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ヘイデンと俺の90年代

90年代、ロッキング・オンがプッシュしてたアーティストの中に、カナダ出身のシンガーソングライター、ヘイデンがいた。たまに無性に聴きたくなる。

素朴な音楽性がクセになるアーティストだ。低音で、北国の人が極寒の中、口を大きく開けずに話すあの感じ。外の厳しさと、そのための内側の強さを感じさせる音楽だ。

グランジから影響を受けたシンガーソングライターの中でも、ずば抜けて曲が良い。素朴な佇まいとメロディーのセンスがシーンの中で際立っていた。

当時、ロッキング・オンはファーストアルバムが出たタイミングで一瞬だけ取り上げた。その後カナダやアメリカで大ヒットすることもなく、日本のメディアに登場することはほとんどなくなった。ただ、ブックオフに2枚目以降のアルバムが並んでいるのを見ると、根強いファンがいたんだと思う。

改めて聴くと、2枚目以降の作品も実はかなり良い。ファーストアルバムの素朴さは薄れたが、シンガーソングライターとしての実力がしっかり出ていて、アクが抜けた音になっているから、実に聞きやすい。

エリオット・スミスみたいな辛い音になっていないから、内省的な音楽でも重くならずに聴ける。インディ・ロックの元祖的ななメロディーの良さもあって、何度でも聴ける。

90年代から00年代のインディロックシーンには、こうした良いアーティストがたくさんいた。当時、一瞬の輝きを残して消えたアーティストも多いが、改めて聴き直す価値がある作品が多い。あの時代、B級のインディロックにもお金がかけられていた。今とは違うレベルでプロダクトされていたから、音のクオリティも高い。

最近は60年代や70年代の深掘りにあまり興味がなくなり、90年代や00年代を再評価が楽しい。さらに言うと、今の音楽シーンのポジティブさやバカっぽさには乗り切れない部分がある。

90年代の音楽には、影があった。ベック、ニルヴァーナ、レディオヘッドなど、何かしら内省的なトーンを持っていた。自信満々じゃない感じ。それがシンパシーを生んでいた。

当時は、世界の終わりが身近に感じられた時代だった。99年に地球が滅ぶとか、世紀末的な空気が日常にあった。それが90年代の音楽の暗さにも影響していたのかもしれない。

今の時代は、むしろ楽観主義が支配している。「今を楽しめ」みたいな空気だ。将来のことを考えず、目の前の楽しさだけを追求する感じ。確かに、そういう生き方のほうが気楽かもしれない。でも、90年代のあの閉塞感、曇り空を見上げてぼーっとしていた感じも、捨てがたい魅力があった。

ヘイデンを聴きながら、そんなことを考えた。あの頃の音楽は、今でも自分にしっかり寄り添ってくれる。

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