60代ASD、初の海外(トルコ)に挑む(14)野鼠神アポロン
アッソスの宿
アッソス遺跡を見学した後、バスはさらに狭い道を下った。もうバスは通れないので、宿からの迎えの(6人乗りの山坂に強そうな)車に分乗するよう言われた。
どんなすごいところに連れていかれるのかと思ったが、海辺には何件かのホテルが並んで、閑静なリゾート地といった感じのところだった。
ホテル中央は吹き抜けで、車輪型のシャンデリアを下げ、壁にはケンタウルスとの戦闘のレリーフ、部屋の絵もアッソスの城壁を描いたものだった。
ホテルのテラスは海岸に張り出していて、食事はそこでも取れる。藁のパラソルが並んで、幻想的な雰囲気を醸し出している。
「イリアス」の世界へ
そして朝、「イリアス」の描写そのものの夜明けが訪れる。
今日まず訪れるのは、アポロン・スミンテウスの神殿。
「イリアス」冒頭、アポロンの祭司クリュセスは、アカイア(ギリシャ)勢に捕らわれた娘を受け戻そうと大量の財とアポロンの標を携えて総大将アガメムノンを訪ねる。このように代償を受け取って捕虜を返すことは当時常識とされていた。だが、娘を気に入ったアガメムノンはこれに応じず、クリュセスを追い払う。
人気のない浜に出たクリュセスはアポロンにこう祈るのだ。
このクリュセスの願いをかなえて、アポロンはアカイア勢に疫病を送り、そこからアガメムノンとアキレウスの対立が始まる。[スミンテウス]は「野鼠の神」、つまり疫病をもたらす神としてのアポロンなのだ。
アポロン・スミンテウス神殿
この物騒な野鼠神アポロンの神殿は、しかしながらなんとも優雅な佇まいを見せていた。入場料を払って中に入ると、弓ではなく竪琴を抱えた美青年の趣を感じる白く美しい神殿が現れた。
しかし、実はこの遺跡、この向こう側一帯に広がっていて、その大部分はこれから調査研究が行われるというスケールの大きなものだったのだ。
遺跡はまだまだあった。今日はトロイアに行くというのに、アポロン神(「イリアス」ではトロイアの守護神)に見事に足止めを食らってしまった。
アレクサンドリア・トローアス
昼食前にもう一つ、アレクサンドリア・トローアス遺跡に寄った。アレクサンドロス3世(大王)の武将たちによって整備されたこの港湾都市はローマ時代に発展し、交易により長く栄えたらしい。
キリスト教の使徒パウロがこの港からヨーロッパに旅立ったのだそうで、先生とツアーのほかのメンバーはその場所に移動した(聖書のその部分を読むらしかった)が、私はバスに残って海を見ていた。