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第41回 9・10月総括編「選ばれし計算係と向き合う日々」

雑居でのトラブル、オバハンとの死闘…

刑務所ではいくつ試練を乗り越えればいいのだろうと本当にうんざりする日々が続いている私に運命の転機が突然訪れる。

8月22日(木曜日)の朝、いつも通りミシンをやっていたら処遇に呼ばれる。

「転業の告知です。
本日付で第2工場にて計算係をやってもらいます…大丈夫?計算出来る?(汗)」

何ー!?
ここで出来ないとは言えん!!

計算係というのは収容されている全受刑者の作業時間を毎日確認して最終的に毎月の報奨金を計算して出してあげる係だ。

その他にも施設内の人員管理だったり施設で扱っている業種を把握したりとにかく

「時間」と「お金」に関する作業は全て計算係の作業だ。

大きい刑務所などには「計算工場」などがあって計算係が何人もいたりするのだが、豊橋は名古屋刑務所の支所なので小さい施設なのもあり
計算係が一人しかいない。

しかしそれでも毎日200人近い収容者の時間とお金をたった一人で計算するのは中々骨の折れる作業だ。

今の計算係がもうすぐ出所するという事で、その後釜に選ばれたというハナシ。

2工場は職業訓練専用の小さい工場なので、人数は多くても計算係1人+訓練生6人=7人しか居らず訓練生は入れ替わる為、

常に固定でいる計算係が衛生(雑役)・運搬・配食も全て兼ねて覚えなければならない。

もちろん部屋も独居をあてがわれた。
出所するまで揺るがない立場を手に入れた訳だが、手放しで喜んでいる場合ではない。

計算作業を覚えなければならないのはもちろん、
工場でも部屋でも他の人の模範となる行動を取らなければいけないのだ。

これから一ヶ月、怒涛の引き継ぎが始まった。

もちろん計算係が簡単だとは思っていなかったしクソ難しいであろう事は予想していたが、自分の思っていた5倍は大変である。

初日なんて私が2時間ぐらいかけてやった計算を前任者は15分で終わらせてしまう始末…。

因みに前任者は私が5月のビジネススキルで訓練生としてこの工場にいた時に仲良くしていたトイチの子だ。

名前を言っただけで、その人の称呼番号から何処の工場にいて何の作業をしているか全て頭の中に入っているのだからリスペクト通り越してドン引きレベル。(褒め言葉)

とにかく途中で計算係を降ろされるというダサイ結果にだけはならないように毎日必死で覚える日々が続く。

ミシンやっている時も一日経つのが早いと思っていたが、計算係になってからは比じゃないぐらい本当に「アッ」という間にもう夕食の時間?という感じである。

とにかくやらなければならない事が山程あるので自分で優先順位を決めてその場で臨機応変な判断をしながら作業をしなければならない。

やればやる程、覚えれば覚える程、複雑な事がどんどん出て来て(自分は本当に計算係なんて出来るのか…?)と不安に駆られそうにもなったが、

反対意見を押し切ってまで統計の先生は私を計算係にする事を推薦してくれ、前任者も
「最後まで責任持って教える」と言ってくれている。

凡ミスを繰り返し凹む私を見て
「全然出来てるから大丈夫。200人近くいる受刑者の中からたった一人の選ばれし者なんだから自信持ちな」…
何とも心強い言葉をくれる。

毎日行う作業時間の確認は段々とスピードが早くなっていくが9月に入り計算係のメインとも言える報奨金計算の本番を始めたところ、12人中7人ぐらいは計算ミスで返ってきてしまった…

しかし一日一日、確実にやれる事は増えていってる。

9月になって暫定3類になった事もあり月に一度の500円分優遇菓子、手紙も4通→5通に増えてしかも公費で受けられるペン字の通信教育にも選定された為、とにかく毎日を頑張るしかない日々が続く。

9月末に予想通り前任者が釈前に引っ込んで今までは何だかんだ言っても困ったら前任者に助けを求める事が出来たが帰ってしまった今は、

「全て自分の判断、責任で作業しなければいけない」

そのプレッシャーが結構あったし、前任者と比べる(または比べられる事に)落ち込んだりもあったがここまで来たらやるしかないのである。

基本的には前日分の時間を計算するので、連休明けは地獄で初めのうちは純粋に連休を楽しむ事は出来なかったが、いよいよ一人で全て責任持ってやり始めると

休みは休みでしっかりメリハリつけて過ごした方が作業効率も良くなる事に気付く。

10月初め一人立ちして初の報奨金計算をした時は締日に間に合わなさすぎて笑えるぐらい凹んだが他に誰も計算係がいないので私がやるしかないのだ。

それでも計算係には統計の先生がマンツーマンでいてくれるので常に相談し合いながら作業する事が出来るのでありがたい。

計算係や炊事係は経理作業ではあるけど役職ではないから
誰よりも難しくて大変な量の作業を求められるのに中々評価はされない。

矯正指導日に行う宗教の集会で元4工メンバーと顔を合わせたが、役職(=班長や衛生係)が暫定3類2ヶ月後の確定月(10月)で2類に進級していた…

ぶっちゃけ思う所は色々ある。
班長はまだ分からない訳でもないが、衛生係が2ヶ月で2類。

私も1月に赤落ちしていたら10月に2類になれたのか?

毎日全工場の作業時間を計算係はチェックする訳だが、それは各工場の衛生係が書いたものを確認している。

そこにはやはりミスもあってその場合、
尻拭いは計算係が全部やる。
だからといって私がすぐに2類になれる訳でもない。

これが差別じゃなくて一体何なんだ?ってハナシ。

これぞ理不尽なプリズンシステム。

だからといっていつまでも文句言っている方が情けないので来年の4月(確定月)の2類進級に向けて私は私で頑張るしかない。

あれだけ雑居の人間関係に悩まされていた私も独居生活によりストレスからは解放された。

工場での人間関係はまったくトラブルがない訳ではないが、私以外はみんな訓練生なので
はっきり言ってレベルが違うし、何か言われたとしても相手にならない。

訓練生同士では色々あるみたいだが、話を聞いていても本当にくだらないと思ってしまう。

「食べ方にイチャモンつけられた」
→だったらお前うるせぇんだよと、言ってやればいい。

「あの子の言い方、態度にイライラした」
→だったらお前それやめろよと、言ってやればいい。

今は来年の3月までいる介護の訓練生が6人いるのだが、はっきり言って訓練生としてのレベルが低すぎる。

あまりにも皆が自分勝手な事ばかり言うので職員達から
「お前ら何しに来たんだ?」
と連日のように注意を受けている。

職員達もある程度パフォーマンスで訓練生達にあたりキツくして厳しくするのは理解出来る。

でも、それが計算係の私にまで来るとなれば最早それは飛ばっちりでしかない。

私自身も話を聞いて「自分は関係ない」と思っている訳ではないが、こちらはこちらで気持ちを切り替えて「作業」を頑張っているので
「いつまで職員の怒ってますよパフォーマンス続くねん」…と思わざるを得ない。

私だけ特別扱いする訳にはいかないので建前上みんなにあたりがキツくなるのは仕方ないとしても、ダラダラとそれが続くのはさすがにウンザリする。

職員側もキリをつけて接するべきなのは当たり前として、
何より訓練生達が「自分はここに介護の勉強をしに来た」と自覚を持つべきだ。

8月にここに来てからとにかく思う事は

自分を持ってない奴が多すぎるという事。

一番くだらないのは飯。
私は工場で麦飯もおかずも残してるので何で食べないの?と聞かれる。

土・日(免業日)は部屋で全食してるから平日は抜いてるだけなのにいつまでも
「今日食べる?」とか
「私も残そうかな」とか言うので一度

「自分が食べたいなら食べればいいし残したいなら残せばいい。
一々人の残飯気にして気持ち悪いよ。
もっと自分持ったら?」
と少しキレた事がある。

そのクセ、筋トレとか
「やってて多少なりともツライ事」はどれだけアピールしても真似しようとしない

おかずで揚げ物とか混飯が出ると
「今日は楽しみ〜!いっぱい食べよ!」
と言いながら私が一口も食べずに残飯出してるのを確認しては自分達も食べずに残飯で出す…

刑務所は確かに「右へならえ」の生活スタイルだが、

こういう自分を持ってない奴の「右へならえ」はマネされてる方からしたら怒りというよりただ気持ち悪いだけである。(汗)

介護の職訓は倍率が高く実は私も応募していたのだが外れた。

私は担当台の方で計算作業を行っているが、訓練生達の様子を見ると本当に介護って大変だよなぁ。自分には到底無理だから今やってる人達には頑張ってほしいと思う。

しかし受刑者目線で見た本音を言わせてもらえば職訓に応募する理由なんて一つしかない。

自分の成績を上げたいからだ。

役職につきたい、経理に行きたい、2類になりたい…おそらく殆どがそんな所だろう。

実際の所、「何でコイツが?」って奴が2類になったり経理行ったりするので職訓だけが全てではないが、私自身は

5月のビジネススキルがきっかけで統計の先生に目をかけて頂き、その後の自分の頑張りなども評価してくれ今、こうやってたった一人しかいない計算係に選んで頂いたのだから

訓練生と言えどもやはりプライド持って努力するべきだ。
他人事と言われればそれまでだが。

作業の話ばかりだけど、実は9月に入ってから祝日菜がいきなりまともになった。

7月はクーリッシュカルピス味一個、
8月はボロボロのあんみつ一個、
おいおいマジか?とヒヤヒヤしていたが、

9月
一発目は「ぼんちひねり揚」
二発目は「フルタ特濃ミルククッキー10枚」
10月
一発目は「しるこサンドさつまいも味」、

3月に来てから豊橋の祝日菜はカスだゴミだと散々非難してきたが、いよいよこれは配当させて「頂いた」と言わざるを得ないラインナップとなってきた。

何度も言うが、ここでは食べる楽しみしかないし甘い物に対して尋常じゃないぐらい敏感になってるので量が沢山あるジャンクフードは本当にありがたいのだ…。





















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