海外旅行2023その8 インドのバスに残るカースト制
2020年、新型コロナウイルスの世界的な広がりにより、
各航空会社は国際線の運航を続々と休止し、売り上げは地に落ちた。
空港はガラガラで飛行機に乗ってもガラガラ。
しかし、コロナ禍でも貨物は需要が旺盛だったようで、
埋まらない客席とは真逆で貨物は常に満載だったらしい。
航空会社の中には、客席の空席に小型の精密機械などを固定し
「お荷物様」として目的地に運ぶこともあったとか。
↑持続可能でいいと思う。個人的に賛成。
令和の日本では地方に行けば行くほど
電車やバスは空気を運んでいるような悲惨な状態。
宅配便とか郵便物とか農産物とかをこの空きスペースに載せて
うまく利用できないのかと、外野から勝手に思っている。
そしてコロナが5類に移行した2023年5月。
私は北インドのヒマチャルプラデシュ州にある
ダラムシャーラーDharamsalaという山間の町にたどり着いた。
ダラムシャーラーからさらに数km険しい山道を登ると
マクロードガンジMcleodganjiという地区があり
チベット亡命政府がそこにはある。
私は亡命するつもりもないただの観光客だ。
マクロードガンジはチベット人居住者が多いため、
(トップ画像は路上のチベット文化の旗タルチョー)
インド国内でありながら東アジア系(顔の平たい族)の人が多い。
日本人としては勝手にシンパシーを抱いてしまう不思議。
マクロードガンジは観光地であることから世界各国からの旅行者も多い。
旅行者の胃袋をつかむため、チベット料理だけでなく
カレー味ではない各国料理が楽しめるのも魅力のひとつだ。
私はアムリトサル在住のインド人から、マクロードガンジにある
日本食レストランの揚げ出し豆腐がお勧めだYOと言われた。
インド人に推薦された日本食レストランの名前は「ルンタ」。
店内にいる西洋人グループがかき揚げうどんなどを食べている中
私はなぜか和食ではなくオムライスを注文。180ルピー。
ダラムシャーラーとマクロードガンジはバスで往来できる。
私は行きは普通の路線バス(乗車率300%)で
帰りは乗り合いのピックアップトラック(乗車率200%)だった。
どちらも片道20ルピー(34円)なのだが、
乗車率300%で重い荷物を背負ってぐねぐねの山道を
30分ほどかけて登るバスは控えめに言って地獄だった。
マクロードガンジのホテルをチェックアウトした私は
交通の起点となるダラムシャーラーに戻った。
そこから長距離バスでパンジャブ州パタンコートに行き
パタンコートから夜行列車でデリーに行く予定だった。
ダラムシャーラーのバスターミナルでは
一応テレビ画面にバスの行先表示などがあるのだが
出発時間等、全然あてにならないので、
結局はそのあたりの人に尋ねる必要がある。
私の場合、Cloakと手書きの看板がある売店の
インド叔父に荷物を預かってもらいつつ(40ルピー)
あれこれバスの出発時刻や行先を尋ねた。
パタンコート行きの終バスは17時ということだったので
それまでにノルブリンカを観光することに決めた。
ノルブリンカNorblingka Instituteはダラムシャーラー郊外にあり
チベットの伝統芸術の制作過程を見学できる施設だ。
それらのものを併設するショップで購入することもできるし、
施設内にはオープンエアのカフェやレストラン、宿泊施設もある。
外国人の入場料金は110ルピー(187円)。
私はダラムシャーラーのバスターミナルのインド叔父の言葉通り
路線バスに乗ってSacred Heart School まで行き(10ルピー)
そこから緩やかな上り坂を15分ほど歩いてたどり着いた。
帰りも待ち時間ゼロで路線バスに乗ることができ、
ダラムシャーラーのバスターミナルに戻ったのは15:30。
売店のインド叔父から荷物を引き取ろうとしたら
売店に誰もいないし私の荷物もぽつんと置いてある。
インドは平和だ。っていうか大丈夫かこれ?
勝手に荷物を引き取り、近くの人にパタンコート行きのバスの
発着時刻や場所を再確認しようと尋ねると
今出発して動き始めたバスを指さして
「あれだYO!早く乗れYO!!」と。
どうやら17時の終バスよりも1本早いバスのようだ。
バスはゆっくり動きながら、車掌は身を半分外に出し
パタンコートパタンコートと目的地を連呼している。
文字通りそのバスに飛び乗ると、すでに満席で
立っている人も何人かいたのだが、私はめざとく最後部に
1人分のスペースがあるのを見つけ、速やかに占拠した。
ダラムシャーラーからパタンコートまでは3時間半。
バスは徐行をしながら次々と乗客を拾い集めた。
バスターミナルでの待ち時間ゼロ、
おまけに最後の1席に座ってこの先3時間半は安泰。
こんなに物事がうまくいっていいのだろうか。
安心してください。ここはインド。
そうは物事はうまくはいきません。
バスは15分ほど走った後、郵便局の前で止まった。
すでに満席なのだが、新たな乗客が乗るのだろう。
乗ってきた郵便局の職員風の男が
最後部に座っている私を含め何人かに
バスを降りるように指示をした。
私は全く事情が呑み込めなかったのだが、
周囲の人は指示に従ってバスを降りていく。
何なんだろう。
すると、郵便局の職員風の男たちが数人がかりで
次々と大量の荷物を後部座席に載せ始めた。
大きな麻袋の荷物が多いのだが、そこには
住所や氏名らしきものが書かれている。
もしかしてこれは、ゆうパック(のインド版)?
郵便局がバス会社と業務提携か何かをしていて
郵便局が客から預かった荷物をバスの空席を利用して
目的地の郵便局まで運ぶのだろう。
バスに空席があればそれはSDGsだ。持続可能だ。
しかし私が乗ったバスはすでに満員で座れない人もいた。
それなのに、座っている乗客をどかして
まさかの大量の荷物積載。
最後尾の5席と、その前の列の4席分と通路が
全て郵便局の荷物で埋め尽くされた。
そしてそこを追い出された乗客は再びバスに乗るのだが
当然のごとく座るスペースはどこにもなく
バスは乗車率300%となり私は再び地獄へ落とされた。
バス賃200ルピーを車掌に払うために財布をポケットから
取り出すのでさえ一大事、といった混雑具合。
前回、マクロードガンジまでのバスの乗車時間は30分だった。
しかし今回、パタンコートまではあと3時間とちょっとの長丁場。
まあ途中で誰か降りるだろうと。それまでの辛抱だろうと。
甘かった。みんな降りねぇよ。
バス内の激混みの一つの要因は、乗客の大型カバンが
バス内の通路に多数置かれていることだ(網棚などはない)。
どうやら地元民の短距離利用より
旅行者の長距離利用の方が多かったようだ。
バスは途中、カングラKangra空港のそばを通る。
みんなここで降りて飛行機に乗るのかなという期待もしたが
バスは無情にも空港横を通過し
バスの混雑状況は何一つ改善されなかった。
デリー-カングラ線は観光需要で値段が高止まりしているので
資金に余裕がある人のみが使用する(だから私は見送った)。
そういう人は空港までのアクセスに地獄の満員バスなど使わず、
さっさとタクシーを利用するのだろう。
非常に不快極まりない乗車率のバス内(もちろんノンエアコン)で
人は不快さを和らげるために何をするか。
私は乙女座のシャカのように目をつぶり視覚情報をシャットアウト。
バスの激しい横揺れや急ブレーキによる衝撃に耐えながら
様々な妄想をすることで現実逃避し、時が過ぎゆくのを待った。
結局私は2時間ほど激混みのバス内で立ち続け、
ようやく座れた最後の1時間ちょっとは
疲労のあまり爆睡してしまったようで記憶がない。
インドは人口が多い国だ。
バスにも列車にもバンバン人が乗り込む。
満員満席は常に覚悟しなくてはならない。
それにしてもまさか人よりも荷物を優先して載せるなど
誰が予想できるのだろうか。
インドのバス内におけるカースト制は
荷物>乗客なのだと。私は最下層。
ま、インドの移動は大変だ、という話です。
私はこの地獄のバス移動の翌日、デリーで市バスに乗った。
バスに乗った後、私は近くに空席を見つけたのでそこに座り
運賃を払うべく車掌がどこにいるかを探した。
車掌は前方にいる乗客から料金を徴収した後、私のところへ来た。
そこで開口一番。
「そこは俺の席だYO。おまえは違う所に座れYO」と言われた。
いや、ここ別に優先席でも何でもない普通の座席なんだけど。
秒で悟った。
インドのバス内におけるカースト制は
荷物>車掌>乗客なのだと。私はやっぱり最下層。