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海外旅行2024その5 うっかりトラップファミリー物語~レはホウレンソウのレ~@スロベニア

↑ドイツではマウンテンバイクに乗ったり
イーザル川やテーゲルン湖で泳いだりと
アウトドア満喫の私たちであったが
スロベニアでも同じく川遊びとともに
山登りもすることになった。
正確に言うと友人が一方的に登山を計画していた。

友人には事前に、私が山登り初心者で
数時間程度のハイキングしかしたことがない
とは伝えていた。ホウレンソウのレは
連絡のレ。社会人として基本中の基本。

友人の別荘はスロベニアのコバリッドKobaridという
イタリア国境近くの山間の小さな街にある。
コバリッドは一時期イタリア領だったこともあり、
イタリア名ではカポレットCaporettoと言う。

スロベニア西部に位置する小さな田舎町のコバリッド(と、友人の別荘)

スロベニア領内だが、その歴史からイタリア語を理解する住民も多く
街の標識はスロベニア語/イタリア語の
2か国語表記がデフォルト。街にある小さな博物館では
スロべ語→伊語→独語→英語の順で表記され、
英語のプライオリティは低めの模様。

そして友人の別荘近くのスーパー「Planika」からは
夏の間、近くのTriglavski国立公園の入り口まで
1日3本の無料シャトルバス(バン)が運行されている。

当日朝7時半、海外にしては珍しく時間通りにバスが来た。
しかも残り2席で私たちが最後にギリギリ座れたという幸運。
30分ほどかけてぐねぐね山道を登り、登山道入り口到着。
目指す山は遠くに見えるクルンKrnという2200mほどの高さ。

えっと、どう考えても数時間のハイキングコースじゃ
すまないレベルだよね。どういうこと?
友人は私に登山用のストックを手渡してくる。
ダンケシェーン。って、これが必要になるぐらい
本気モードの登山道なのか?嫌な予感。

しかも友人は、「山に登って下りるだけだと
最終バス時刻(16:30)まで時間を持て余すから
遠回りのコースを通っていこう」とのたまった。
半日がかりの登山コース。精神的な震えが止まらない。
初心者だって言ったよね?聞いてた??

どうも私と友人は意思疎通に問題があるらしい。
お互い母国語ではない英語を使って
意思疎通を図っているからだろうか。
ホウレンソウは社会人の基本中の基本なのだが
全然私の意志が友人に伝わっていなくて苦笑い。

それでもはじめはまだなんとかなった。
山の麓では牛がカウベルを鳴らしながら
のんびり草を食べている。ハイジの世界。
ときどき道に牛糞ががっつり落ちているけど。

シンメンタール種(だと思う)の牛はアルプスっぽい。
ストックの位置から傾斜がまぁまぁきついのおわかりだろうか

そのうち道が消えかけた。緑が減って
ゴロゴロした石の上を歩くようになった。
森林限界という言葉が頭をよぎる。
歩く途中で気が付いた。左膝が痛いんだけど。
膝が痛いだなんて初めての体験なんだけど。

とりあえず、山の中腹にある雪解け水を湛えた湖の
ほとりで小休憩(トップ画像)。
痛いの痛いの飛んでいけー。
日本語のおまじないはスロベニアでは無効らしい。
休憩で膝の痛みが消えることはなかった。

痛い。苦痛だ。でも山登りは続く。
そういえばサウンドオブミュージックでも、
トラップ一家みんなで励まし合って山を登っていた。
うん、がんばろう。いや、そもそもこんな
ハードな山道だなんて聞いてない。がんばれない。

トラップ一家のトラップTrappは苗字だけれど、
今はトラップtrapのスペリングの方が正しく思える。
友人がしかけた罠だよな、これ。

ホウレンソウは基本中の基本。
私は友人に向かって高らかに宣言した。
「膝が痛くてもう無理。ここで休む」と報告&連絡。
森林限界どころか身体の限界。

相談の結果、私が9合目のあたりの日陰で休んでいる間
友人は一人で山の頂上に行くことになった。
で、待っている間、運よくスマホの電波が立っていたので
私はエバー航空の台北行きのオンラインチェックインを済ませた。

9合目ぐらいの景色。でも電波が届いたので
こんな所でオンラインチェックインをして通路側の座席を確保

同時にパキスタン人の友人からビデオ電話がかかってきたので
「今スロベニアの山の上だYO」とビデオチャット。
「そこってK2ぐらい高いの?」と質問されて苦笑。
さすがパキスタン人。K2は標高8611mの
パキスタンにある世界第2位を誇る高山。レべチ。

私が海外旅行を始めた2000年前後にはiPhoneも
Google Mapもなかった。世の中はたった20年で
日本人がスロベニアの山中で飛行機のチェックインをし、
在カラチのパキスタン人とビデオ通話をして
山の景色を同時に共有できるまで進化した。

世の中はどんどん便利になっている。
それでもK2では日本人登山家が滑落してしまい
依然として登頂が難しいのは変わりないし
私の仕事はDX化とか言って便利になるどころか
仕事量がむしろ増えて腹立たしいことこの上ない。

あれこれ考えながら最後のチョコレートを食べ、
頂上に行った友人を待つこと1時間とちょっと。
下りてきた友人にチョコを全部食べたと懺悔し
許しをもらってから下山開始。仏だ。

残念ながら休憩したところで膝の痛みはなくならず。
むしろ下山中にますます強まりハードモード突入。
しかも途中、何か(たぶん蜂)に足を刺される
というトラップ追加。泣きっ面にたぶん蜂。

私の左膝はどうにもこうにも激痛で、
とにかく曲げたくない。でも曲げないと歩けない。
登山用のストックはあるけれど、松葉杖の
代わりにはならないし、松葉杖があったとしても
足元はボコボコの下り坂だから使えないだろう。

痛みのため歩く速度がどんどん落ちてしまう。
24時間テレビの満身創痍のランナー気分。
このままだと4時半の終バスに間に合わない。
私はあせるが膝が痛くてどうしようもない。

「先に4時半のバスに乗ってコバリッドに帰って、
それからふもとのバス停まで車で迎えに来て」
と私は友人に言ったのだが、友人は
「君を置いては行けないYO」と。仏だ。

ありがたいお言葉なのだが、私は内心
救助要請のヘリを呼んだらいくらかかるかな?
海外旅行保険の適用範囲内かな?
在スロベニア日本大使館は絶対助けないだろうな
とかって、そういうことばかり考えていた。

結局ふもとのバス停に戻れたのは5時半。
余裕で終バスを逃す。私はとにかく膝が痛くて
「もう絶対歩かない」とストライキ決行。
この場での野宿も辞さない覚悟で座り込むと
友人はすたすたとどこかに消えた。

私のあまりにも不機嫌な態度に、
仏のような友人もさすがに愛想をつかしたのか。

しばらくして遠くから私を呼ぶ声が。
「早くこっち来て。今ヒッチハイクして
コバリッドまで乗せてもらうことになったYO」

友人は下山したばかりのスロベニア人カップルが
駐車場に止めてあった彼らの車に戻っていくのを
目ざとく見つけ、交渉したようだった。
ありがたい。のだが。

私をはじめ、日本人は
「できるだけ人様に迷惑をかけないよう自助努力」
という考えが身に付いている人が大半だ。と思う。

だから日本社会には規則や暗黙の掟が多々あり、
それらを守ることが重要視されている。
世間の目を常に意識し、気を配り、
いかに他人の「迷惑スイッチ」を押さないように
日々を過ごせるか、いかにトラブルを未然に防ぐか
24時間鉄壁の防御で固めている。

しかし、友人(ドイツ人)やヒッチハイクに応じた
スロベニア人カップルなどは
「困っている人がいたら助ける、困ったら人に頼る」
といった相互扶助の精神が根底にあるようだ。

私ならヒッチハイクをするなど到底考えないし、
赤の他人にお願いされても、まず疑ってかかる。
それがどうもヨーロッパの一般的な人は違うようだ。
日本人からすると、他人を気安く信用しすぎのように思える。

そういえばドイツは近年ウクライナから大量の難民を
受け入れているそうで、難民審査に厳しい日本とは
状況や社会システムが大きく異なっているようだ。

そのような行動が隣人愛のキリスト教的価値観に基づくものなのか
あるいは案外利己的なものがあったりするものなのか
ただの旅行者の私は知る由もない。知りたいけど。

しかし知らないが故、ヨーロッパでは他人を気安く信用して
その結果トラブルや犯罪に巻き込まれないのか?
よかれと思った自分の行動によって何か不利益を被るのではないか?
と、勝手に心配をしてしまう。老婆心?

とは言え彼らは今までそのスタイルでやってきたのだろうから
多分とりあえずは大丈夫なんだろう。
どうにかなってるし、どうにかしているんだろう。

異文化ってやつだ。異文化の理解と尊重、大事。
異なる文化圏で育った私がとやかく口をはさんだり
忠告したりしゃしゃり出たりすることではない。
ここはヨーロッパ。ここはスロベニア。私は異邦人。

なお、ヒッチハイクをした車内では、
友人が気をつかってか、あれこれ英語で
スロベニア人に質問をして会話を試みたが
彼らは英語がかなり苦手なようで割と一方通行。

そこで僭越ながら英語が不得手な私が
友人の流暢な英語を極力簡単な英語に直して通訳。
するとようやく彼らから返答があるという謎仕様。
日本がドイツとスロベニアの架け橋になれて至極光栄。
日独スロべ三国ヒッチハイク同盟。

ついでに言うと、この登山の翌日は
「水の中なら歩かなくていいんじゃね?」
という友人の謎の気配り(と私の鎮痛剤服用)の結果
アドリア海方面へドライブ並びに海水浴。

確かに水中では膝は痛くはなかったのだが
なんかこうスパルタ的な行程。。
膝が痛いとホウレンソウしてるんだけどなぁ。。

どうやらドイツ人の夏は毎日アクティブに
動かないといけないという規則でもあるかのようだ。
眠るときでも泳ぎを止めないマグロ的な夏のドイツ人。

訪れたビーチは国境を越えてクロアチアのSavudrijaという所。
クロアチアは2023年にシェンゲン加盟したので、現在はスロベニアとの国境検問なし。





ま、山は歩くもんじゃない見るだけにしとけ、という話です。

そういえばこの自然大好きドイツ人、
前に鹿児島の霧島神宮のあたりの山を
一人で歩いていたときに、帰りの終バスを逃して
最寄り駅までヒッチハイクしたのだそうな。

「いやー、あのときは英語が通じなくって
Google翻訳使って交渉したんだYO」とのこと。
たぶん鹿児島県民の大変ご親切なお方、
その節は私の友人が大変お世話になりました。

おかげで友人はヒッチハイクに自信をもったのか、
結果として私もスロベニアで救われ無事生還しました。
長身のドイツ人を霧島神宮で車に乗せたお方。
直接お礼を述べたいので、私に連絡してください。
レはホウレンソウのレ。


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