自閉スペクトラム症は、男女で脳の組織が異なる?
自閉スペクトラム症(ASD)の発症率は、統計上では男児が女児の約4倍だということがわかっています。しかし、最近では、男児の方が自閉症になりやすく、女児がなりにくいという単純な話ではないと考えられるようになりました。
男児の方が障害特性が典型を示し発見しやすいことが想定され、発見思春期で精神症状が重症化するのは女子で割合が高いことなどから、ASDの女児は反復的行動やソーシャルスキルの欠如が目立ちにくく(カモフラージュという言い方がされます)、その発達過程にも性差があるかもしれません。
スタンフォード大学医学部の新しい研究は、ASDの脳組織が男児と女児では異なる可能性を指摘しています。この研究は、fMRI(機能的磁気共鳴画像法による脳スキャン)とAIを駆使して得られた結果のようです。脳の神経機能的ネットワークのつながり方の違いを明らかにしようという試みです。脳内ネットワークの異常を見ようというのは、精神疾患のイメージングに用いられる手法です。
この研究では、ASDの773人の子ども達(637人の男児と136人の女児)をfMRIによって分析しました。従来の研究では、スキャンの数が男性が圧倒的に多い点を考慮せずにASDの脳組織の異常を探索したので、主に「男性のASD脳」の異常を検出していました。そこで、この研究は、まず773人中の678人の脳スキャンを使用して、男女を区別するAIアルゴリズムを開発しました。このアルゴリズムは86%の精度になり、残りの95人の脳スキャンで検証したところ、ほぼ同じ精度を維持することを確認しました。
次に、非ASDの男女976人の脳スキャンでアルゴリズムを適用しました。すると、アルゴリズムは、非ASD脳の男女の区別はできませんでした。よって、このアルゴリズムは、ASD脳の性差においてのみ特有に働くのではないかということだそうです。
その肝心のアルゴリズムですが、私も詳細はわかりかねますが、運動ネットワークを固定する一次運動野と補足運動野、頭頂葉、外側後頭皮質、言語ネットワークを支配する中側頭回と上側頭回、さらに、視空間注意システムの特徴を自動的に識別するようです。
さらに、stDNNで特定された脳の特徴が、ASDの女児と男児の臨床症状の重症度を予測できるかどうか、調べられています。 すると、一次運動野で見られた特徴のみが、ASDの女性のADI-R RRBスコアと関連したようです。アルゴリズムは、ASDの社会的およびコミュニケーション領域の重症度は予測できませんでした。ですので、アルゴリズムは、ASDの女児のRRB表現型の特徴に関連する所見の特異性を検出している可能性があります。
この研究の新しさは、ASDの神経生物学的性差に対して、ASDの性差に注目してfMRIとAIを駆使して、ニューラルネットワークの異常を調べていった点にあるでしょう。ASDの脳機能の性差は、運動、言語、そして、視空間注意システムに関連した比較的大きなネットワークの差異にあるかもしれませんね。特に、背側頭頂葉および外側後頭葉領域は、ASDでの研究はほぼありませんでした(予期せぬ出来事に対する注意や行動に関係するといわれています)。ASDの男女の脳は、機能的に異なって組織化されているかもしれず、臨床症状の発現にも異なって関与しているかもしれません。
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