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愛という名の

「今度の土日は仕事?」

「ごめん、わからないんだ…」

「じゃあ、次の水曜日は?」

「ごめん、わからない」

「なんでわからないの?」

「わからないから、わからないんだよ」

メッセージのやりとりにほとほと疲れた私は、携帯をベッドに放り投げた。

ベッドのスプリングに少し跳ねあげられ、宙に舞った携帯はその日はなることはなかった。

翌日、目がさめると彼からメッセージが入っていた。謝罪だ。

「別に謝ってほしいわけなんじゃない」

そう呟いて、私は

「いいよ」

とだけ返した。

先週の休みの時を思い出す。

彼は胃が痛いと言いながらもいつも通りお酒を二人で飲んだ。美味しい寿司も食べた。

ただ、いつも以上に疲労の色も濃い気がした。

その週の土日は結局会えなかった。

翌週の土曜は仕事で、日曜に少し会った。

彼は相変わらず胃が痛いといい、ビールを1杯だけ飲んでいた。

私の家から笑顔で

「じゃあいってくるよ」

と日曜に帰っていった。

それから…

それから…

それから…


「ちょっとぐあいがわるいから、きょうはこっちきてくれないかな?」

数週間会えなかった私は、そのメッセージを見たときに腹が立った。

腹立ち紛れに電話をかけてみるも彼は出ない。

「わかった」

何時にどことかも連絡もはっきりしない。

聞いてもちゃんと言わない彼が観念して自白した。

私は血の気が引き、彼の元に向かった。

どう向かったのかも記憶も曖昧だ。

深呼吸して扉を開ける。

白いカーテンが揺れている。

「どこが、ちょっとなのよ…どこがちょっと具合がわるいのよ」

呼吸器をつけ身体に管が何本か通っている彼は私を見て嬉しそうに笑った。

しかし、彼の姿をみて取り乱した私をみて、彼は申し訳なさそうに涙を流した。

「泣くくらいなら、最初からちゃんといいなさいよ」

彼は力なく頷いた。

「ごめんなさい」

何が?

「本当にわからなかったんだ」

なんで?

「ごめん」

なんなの?

「愛してるんだ」

知ってるわよ



2週間ほどして彼はあっけなくいなくなった。

月が変わっても私はしばらくカレンダーを破り捨てることができなかった。

さらに月が変わり、ようやく私は8月と9月のカレンダーを破り捨てた。

私は破り捨てたカレンダーの裏に文字が書かれていることを見つけた。見つけてしまったのだ。

「ごめん、君といれなくなった。ごめん、これは愛という名の呪いだよ」

私は、トイレに駆け込み胃の中のものが全部なくなっても吐き続けた。

気がつくと日は暮れていた。

「愛という名の呪い」

そう。

そうね。

いいわ。

貴方に呪われて私は生きるのよ。

貴方のこと私も一生かけて呪ってあげるから。



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