入国早々トラブルが続いた話@マナーマ
マナーマはバーレーンの首都である。
バーレーンは中東のかなり小さな島国で
シンガポールぐらいの面積だ。
日本国内で言うと奄美大島ぐらい。
琵琶湖よりは少し広い。
私が子どものころ、大韓航空機爆破事件があり
実行犯が日本人のふりをした北朝鮮人だった。
その犯人が捕まった場所がバーレーン。
ちなみに爆破された大韓航空機は
イラクのバグダッド発のソウル行き。
途中アブダビとバンコクを経由するのだが、
アブダビ-バンコク間で時限爆弾が作動し墜落した。
バグダッドから飛行機に乗った犯人はアブダビで降り
手荷物として持ち込んだ爆弾をそのまま機内に残し
アブダビからバーレーンに別便で逃げた後に捕まった。
私は同じUAE国内でもアブダビではなくドバイから
エミレーツ機でバーレーンに着陸した。逃避行ではない。
日本のパスポートは強い。
世界中の多くの国への入国に際し、
ビザの取得を免除されている。
はずなのだが、バーレーン入国に関しては
ビザの取得が必要だ。
といっても飛行機で到着した後に取得できる。
このシステムはビザオンアライバルvisa on arrivalという。
これでビザが取得できないとかって聞いたことがないので、
実質は入国時に払う手数料みたいなものだと思う。
手数料というと少額なイメージだが、
バーレーンのビザ代は25ディナール。
2022年円安時の換算で約1万円。えぐい。
そんなえぐいビザ代を払って入国したときには
夜の10時を過ぎていた記憶。
ホテルの予約はしていないが、目星はつけていた。
情報源はLonely Planet Middle East.
分厚い英語のガイドブックを持ち歩いていた時代。
空港から市内へ向かうバスはもう終わったようだった。
残された交通手段はタクシーのみ。
二人以上の旅や大荷物のときにはタクシーを使うのだが
だいたいは一人旅だし荷物も大したことがない量だ。
だから普段はバスや電車を使うようにしているのだが。
消極的にタクシーに乗り込み、行先のホテル名を告げる。
運転手に位置がわかるかどうか尋ねたら、わかるとのこと。
安心するのはまだ早かった。
タクシーメーターのところにタオルのようなものがかかっていて
メーターが見えないので、メーターを使うようにも告げた。
肯定の返答をもらうのだが、タオルをどかすそぶりも見せない。
メーターを使ってください。
メーターを使ってください。
メーターを使ってください。
使わぬのなら 使うまで連呼 タクシーメーター
運転手はものすごくいやそうな顔をしてメーターを動かした。
当然だろ、私は何も間違っていない。
自分を正当化することによって、
気まずい雰囲気を封じることにした。
運転手が話しかけてくる。
「そのホテルはよくない。もっといいホテルを知っているぞ」
返答は簡潔に。結構です。
「そのホテルより安く泊まれるぞ」
返答は簡潔に。結構です。
私は運転手のセールスを躊躇なく却下した。
メーターを動かそうとしなかったことで、
私の彼に対する信用はゼロになったからだ。
運転主はそのうち私に敵意を向けるようになってきた。
「おまえはどこから来た?中国人か?日本人か?」
返答してもろくなことはないだろうし
国籍を偽るのも面倒だ。無視することにした。
運転手はぶつぶつ文句を言った挙句に停車した。
「ここからは歩いて行け」
口論したのは1分ほどだろうけど、体感10分。
ものすごい精神的ダメージ。
ガリガリHPが削られて瀕死状態。
これ以上戦うのもいやで、タクシーを降りることにした。
でもきちんと金は払う。常識だろう。
と、お札を差し出すと、おつりが返ってこない。
釣銭がないとのことだ。
Keep the change(おつりはいらないよ)と
チップが必要な国では私も言うことがあるセリフなのだが
こんな不愉快な状況でどうしてチップを払う必要があるのだ。
言いたいセリフはFワードの方だ。
私は空港でATMで現地通貨を引き出したので
小銭などもっていない。額面の大きいお札だけだ。
釣銭がないという運転手の不手際なのに
どうして私が余分に代金を払わなくてはならないのだ。
全然納得していないのだが、もう戦う精神的余裕はない。
精神的ダメージだけでなく経済的ダメージも負った私は
下車後にタクシーに一発蹴りを入れてホテル方面に向かった。
運転手は窓を開けて怒鳴っていたが、振り向く余裕はなく
とりあえず運転手に見えるように中指だけ立てながら歩いた。
なんて国だ。
不幸中の幸いは、ホテルまで歩いて10分弱で到着できたこと。
ガイドブックに載っていた一番安いホテル。
安ホテルにチェックインし、ベッドに腰を下ろす。
どうしてもさっきの出来事が忘れられず腹立たしいことこの上ない。
部屋の電話が鳴った。
何かチェックイン時の不手際でもあったのだろうか?
ハローと電話に出る。
「ハロー ミスター」
電話の相手は女だった。
レセプションでチェックインを担当したのは男性だったのだが。
「あなたどこから来たの?」
女はたずねてきた。
なんで?なんで国籍を言う必要があるのか?
よくわからないまま、なんとなく返答をした。
「日本」
「Ohhhh Japan!!! as-0dfjq;l3krta-0sd9gufq;wlekrjzdifo」
なんだかよくわからないが
日本を歓迎してくれているような雰囲気だった。
そのうち彼女は落ち着きを取り戻したようで
本題を切り出してきた。
「あなたマッサージはどう?」
それかー。そっちのセールスか。
なるほど。それなら話は早い。
無言で受話器を置いた。
5秒後にまた電話が鳴った。
「ハロー ミスタージャパン」
セールスレディーは熱心だ。ノルマでもあるのだろうか。
無言で受話器を置いた。わかるよね。
5秒後にまた電話が鳴った。
セールスレディーはかなり厳しいノルマでもあるのだろうか。
電話線を抜いた。
ものすごく不快なことがあったので、私はゆっくり休みたいのだ。
一人にしてほしい。Leave me alone.
3分後にドアをノックする音が聞こえた。
騒がしいホテルだ。今度は何だ?
ドアを開けるとケバい女が立っていた。
「ハロー ミスタージャパン」
即ドアを閉めた。
向こうも負けじと再度ノックする。
私には平穏の時間を過ごすことが許されていないのだろうか。
苛立ちが頂点となり、ドアを5回も力強く蹴った。
ブレーキランプ5回はア・イ・シ・テ・ルのサイン
ドアキック5回はキ・エ・ウ・セ・ロのサイン
きっと何年たっても
こうして変わらぬ不愉快な記憶。
なんて国だ。
ま、バーレーンは行く価値のない国という話です。
ビザ代が高い割には見どころがない、コスパの悪い国。
追い討ちをかけるように民度が怪しい人々との遭遇。
私の中ではドーハの悲劇ならぬマナーマの悲劇。