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海外作品は難しい? 演劇のつくり手たちが考える海外作品の楽しみ方

OFFICE SHIKA PRODUCEが新たな挑戦を始める。それが、「OFFICE SHIKA×海外児童文学シリーズ」だ。児童文学を愛する菜月チョビが、今上演したい作品を自らセレクト。演劇の力を駆使して、児童文学の世界を舞台上に創出する。


しかし、馴染みの薄い海外作品は時に日本の観客からは敬遠されることも。日本を舞台とした現代劇を上演するのとは違う難しさがある。


そこで、「本多劇場グループ×海外戯曲シリーズ」と銘打ち、今年、『ULSTER AMERICAN』と『BIRTHDAY』の2作品を企画・プロデュースした本多劇場の筒井未来さんと、同2作の翻訳を担当した翻訳家の小田島創志さんをゲストに招き、多様なテーマについて菜月と共に語り合ってもらった。


初回のテーマは、海外作品を上演する難しさと意義について。それぞれ海外作品のどんなところに魅力を感じているのだろうか。


左から小田島創志、菜月チョビ、筒井未来


海外の戯曲には、社会批判が自然な形で込められている

――今年、「本多劇場グループ×海外戯曲シリーズ」として、『ULSTER AMERICAN』と『BIRTHDAY』の2作が上演されました。正直、本多劇場に翻訳劇の印象があまりなかったので、意外なラインナップでした。


筒井 主催公演としてはほぼやったことがありませんでした。きっかけは、コロナ禍でなかなか公演が打てないときに、俳優の伊礼彼方さんと親しくなりまして。小劇場楽園でハロルド・ピンターの『ダム・ウェイター』をやったのがきっかけです。最初は翻訳劇をやることが目的というより、まだコロナによるいろんな制限があった時期だったので、人数もコンパクトに、なるべくお金をかけずにできる作品はないかというところから、二人芝居である『ダム・ウェイター』をやることになったというのが正直な話で。今とはまた全然コンセプトが違ったんですよね。


――それでも、こうしてシリーズ化されたということは、本多劇場さんのほうでも何か手応えがあったんでしょうか。


筒井 包み隠さずお話しすると、うちの総支配人はあまり翻訳劇に興味がないタイプではあります。ただ、当時、私たちがイメージしている翻訳劇というのがイコール古典だったんですね。ですが、当然のことながら翻訳劇にも面白い現代劇はあるという話を(『ダム・ウェイター』で演出を務めた)大澤遊さんがしてくださって。そこからいろいろと面白い戯曲を紹介してもらう中で、これはいいなと思ったのが『ULSTER AMERICAN』と『BIRTHDAY』でした。


本多劇場 筒井未来


小田島 もともと『BIRTHDAY』は2021年の9月にシアタートップスのオープニング企画としてリーディング形式で上演したんです。そのときに僕も翻訳で参加させてもらって。それが、本多さんとの最初のお仕事でした。


筒井 『BIRTHDAY』がすごく面白かったんですよ。座組みのチームワークも良くて。これはコロナが明けたら、リーディングではなくストレートプレイとしてやりましょうという話をして、みんなのスケジュールを調整した結果、今年の7月に上演にこぎつけたという感じです。


――一方、菜月さんは「OFFICE SHIKA×海外児童文学シリーズ」という新たな企画を立ち上げました。


菜月 私がもともと児童文学が大好きなんです。だから実は前々から企画会議でやりたいと案は出していたんですよ。ただ、他のメンバーが出す企画のほうが実現可能性が高かったので、私のふわっとしたアイデアは長らく制作サイドから後回しにされてきたというだけで(笑)。


小田島 じゃあ、犯人は制作さんなんだ(笑)。


菜月 そうです(笑)。たとえば、昨年、ミュージカル『マチルダ』が上演されました。すごく素敵な舞台だったんですけど、私は原作(『マチルダは小さな大天才』)を読んだときに、舞台ではフォーカスが当てられていなかった別のエピソードにすごく惹かれて。やっぱり児童文学を題材にした舞台を自分でもやってみたいなと思ったんです。そんな中、やっとこうして企画が形になって、今回、『姉さんは、暖炉の上の、壺の中̶My Sister Lives on the Mantelpiece』を上演することになりました。


――海外の作品ならではの魅力とはどういうところでしょうか。


菜月 この社会が抱える問題について、すごく自然に出てきますよね。今回の原作は、イギリスの『さよなら、スパイダーマン』という児童文学なんですけど、親の愛を感じられない子どもといった、日本の児童文学にはなかなか描かれることのない子ども像が普通に出てくる。そこが面白いなと思いました。


劇団鹿殺し 菜月チョビ


小田島 社会批判がしっかり込められているところは特徴と言えるかもしれません。『ULSTER AMERICAN』も『BIRTHDAY』も内容は違うけど、ダークなコメディの中に社会への風刺があって。観客が笑っていいのかどうかわからない感じになりながらも釘付けになるというところが共通点でした。特にイギリスはそういう傾向が強いかもしれない。


『ULSTER AMERICAN』『BIRTHDAY』


菜月 そうなんですね。


小田島 イギリスの戯曲って登場人物があまり直球で会話しないんですよ。みんな変化球。移民問題だったり人種問題だったり、個人の生活と政治が日本より密に結びついているようなところがあって、必然的にその国の政治事情が浮かび上がってくる。個人を描いているようで、ちゃんと社会が見えてくる作品が多い印象があります。


――『姉さんは、暖炉の上の、壺の中』もそういうところがありますよね。


小田島 テロで犠牲になった子どもの家庭の話ですからね。この作品の中で描かれているテロというのが、おそらく2005年に起きたロンドン同時爆破事件をモデルにしていて。実はあのとき、僕、ロンドンにいたんですよ。


翻訳家 小田島創志


筒井 え! あのとき、ロンドンにいたんですか?


小田島 当時中2でしたが、楽しい生活から一気に現実に引き込まれたような衝撃がありました。だから、原作は児童文学ですが、子どもはもちろん、大人が観てもハッとする作品になるんじゃないかと思っています。(菜月に)やはり描く上で社会問題というのは意識されているんですか。


菜月 まだ子どもでいたい年齢なのに、そうしたのっぴきならない社会問題に直面させられることで無邪気でいられなくなる残酷さというのは、確かに観客のみなさんにとっては物語の入口になるとは思います。ただ、そこを前面に押し出していこうとは考えていなくて。そういう緊迫した情勢の中でも、そこで暮らす人たちはやっぱり生活をしていかなければいけないわけで。ずっと深刻な顔をして社会について語っていられないというか、日常の営みに戻っていかざるを得ないじゃないですか。


筒井 生きていかないといけないですからね。


菜月 子どもなんて特にそうで。死がすぐそこにあってもピンと来ない。でも、実は心の奥のほうではすごくリアルに死を感じている。テロに対してどう思いますかと観客に問題提起をするというよりも、そうした日常と非日常の間を行ったり来たりする無邪気や可愛さ、逆に言うと残酷さを描きたいと考えています。



たとえ歴史や文化を知らなくても、海外作品は楽しめる

――海外作品の難しさは、その国の歴史や文化的背景が頭に入っていないと、表面的な部分しか理解できなくて、登場人物のちょっとしたやり取りや台詞の真意をすくいとれないところかなと思っていまして。苦手意識を抱いている日本の観客も少なくない気がするんですね。この難しさを抱えながら、どう作品を届けていこうと考えていますか。


筒井 私も翻訳劇を観に行って不完全燃焼で帰ることがあるので、その気持ちはよくわかります。なので、『ULSTER AMERICAN』のときは当日パンフも凝りに凝っていました。観劇にあたって知っていてほしい基本的なことを網羅して。Webに書いてもいいんですけど、みんながサイトを読んでくるとは限らないから、とにかくお客さんの目につくようにつくらなきゃって。正直、私はお芝居よりも当日パンフのほうに力が入っていたかもしれない(笑)。


菜月 その工夫は大事だと思います。


筒井 現実的なことを言うと、翻訳劇だから行かないという観客の方って結構多いんじゃないかなというのが私の実感値です。正直、私たちのような小劇場や民間の団体が翻訳劇をやるのってすごく難しい。これから海外の作品をやる方に言うことじゃないと思うんですけど(苦笑)。


菜月 いえいえ、本当にその通りだと思ってますから。


筒井 だからこそ、日本とこういうところが違うんだよというポイントを先にお客さんに知っておいてもらうことが大事。自分たちがどんなに面白いと思っていても、伝わらないと何にもならない。やっぱりお客さんに来て良かったと思って帰ってもらいたいじゃないですか。そのためには、日本の現代劇をやるよりも、ひと手間かけることは大事なんじゃないかと思いますね。


小田島 翻訳家としては、翻訳劇というのは最もフィジカルで、最もプリミティブで、そして最もフェティッシュなものだと思っていますけどね。……あ、これは『地面師たち』か。どうしよう、今のボケで言いたいことを忘れちゃった(笑)。



菜月 トヨエツをやって終わっちゃった(笑)。


小田島 思い出しました(笑)。僕の考えとしては、ある程度とっつきづらいと思われるのは仕方ないかなと思っているんですね。僕だって、非英語圏の作品を観ているときは、「これはこういうことかな?」と疑問が浮かぶことがあるので、おっしゃっていることはよくわかります。ただ、翻訳をやっている人間として言いたいことは、そういう背景がわからなくても、そこでつまずかずに観ていたら、笑える瞬間はきっとある。この作品もロンドンのテロのことを知らなくても全然楽しめますもんね。


菜月 だと思います。実の親からちゃんと愛を受けられていない子どもというのは世界中にいて。日本にも里親制度があったりしますが、それで救われるかというと、やっぱり実の親から愛されたいという気持ちを捨てきれない子どもたちもたくさんいると思うんです。実の親から愛されたいという素直な願いが叶えられないときにどうすればいいのか。そこが描かれている作品って実はあまり多くなくて。この作品は、そんな子どもたちや、あるいはかつてそうした苦しみを抱えていた大人たちが、逃げ道を見つけたり選択肢を広げるきっかけになるお話。私が描きたいのはそこなので、たとえイギリスという国の知識がなくても届くものがあると信じています。


小田島 そのために翻訳家としてできる工夫は、海外戯曲に慣れていない方にも楽しんでいただけるように、なるべく伝わりやすく翻訳すること。難しい言葉はカットしたり、逆にある程度説明的になってもいいからちゃんと説明を入れたり。ここで笑いが生まれるなという台詞に関しては、笑いを優先して、あえて逐語訳ではなく、ちゃんと面白いんだよっていうことが伝わるように飛躍して訳すこともあります。


菜月 そこで言うと、原作の『さよなら、スパイダーマン』は、私が図書館の子ども向けコーナーの中から「うわ! これいいな」と思って選んだ作品なので、そもそもそんなに難しい話ではないんです。それに、私自身がずっと音楽のあるお芝居をやってきたので、やっぱり音楽に乗せて踊るみたいに、自然と体の中がウキウキしてきて、生理現象みたいに体が動く作品を今回もつくりたいと思っているんです。ロックやパンクを聴いたら、「この歌、カッコいい!」「歌ってみたい!」と体が動くじゃないですか。あんな感じでこの作品も届けたいし、そこからすっとメッセージが入ってくるような作品にしたい。だから「海外児童文学シリーズ」と銘打ってはいますけど、いつものようにライブやサーカスに行くつもりで来てほしいですね。

(文:横川良明)

写真:江森康之 デザイン:藤尾勘太郎 衣装:車杏里 ヘアメイク:山本絵里子


公演情報
OFFICE SHIKA×海外児童文学シリーズ vol.1
音楽劇『姉さんは、暖炉の上の、壺の中-My Sister Lives on the Mantelpiece』

公演期間:2024年11月21日(木) 〜 12月1日(日)
劇場:CBGK シブゲキ!!

全ステージ前売券完売御礼につき、12月20日(金)〜12月22日(日) 配信公演決定!

配信チケットのお申し込みはこちら
https://eplus.jp/mysister_streaming/ 

さらに、見切れ席・機材解放席などを対象にした「当日券引換券」の受付を11月17日(日)〜実施します(抽選式)

当日券引換券の詳細・お申し込みはこちら
https://eplus.jp/mysister/ 


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