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60代ASD、初の海外(トルコ)に挑む(14)野鼠神アポロン


アッソスの宿


アッソス遺跡を見学した後、バスはさらに狭い道を下った。もうバスは通れないので、宿からの迎えの(6人乗りの山坂に強そうな)車に分乗するよう言われた。
どんなすごいところに連れていかれるのかと思ったが、海辺には何件かのホテルが並んで、閑静なリゾート地といった感じのところだった。

落ち着いた感じのホテル(翌朝撮影。泊まったのは別のところ)

ホテル中央は吹き抜けで、車輪型のシャンデリアを下げ、壁にはケンタウルスとの戦闘のレリーフ、部屋の絵もアッソスの城壁を描いたものだった。

シャンデリア。奥の高い壁にレリーフが飾ってある。ツタは本物。
部屋の絵。優し色合いで描かれた城壁。

ホテルのテラスは海岸に張り出していて、食事はそこでも取れる。藁のパラソルが並んで、幻想的な雰囲気を醸し出している。

美しい陶器皿。ここにスズキまたはタイ1尾が来る。
夜のテラス。十六夜の月がエーゲ海に映る

「イリアス」の世界へ

そして朝、「イリアス」の描写そのものの夜明けが訪れる。

クロコス 色 の 衣 を 纏う 暁 の 女神 は、 神 々 と 人間 たち に 光 を もたらす べく、 オケアノス の 流れ から 立ち 昇っ た。

松平 千秋. ホメロス イリアス 下 (岩波文庫) (p.191). 株式会社 岩波書店. Kindle 版.
まさにクロコス(サフラン)色に空と海を染める暁。

今日まず訪れるのは、アポロン・スミンテウスの神殿。

「イリアス」冒頭、アポロンの祭司クリュセスは、アカイア(ギリシャ)勢に捕らわれた娘を受け戻そうと大量の財とアポロンの標を携えて総大将アガメムノンを訪ねる。このように代償を受け取って捕虜を返すことは当時常識とされていた。だが、娘を気に入ったアガメムノンはこれに応じず、クリュセスを追い払う。

人気のない浜に出たクリュセスはアポロンにこう祈るのだ。

 「 お 聞き 下さい 銀 の 弓 持たす 君、* クリュセ ならびに 聖地 キラ の 守り神、 さらに は* テネドス を 猛 き 力 に 統べ 給う* スミンテウス よ、(中略) どう か* あなた の 弓矢 によって ダナオイ 勢 に、 わたくし の 流し た 涙 の 償い を 払わ せ て やっ て 下さい ませ。」(「イリアス」第1歌37-42行)

松平 千秋. ホメロス イリアス 上 (岩波文庫) (p.12). 株式会社 岩波書店. Kindle 版.

このクリュセスの願いをかなえて、アポロンはアカイア勢に疫病を送り、そこからアガメムノンとアキレウスの対立が始まる。[スミンテウス]は「野鼠の神」、つまり疫病をもたらす神としてのアポロンなのだ。

アポロン・スミンテウス神殿

この物騒な野鼠神アポロンの神殿は、しかしながらなんとも優雅な佇まいを見せていた。入場料を払って中に入ると、弓ではなく竪琴を抱えた美青年の趣を感じる白く美しい神殿が現れた。

観光客向けだろう。基壇に黒い鼠の置物が並べてある。

しかし、実はこの遺跡、この向こう側一帯に広がっていて、その大部分はこれから調査研究が行われるというスケールの大きなものだったのだ。

広い遺構が並んでいる。
泉(噴水)かもしれない
すごく細かい彫刻の石。これ自体が本物か模造かは不明。(調査シーズンは終わっている)
無造作に並べられた出土品

遺跡はまだまだあった。今日はトロイアに行くというのに、アポロン神(「イリアス」ではトロイアの守護神)に見事に足止めを食らってしまった。

アレクサンドリア・トローアス


昼食前にもう一つ、アレクサンドリア・トローアス遺跡に寄った。アレクサンドロス3世(大王)の武将たちによって整備されたこの港湾都市はローマ時代に発展し、交易により長く栄えたらしい。
キリスト教の使徒パウロがこの港からヨーロッパに旅立ったのだそうで、先生とツアーのほかのメンバーはその場所に移動した(聖書のその部分を読むらしかった)が、私はバスに残って海を見ていた。

アレクサンドリア・トローアス。遺跡は広く散在しているとのこと。

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