
スティング —— 突き抜けたミュージックマシーン
スティング —— 超越した音楽マン
スティング。ポリスのフロントマンとして登場し、ソロになってからも独自の進化を遂げ、40年以上シーンの最前線に立ち続けるロックレジェンド。ジャンルを超え、ロック、ジャズ、ワールドミュージックを自在に行き来するスタイルは唯一無二だ。デビュー当時から見た目がおっさんだったが、年齢を重ねてもなお衰えず、むしろ贅肉が全くない肉体と同様に、存在感がさらに研ぎ澄まされている感じだ。同じ「人間」という生物とは思えない。スティングという突き抜けた人種。
最近のライブ映像では、バンドメンバー3人を従え、ヘッドセットマイクでステージを動き回りながら歌っていた。広いステージを縦横無尽に駆け巡りながら、声量も表現力も落とさない。マイクを手に持つか、スタンドマイクの前で歌う方がおそらくロックらしく絵になるはずだが、そんな固定観念すら超越し恐らく何が合理的かで選択するのがスティング。ロックかどうかとか、そういう次元ではなく、“スティングという存在”が確立されていた。
ポリス時代からソロへ —— 進化し続ける音楽性
ポリス時代のスティングは、パンクとレゲエを融合させた独自のサウンドでシーンを席巻。
特に初期2作、Outlandos d’Amour(1978年)とReggatta de Blanc(1979年)は文句なしにクソ最高。「Roxanne」「So Lonely」「Message in a Bottle」「Walking on the Moon」といった名曲を生み、スリーピースらしいシンプルかつ、らしくない厚みと迫力ある演奏、スティングの圧倒的な声と存在感で、一気にトップへ駆け上がった。
ソロになってからは、より自由に音楽を追求。デビュー作 The Dream of the Blue Turtles(1985年)では、ジャズを取り入れ、ロックの枠を超えたアプローチを見せる。次作 Nothing Like the Sun(1987年)では「Englishman in New York」が生まれ、洗練された音楽性とポップとのバランス感覚の良さがが際立っていた。
個人的に好きな作品は、リアルタイムで聴いていた「The Soul Cages(1991年)」。亡き父への想いを込めたパーソナルな作品で、メロディの深み、楽曲の構成ともに円熟味を増している。特にアルバムからシングルカットされた「all this time」の複雑なグルーヴが好きだ。
2016年の 57th & 9th ではロック回帰。シンプルなバンド編成でストレートに鳴らすサウンドが新鮮で、「I Can’t Stop Thinking About You」はポリス時代を思わせるロックナンバー。
2018年の 44/876 では、レゲエシンガーのシャギーと組み、新たな表現を追求。ポリス時代から影響を受けていたレゲエを、自らのスタイルとして再解釈する一作となった。リアルタイムではスルーしたが、改めて聴いてめちゃくちゃ自然体で気に入った。
20代、30代の頃は、ソロ時代の良さがいまいち理解できなかったが、今聴くと、なんとなく分かった気がしてじわっと響く。メロディの狙いどころを外したフレージングや、リズムの緻密さは、単なるポップ・ロックの枠には収まらないものだと思う。
唯一無二のスティングという存在
どの時代、どのアルバムを切り取っても、そこには“スティング”という確固たるスタイルがある。ロック、ジャズ、ワールドミュージックを横断しながらも、自らの音楽性を見失わない。その柔軟さと芯の強さこそが、40年以上トップに君臨し続ける理由。
ライブパフォーマンスのエネルギーも健在。映像越しですら圧倒されるその存在感は、実際にステージを目の当たりにすれば、さらに強烈に感じられるはずだ。ただ、単独公演ともなればチケットは高額で、簡単には観れないだろうが。奇跡が起きてフジロックあたりにひょっこり出ねえかな。別次元の人間をリアルに感じてみたいものだ。