一人酒の流儀(焼肉編)

僕は飲みに行く時は概ね一人が多い。

なぜなら、一人が楽だからだ。

もちろん、友人と二人で飲みに行くのも好きだ。しかし、この年になると、お互いの生態系が違いすぎる。

方や家畜、方や放牧、方や野生。

方や水族館、方や養殖、方や遠洋。

違いを違いと分かったうえでお付き合いするのが宜しい。

一人酒は楽だ。一人酒は楽しい。そして、少しさみしい・・・・

好きなものを食べ(「これ食べたいけど頼んでいいかな?」)

好きなものを呑み(「ワインボトルで飲みたいけど・・・・」)

自分のペースで楽しめる(「まだ向こうは、お替りしてないから飲むペースおとそう・・・・」)

遠慮は無用だ。しかし、反対に一人の酒飲みとしての資質が問われる。

そんな、僕の一人酒の流儀を綴りたいと思います。

どうも性癖をさらけ出すような感覚と似ていて少し恥ずかしいが、考えてみると、自分の性癖をばらしたこととか、文章で述べたこともない。この表現は正確ではないだろう。

「一人焼肉」この言葉を聞いて、皆様はどのような印象を受けるでしょう?

「一人焼肉」は、「一人カラオケ」くらいハードルが高い。

しかし、一度ハードルを乗り越えると、その快適さに誰しもが気が付くだろう。(ちなみに、僕はどちらも経験済み)

最初は「こいつ一人で焼肉(あるいはカラオケ)にきて・・・・友達いないのか?」という視線が気になる。店員の視線。他のお客さんの目線。そして、自分自身。

でも、それを乗り越えれば後は純粋な自分との欲望との戦いになる。

いつも、「おいおい、最初から米かよ」と言われるのが怖くて、ライス大を生ビール大とともに頼めない婦女子諸君。一人だと店員に驚かれるだけで済みます。(僕の愚妹は酒が飲めないのでライス大)

「生センマイ頼みたいけど、こんなぼろ雑巾のようなものをたべる女子って・・・・・」なんて思う必要もございません。

「やっぱり焼肉には熱燗だと思うけど・・・・」これは僕です。他の人と行っても普通にやっています。

一人焼肉は楽です。しかし、楽だからと言ってそれはいっぱしの大人。一社会人。というより、一人の酒飲みとしてはそれなりのマナーで小奇麗に小ざっぱりと飲みたいものです。

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「一人ですけどいけますか?」

「はい。大丈夫ですよ。カウンターどうぞ」

ここの店はカウンターにコンロが置いてあるからいい。

私は、カウンターに行きつくまでにテーブル席の客を観察した。

幼児二人連れの親子。おそらく会社帰りの男性4人。大学生風の男性2名と女性1名。

私は席に着きメニューを見る。

実は見るまでもない。メニューはインターネットですでにみている。食べ放題と飲み放題があることも承知の上だ。

しかし、いざ現場にたち、その時の状況もある。

店内は喧騒に包まれ、誰も私のことなど気にしていない。

(よし・・・・)

「この、食べ放題と飲み放題って一人でもいけるんかな?」少し小声で店員に聞く。

店員は少し驚いた風に私を見た。

「はい・・・・大丈夫ですけど・・・・」

「なら、それで。」

「わかりました。最初はお肉は盛り合わせで一人前出すので、あとはお好みのものをこちらのメニューから選んでください。あと、こちらの一品関係はお替り自由ですので。ドリンクメニューはこちらが飲み放題となっています」

「じゃあ、モルツを瓶で。それからキムチを。」

焼肉屋という店は難しい。肉を食べに行くところなのか、肉をおかずに白米を食べるところなのか、肉を肴に飲むところなのか。

一人でもそうだ。それが4人も集まれば収拾がつかない。

私一人でも、その時の状況。その時のコンディション。その時の空腹具合。その時の欲求ですべてが変わってくる

モルツの小瓶とキムチが運ばれてくる。そして、眼前のロースターに火をつけて店員は去っていく。

カウンターだと顔の表面がちりちりと熱くなってくる。

私は、ビール瓶をロースターから少し離れた場所におきなおして、キムチをあてにやりはじめる。

盛り合わせが一人前運ばれてくる。

なかなかの盛りだ。いいじゃないか。

焦らない。焦るな。

ロースとハラミを一切れずつトングで丁寧にロースターの上に置いた。

肉が焼ける様を見据えながら私は黙ってグラスのビールをあける。そして、黙って自分でビールをグラスに注ぐ。キムチを一切れ食べる。白菜だった。

しばらくロースとハラミを観察し、ロースター上にシマチョウとアカセンをおく。

頃合いを見てロースとハラミを返す。もちろん、ロースとハラミではタイミングが違う。私はちびちびとビールをやりながらそれをみつめる。

それからハツとレバーをおく。

キムチをつまむ。ビールを飲む。ビールは1瓶あけた。追加のビールを頼む。視線はロースターから離さない。

ロースが頃合いになってきている。私は焦る。

(栓を開けて持ってくるだけなのに何を手間取ってんだ)

瓶ビールが運ばれてくるのを目の端に捉えた瞬間、私は塩コショウ、レモン汁を用意していた小皿にロースをつける。左手で店員から瓶ビールをもらうい、そのまま自分のグラスに注ぐ。右手の箸がハラミを小皿に置く。返す箸で小皿のロースを口に運び2,3咀嚼後左手にもったままのグラスの中身を流し込む。

ロースを飲み込んでビールを追い足し、ハラミを口に入れ咀嚼し、グラス一杯のビールを流し込む。

私だって、高級焼肉や高級鉄板焼きだったらこんなみっともない真似はしない。しかし、こういう店ではこういうあさましい食べ方がいい、許してくれ。

つづいて、ロースとハラミを1枚ずつおき、ハツとレバーをひっくりかえす。

夜は長い。焦る必要はない。

どうも、私は鉄板が見えなくなるほど肉が置いてあるのを見ると焦るたちで、できれば「ちまちま」と「ちびちび」と時間をかけてゆっくりと楽しみたい。

ハツとレバーも食べ頃だ。皿に取る食す。ビールを流し込む。

2本目のビールも空になりかける。

そろそろビールはいい。普段はビールばかりでも大丈夫だが、今日は一人だ。

店員を呼び止めて「日本酒をぬる燗で。それと酎ハイのレモンを」と。

店員は私を怪訝そうに見て、「日本酒のぬる燗とレモン酎ハイですね。日本酒は大と小がありますが」「大で」

「おちょこは・・・・」

「一つで」

馬鹿にしてんのか?とも思いながら「すまないね。」というと「いえ、全然大丈夫です」という。何が全然なんだ。


私は焼肉を日本酒でちまちまとやるのが好きだ。

ぬる燗がいい。

基本的に白米に合う料理だったら日本酒にも合うと思っている。

だから、私はとんかつにも日本酒が好きだし、お好み焼きでも日本酒で食べたい。まぁ、お好み焼きは関西人的な発想かもしれません。餃子だってぬる燗でいける。

きどった地酒で、吟醸とか大吟醸とかじゃなく、菊正宗や白鶴などの普通の酒がいい。せいぜい純米までだ。櫻正宗があればなおよろしい。

焼肉の肉の旨味を日本酒で受け止める。そして、その旨味を倍増させるのはビールやハイボールにはない日本酒の強さだと個人的には思う。

ビールやハイボールが料理のうまみを倍増させる、陳腐な表現だがマリアージュする料理ってなんだろうと考えると実は難しいのかもしれない。

食中酒としては日本酒や焼酎、ワインなどのほうがビールやハイボールなどよりはいいと思う。


そして、レモン酎ハイはチェイサー替わりだ。喫茶店とかでたまにでてくるレモンが入った水だと思えばいい。炭酸があって、少しアルコールが入っているだけだ。

炭酸とレモンで後半になると重たくなりがちな焼肉の脂をさっぱりとさせる。

これで僕の焼肉の布陣は完璧だ。

肉、米、水。

焼肉定食だ。


なんて、どうでもいいことを考えながら一人カウンターで肉を焼く。そして酒を呑む。誰のために焼くわけではなく、誰かに焼いてもらうのでもない。

自分の焼きたいように焼きたいタイミングで肉を焼き、食べたいタイミングで肉を食う。そして、酒を呑む。

自由だ。

私は今自由を堪能している。


お腹も満足だ。

都合、焼肉の盛り合わせを2人前とハラミを一人前さらに追加。

ビール2本。日本酒6合、レモン酎ハイ3杯。

満足だ。さすがに食べすぎたかな・・・・。

そう思い、帰りに地元のバーによる。


焼肉を食べてきた旨つたえると、

「お、焼肉?ええなぁ?友達と?」

「いや一人」

「・・・・さみしくない?」

「いや、全然」(「膳」のCMの真田広之さん風

「啓君のことやから、たらふくビール飲んできたんやろ?」

「いや、ビールを2本だけ。その後はレモン酎ハイをチェイサーにしてぬる燗」

「・・・・啓君、そりゃちょっとおかしいで・・・・」

マスターは不憫な目で私を見た。


(な、だから焼肉は一人に限るんだよ)


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