模農家のコストはおおむね大規模と小規模の中間に位置します。

  • 機械費: 中規模では自前のコンバイン・田植機等を保有する場合が多く、機械の減価償却費・維持費がコストの大きな割合を占めます。10aあたり2万円台前半(全国平均で全コストの約20%)が機械関連費用で、大規模ほどではないにせよ小規模より効率的です ([PDF] 米の生産コストに係る日韓比較)。

  • 種子・苗費: コスト自体は大規模と同程度で、10aあたり1万円弱が目安です。育苗を自前で行うか、苗を購入するかで変動しますが、中規模クラスでも苗を自家生産することでコスト圧縮を図る例があります。

  • 肥料費: 10aあたり約1万円強(2023年)で、小規模と同等の投入量となります。2022年から2023年にかけての肥料価格高騰により、中規模経営でも肥料費が約3割増加し収益を圧迫しました (23年産米 生産費高止まり 個別経営は10年で最大 肥料高騰が直撃 / 日本農業新聞)。

  • 農薬費: 10aあたり数千円~1万円弱で、規模による差は小さいです。中規模農家では地域の防除団体利用やドローン防除サービス等もうまく活用し、適切な範囲に抑えています。2023年時点で前年からわずかに上昇しました(肥料ほどの急騰ではありません)。

  • 水利費: 面積比例のため、中規模では絶対額はそれなりの金額になりますが、単位面積あたりでは一定です(数千円/10a)。水管理費用は年次変動がほとんどなく、2022年から2023年にかけても大きな変化はありません。

  • 燃料費: 中規模でも機械作業あたりの効率は大規模ほど高くないため、10aあたり5,000~8,000円程度の燃料コストが見込まれます (米作りにかかる費用の目安を教えてほしい)。燃料価格は2022年に高騰し、2023年も依然高水準だったため、中規模農家の負担増となりました。

  • その他費用: 乾燥調整費や流通コストなど、中規模では規模メリットとデメリットが折衷した水準です。例えば収穫後の乾燥・籾摺りをJAなどに委託する場合、10aあたり数千円~1万円の費用がかかりますが、自家で設備を持つ場合は設備償却費が発生します。保管施設がなければ収穫後すぐに販売することになり、市場動向による売価影響を直接受ける面もあります。

▼ 過去との比較: 中規模農家のコストも近年上昇傾向です。令和4年産(2022年)は10aあたり約72~80万円(物財費ベース)で、前年2021年並みか微増でした (Microsoft Word - 第1部第8章1(経営)197~199)。しかし令和5年産(2023年)は肥料高騰の直撃を受け、多くの中規模経営で非人件費合計が前年比数%上昇しました (23年産米 生産費高止まり 個別経営は10年で最大 肥料高騰が直撃 / 日本農業新聞)。特に肥料費が大幅増(+28%)となったことが大きく、例えば5ha規模程度の経営体でも「肥料代が前年より数万円増加しコメ農家の収支を圧迫している」といった声が聞かれました (23年産米 生産費高止まり 個別経営は10年で最大 肥料高騰が直撃 / 日本農業新聞)。一方で、労働費を含めた生産費全体で見ると、収量低下がなかった地域では60kg当たりコストは横ばい~わずかに改善したケースもあります。全体として中規模層でも2023年はコスト増の年であり、生産資材価格の動向が経営を左右しています。

小規模農家(例:経営面積~3ha未満)

▼ 生産コスト水準: 小規模農家では単位当たりコストが非常に高いです。令和5年産(2023年)時点で、小規模(目安:作付面積3ha未満)の米生産費(人件費除く)は10aあたり約100~120万円超にもなります () (米作りにかかる費用の目安を教えてほしい)。最も小規模な0.5ha未満の経営体では、人件費込みの全算入生産費が10aあたり21万6,000円にも達しており ()、人件費を除いた物財費ベースでも約15万円と、大規模農家の2倍近い原価水準です。60kg当たりに換算すると1万7,000円超となり、中規模・大規模の生産コストを大きく上回っています (23年産米 生産費高止まり 個別経営は10年で最大 肥料高騰が直撃 / 日本農業新聞)。実際、2023年産の統計でも「作付面積3ha未満では60kg当たり生産費が1万7,000円を超え、15ha以上では1万1,000円台に収まった」と報告されています (23年産米 生産費高止まり 個別経営は10年で最大 肥料高騰が直撃 / 日本農業新聞)。小規模農家ほどコメ生産の採算が厳しい現状が浮き彫りです。

  • 機械費: 小規模農家では保有する機械が小型でも減価償却の負担が重く、もしくは機械を持たず作業を全面的に委託する場合は委託料が高額になります。典型的には、田植え・稲刈りなどを農事組合や営農組合に委託すると10aあたり5~6万円の作業料金がかかるケースがあります (米作りにかかる費用の目安を教えてほしい)。これがそのまま機械作業コスト(賃借料等)として原価に加わり、小規模経営のコストを押し上げる一因となっています。自前で機械を持つ場合でも、低稼働率で減価償却費や維持費の単位面積当たり負担が大きくなります。

  • 種子・苗費: 小規模でも10aあたり数千円~1万円程度はかかります。経営規模に関わらず必要な経費ですが、小規模農家では少量の種籾を購入するため単価はやや割高になりがちです。育苗箱や培土など細かな資材費も含めると、10aあたり1万円前後になることが多いです (米作りにかかる費用の目安を教えてほしい)。

  • 肥料費: 基本的には面積当たりの必要量は変わらないため、小規模でも約1万円強/10a(平年)ですが、2022~2023年の高騰で1.3万円近く/10aまで増加しました ()。規模が小さい分、一度に購入する量も少なく、割高な小口購入となるケースもあります。肥料費の急騰は、小規模農家の収益を直撃し大きな負担増となりました (23年産米 生産費高止まり 個別経営は10年で最大 肥料高騰が直撃 / 日本農業新聞)。

  • 農薬費: 小規模では地域の共同防除などに参加することである程度コスト抑制できますが、それでも10aあたり数千~8千円程度はかかります (米作りにかかる費用の目安を教えてほしい)。病害虫防除の手間も考えると、小規模で米作りを続ける負担の一部になっています。

  • 水利費: 面積当たり一定で数千円/10aですが、小規模農家でも耕作面積全体にかかる固定費となるため、収量が少ない分だけコメ1kgあたり負担は重くなります。水利組合費などは規模に関係なく必要な出費です (米作りにかかる費用の目安を教えてほしい)。

  • 燃料費: 小規模農家で自前作業を行う場合、トラクターでの耕起や運搬にかかる燃料費が発生します。規模あたりでは5,000~6,000円/10a程度ですが (米作りにかかる費用の目安を教えてほしい)、作業委託する場合は燃料費相当分も委託料に含まれる形になります。2022年以降の燃料価格高騰は、小規模が多い兼業農家層にも負担増となりました。

  • その他費用: 収穫後の乾燥・調製は設備を持たない小規模農家ではJAなどに委託(有料)するのが一般的です。乾燥料・籾摺り料・袋代等で10aあたり1万円前後の費用がかかる場合があります。また、保管施設が無ければ収穫後すぐに農協出荷するため、自家保管による売り時調整ができず、米価低迷期には収入面で不利になることもあります。これら経費も広義には生産に伴うコストと言え、小規模農家ほど不利な傾向があります。

▼ 過去との比較: 小規模農家の米生産原価は長期的にも高止まりが続いています。令和5年産(2023年)の個別経営体統計では、小規模層のコストは過去10年で最大の水準に達しました (23年産米 生産費高止まり 個別経営は10年で最大 肥料高騰が直撃 / 日本農業新聞)。前述のとおり肥料費の急騰が主因で、2022年産から2023年産にかけて非人件費トータルでも数%規模の増加となりました (23年産米 生産費高止まり 個別経営は10年で最大 肥料高騰が直撃 / 日本農業新聞)。令和4年産(2022年)はコスト上昇を抑える施策(肥料高騰対策など)もあり前年並みを維持しましたが、それでも60kg当たり1万5,273円と前年比3.5%増加しています (令和4年産 米生産費(組織法人経営および個別経営)|トピックス|みんなの農業広場)。令和3年産(2021年)は肥料価格がまだ落ち着いていたため、60kg当たり1万5,147円程度と比較的低く抑えられていました ()。しかしその後の資材インフレで小規模農家の負担は増大しています。

以上のように、米生産の原価(人件費除く)は規模によって大きく異なり、大規模農家ほど単位当たりコストを抑えやすい傾向が顕著です。 (23年産米 生産費高止まり 個別経営は10年で最大 肥料高騰が直撃 / 日本農業新聞)また、近年は肥料費や燃料費の上昇が全ての規模の農家に共通する課題であり (23年産米 生産費高止まり 個別経営は10年で最大 肥料高騰が直撃 / 日本農業新聞)、特に小規模農家ではコスト高騰による経営圧迫が深刻です

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