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ベック!振れ幅デカい90年代の天才。

ベックは、90年代から今に至るまで、独自のスタンスを保ち続けている稀有なアーティストだ。ローファイな雰囲気とサイケデリックなエッセンスを持ちながら、時代ごとに違った顔を見せてくれる。ジャンルを超えて、時にフォーク、時にエレクトロ、時にポップ、時にアシッドな香りを放つ。だからこそ何年経っても色褪せない。

出会いは『Mellow Gold』だった。高校生の頃、ラジオやビルボードトップ40から流れてきた「Loser」は、まだ洋楽を聞き始めたばかりの自分の耳にもすっと入ってきた。あの「I’m a loser baby, so why don’t you kill me」というフックの効いた歌詞、ローファイでサイケなサウンド、すべてが新鮮だった。発売日に、学園祭の準備をしている最中、誰かが2階から落ちたけど無事だった、その時俺は病院から帰る途中だった、なんていう出来事と一緒にアルバムが記憶に焼き付いている。そういう作品は自分の中では相当デカい。

『Mellow Gold』は、他の作品と比べても特別なアルバムだ。ローファイな音作り、ニルヴァーナを初めとするグランジの影を感じるダークさ、しかしどこかサイケで不思議な浮遊感があった。続く『One Foot in the Grave』も、同じくローファイで、ギリギリのラインを攻めるような作品だった。この2作は、ベックのダークな側面が強く出ていて、今でもよく聴く。

ただ、ベックの真骨頂は、その振れ幅の広さにある。『Odelay』ではダスト・ブラザーズを迎え、サンプリングを駆使ししたヒップホップとフォークを組合せたサウンドを作り上げ、時代の寵児となり、『Midnite Vultures』では、ハイファイなサウンドにシフトし、ファンクを基調にエレクトロな要素を大胆に取り入れた。『Sea Change』では、アシッドフォーク的なサウンドで、内省的な歌詞と美しいメロディーを披露した。アルバムごとに全く違う顔を見せるが、根底にはいつも強いメロディーとポップセンスがある。

ライブも印象深い。フジロックで見た時、バンド全体がひとつの生命体のようなまとまりを見せていた。途中、食器やテーブルを叩いて音を出すパフォーマンスが始まり、それが知らないうちに音楽になっていく。自然体なのに、裏では徹底した作り込みがある。これこそがベックの真髄だと思った。

個人的に好きなアルバムは、やはり『One Foot in the Grave』だ。静かに酒を飲みたい時に、乾いたギターの音とメランコリックな歌声は最高だ。『Sea Change』も同様に、落ち着いた夜にじっくりと聴ける名盤だ。一方で『Odelay』や『Guero』は、パーティー感覚で楽しめる。どんなシチュエーションにも合う曲がある、懐の深さがベックの魅力だ。

ベックの作品は、自分自身のメンタルの状態によって、響くアルバムが変わる。元気な時は『colors』、少し疲れている時は『morning phase』。
ベックには、これからも自由な音楽を作り続けてほしい。そして、また日本に来て、爆発力のあるライブパフォーマンスを見せてほしい。

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