【5000字!!!】息抜きついでにわかる鉄道業界のビジネスモデル解説
鉄道業界の特徴
鉄道業界は不思議な業界構造をしている。
まずメインのビジネスである輸送業に関して、企業間の競争が激しくない。
これは非常に簡単な理由で、物理的な輸送は地理的な制約などもあり、新規の参入が難しく、輸送範囲を広げることも難しく、競争が起きにくい構造になっているからである。
一方で、本業から派生する不動産・旅行・広告などでは逆に、激しく競争を行っている。しかしそもそも何故、鉄道会社は本業以外に力を入れざるを得ない状況になったのか。
これには2つの理由がある。
一つ目の理由は①安定的な収益源があるから、
安定的収益があることは、銀行の融資の獲得し易さに直結する。
鉄道会社にとっての鉄道業は、不労所得や家賃収入に近く、何も考えず運営していてもまとまったキャッシュが入ってくる。
結果、銀行からの信頼も非常に厚い。
銀行からの安定的な融資を背景に、自分の本業とシナジーの高いビジネスを展開していく、それが鉄道会社のビジネススキームである。。
そして代表格がデパート・不動産・小売りだ。
2つ目の理由は、②今後の経営に不安があるから
日本では人口は横ばい、広がる都心地域から旅客輸送による収益低下問題が叫ばれている。
本業の輸送業が縮退していく蓋然性が高いため、成長余地を探して他のビジネスに挑戦しざるを得ない状況なのが、鉄道会社の大きな悩みである。
私鉄とJRの経営多角化について
概要でも触れたように、「人々を輸送する」という安定的な収入を基盤に、様々なビジネスに乗り出している。ここでは、人々を輸送する事が何故圧倒的な強みになるかを説明する。
まず、消費者との接点が非常に近いことが挙げられる。
会社員であれば通勤で毎日電車を使いますし、ほとんどの学生もおそらく通学に電車を利用している。
電車を利用すれば、必ず「駅」を通る。
これの意味するところは、圧倒的に顧客接点の多さ。
この、顧客接点の多い「駅」の近くで多数の物件を保有する鉄道会社は、必然的にマーケティング上、圧倒的有利な状態でビジネスを展開できる。
駅とはつまり、最強のマーケティング基盤なのである。
よく、鉄道会社は少子高齢化や都市の人口集中で、今後の成長がない業界だと言われている。その意見はあながち間違いではない。
一方で、安定的な利益と、強力なマーケティング基盤を持っているので、様々なビジネスの展開が期待できる就職先でもある。
鉄道会社は「駅」という最強のマーケティング基盤から、様々な新規事業をかなり有利に始めることができる。
新規事業の立ち上げなどに関わりたい学生諸君には、意外とオススメの就職先だ。
また、最近のトレンドとして、「鉄道ビジネスの海外輸出」という面白い試みをやっている。
鉄道ダイヤが全く信用できないベトナムやインド・タイなどで、鉄道網建築の支援事業を行うのだ。
日本の鉄道運行の安定性は世界トップ。
定時運行率の高さや、事故率の低さにおいて、海外の鉄道会社と比較しても他の追随を許さないスコアを叩き出している。
また、日本の鉄道会社は前述したように、駅近郊でのビジネス展開に強力なノウハウがあり、実はこのビジネスモデルは海外から見るとかなり珍しい。「駅ナカ」「駅ビル」などの取り組みは、海外からも注目されるほど優れたビジネスモデルなのである。
こうした日本特有の「鉄道ビジネス」を海外に輸出する動きが2022年以降は盛んになっていくものと思われる。
鉄道業界各社の特徴
東急
親会社である東急株式会社の子会社。JR東日本山手線の渋谷駅をはじめとする様々な駅を起点に、東京メトロ半蔵門線、南北線、福東線、都営地下鉄三田線と直通運行を行っています。平均所得の高い東京都世田谷区付近の南西部地域に路線を保有しており、ブルジョワだらけの街を走る線路で有名。
前述した通り、鉄道会社はその企業が保有する「駅」の強さで収益性が決まるので、東急のような地域の所得平均が高い駅を運営できている会社は収益性がよく、成長性もある。
上記のような独占的な地位を利用して、様々なビジネスを展開していたことも有名で、東急の小会社には有名企業が多い。
東映:社長だった大川が東急経営陣との葛藤で分離独立した会社で、元々は東急が行っていた事業の一つ。
東急百貨店:1919年に白木屋という雑貨店で始まり、東横百貨店と1958年に合併して東急百貨店に改称した創業100年以上の企業。東急電鉄の事実上の顔で有名。渋谷に本店を置いており、ヒカリエに大型ショッピングモールを運営することをはじめ、たまマプラーザ、札幌、バンコクなど国内外様々な都市に進出している
京急
みずほ銀行を中心とした日本の6大企業集団である芙蓉グループに所属しており、東武鉄道と同じグループです。品川駅をターミナル駅として持っており、京急本線+都営浅草線+京成本線の3社直通運転で都心まで交通をつかさどる。その運行エリアの関係でJRと競合する区間が多いため、激しい乗客獲得競争の末に身に付いた特殊能力の数々がある。
①ダイヤの正確性
雨が降っても、雪が降っても運行する。他の鉄道路線が台風や強風で運行を中断しても、何があっても運行する。
とにかく時間通りに電車を動かすことが優先なので、時折急に行先や終点を変更する。
人身事故などが発生した際の復旧の速さでも有名。あまりにも早く運転を再開しすぎて現場に駆けつけた警察官から怒られたことも。
② 人力に依存する社内文化
実際に旧型車や放送機器の故障時にのみ育成放送を行う他社とは異なり、京急はまだ車内放送を車掌がやっている。
③ 過酷な勤務環境
あまりにも高いサービスと、あまりにも低い給与水準のせいで、13年勤務して月27日働いても20万円しかもらえない圧倒的な低賃金。このような勤労環境のせいで、JR東日本、東京メトロ、都営地下鉄などで人材流出が激化している。
東京メトロ
私鉄ですが、最大株主は日本財務省(53.42%)。東京都が残りのほぼ全部である46%の持分を持っている。なので、私鉄とは言いながら誰も東京メトロのことを私鉄だとは思っていない。
ほぼ国有企業なので、他の鉄道会社のように不動産ビジネスや旅行ビジネスなどの副業があまり盛んではない。
一応子会社にデベロッパーやら広告代理店やらが存在するが、業界内ではあまり存在感がない。
しかしつい先日、2021年から政府保有株式を売却して株式市場に上場する計画が発表された。
上場を機にここから一気に様々な副業を行っていく可能性は大いにある。
東京メトロは主要な都心部をほぼ網羅しており、利用者数も全国に路線があるJRに次いで国内2位の利用者数であるため、新規ビジネスを行うポテンシャルがある。
ワクワクしたい学生や、新規ビジネスの立ち上げに関わりたい学生にとってはかなりおすすめできる就職先であろう。
相鉄
元々、茅ヶ崎から寒川区間を走る会社としてスタートしたが、あまりにも収益を出せず、東急の傘下に。
しかし、戦後に独立し横浜西部の開発に見事に成功、今のような大手企業に成長した。
これは東急と犬猿の仲になるきっかけともなっている。
当時相鉄の社長川又が米軍が占有していた横浜駅の西敷地で、近いうちに米軍が占有中の当該敷地を売却するという情報を入手した。
川又は当該敷地を買い取り自社のターミナル駅建設及び当該地域再開発を推進する計画を立てた。
積極的な投資に社内から多くの反対意見が上がったが、プロジェクトを強行。
結果横浜駅周辺の土地を購入し、横浜市との協議を経て当該敷地を再開発することで合意した。
しかし、それを見ていた東急がブチギレ。相鉄にM&Aを提案したが当然相鉄はそれを拒み、完全にキレた東急は小田急と組んで相鉄の敵対的買収に乗り出した。
これに相鉄側も防御に動くが、資金不足が原因で瞬時に全株式の30%ほどが小田急の手に。
そんな状況の中、当時三井住友銀行の社長が突如援軍として現れ、東急・小田急連合軍の敵対的買収に対抗。
相鉄は小田急の敵対的買収を阻止することに成功した。
そんな経緯もあり、現在でめお相鉄のメインバンクは三井住友銀行で、相鉄の筆頭株主席は小田急電鉄(約6%)が占めている。
鉄道のみで見ると存在感が少なく営業規模の小さい相鉄だが、副業に強みがある。
関東地域でビジネスホテルチェーンを独自に運営しており、横浜ベイシェラトンや、相鉄フレッサインなどが有名。2014年に全国チェーンであるサンルートホテルグループを買収、ホテル分野に積極的に投資している。売上高の18%程度がホテル事業から出ています。
近鉄
私鉄最大規模で、大阪、京都、奈良、名古屋などに路線を持つ。
私鉄の中では唯一二つの大都市圏で鉄道網を持つ会社で、系列会社が100社を超える日本有数の大企業としても知られている。
近鉄沿線地域の生活はほぼこの会社に握られていると思って良く、バスから流通、テーマパーク、物流にまで手を伸ばしている。
(昔は球団すら持っていた、近鉄バッファローズって聞いたことあります?)
その大企業ぶりから鉄道分野で非常に尖った強みを持っている。
① 車両開発分野の先駆者:日本の大型車両制作会社のひとつである近畿車輛株式会社の所有者&親会社。JRと大多数の私鉄に対して車両の提供を行っている。
② 圧倒的なダイヤ正確性:雨が降っても、雪が降りても運転を止めない。2018年の大阪地震当時も、JR西日本、阪急、京阪が全部止まった際に、真っ先に安全点検を終えて運行を再開するという鉄人ぶりを発揮。人身事故からの復旧も超スピードであることが有名
③ 激安定期券:距離に対して圧倒的にリーズナブルな定期券価格。例えば、奈良―京都で通学する場合、6ヶ月定期をJRで購入すると5万円以上かかるのに対して、近鉄は2.7万円という破壊的な低価格。これには京大生も阪大生もニッコリ。
阪急・阪神電気
阪急は1910年現在の宝塚本線区間を開通し、鉄道営業を開始した。阪急の根格と見られるこの宝塚線は、とにかく何もない寂れた地域を走る路線で有名だった。
そんな状況を打開すべく作ったのが、かの有名な宝塚歌劇団だ。
この宝塚歌劇団の運営に加え、様々な駅周辺開発を行った結果、今の安定的な収益に繋がっている。
実はこの、「都市近郊に敷設し、駅を中心に居住地を作り、不動産価値を上げることで鉄道の需要を創出する」という鉄道会社の成長戦略を最初に考えたのは、この阪急電鉄の創始者である小林一三だ。
彼のビジネス手腕の代表格が阪急梅田駅の阪急百貨店である。
特定の会社との付き合いを大切にしていて、
主に「日立」「東芝」「東洋電機」の3社のみから車両や改札、電灯などの部品を調達している。
関西の人々が愛して止まない阪神タイガーズの親会社で、阪神タイガーズのファンは阪神本線来て、お土産を買って、子会社の阪神百貨店で消費を行う。阪神タイガースと阪急のビジネスは、強烈なシナジーを産んでいる。
おわりに
今回は鉄道会社の企業研究について書いていった。
今読み返してみているが西武鉄道のことを完全に忘れていることに気づき愕然としている。
鉄道会社は倍率が高く募集人数も少ない割に、退屈そうな職場のイメージをよく持たれているが、これはハッキリ言って間違いだ。
むしろ、「路線」と「駅」という最強のマーケティング基盤を用いて、生活者にニーズがありそうなビジネスに片っ端から節操なく手を出して行った結果生まれたキメラのような存在が、現在の鉄道会社なのである。
鉄道運営という安定的な収益基盤と、新規ビジネスによる成長性。
そのどちらもを併せ持つことが、鉄道会社の最大の特徴なのだ。
本稿を機に、鉄道会社への就職を目指してみるのはいかがだろうか。