カワサキの世界初の水素バイクはいいとしても、どうしたホンダ
この不細工といっていいのか、逆に格好良いといっていいのかわからないバイクには名前がない
カワサキはただ、水素エンジンモーターサイクル、としか呼んでいない。
したがってここでも単に「この水素バイク」と呼んでおく。
カワサキは2024年7月20日、この水素バイクを鈴鹿サーキットで走らせた
このお披露目会は、鈴鹿8時間耐久レースの前日にサブイベントのように行われた。
量産メーカーが水素を燃料にしたバイクの走行を公開するのは、世界初のことだそうだ。
ただし世界初なのは「量産メーカー」が走行を「公開した」ことであって、これまでもほかの人たちが水素バイクをつくってきたし、走らせてきた。
だからこのサブイベントの価値は、あのカワサキが、量産バイクに相当近づいた形で世間にみせたことにある。
では、量産バイクに相当近づいた水素バイクとはどういうものなのか
この水素バイクは、エンジン車のNinja H2をベースにつくられている。
普通は、専用のバイクをつくったときに「すごい」といわれるが、水素バイクに限ってはガソリン車をベースにつくったことのほうが「すごい」といわれる。
なぜなら、ガソリン車をベースに水素バイクをつくれば、コスト安であるし普及させやすいからだ。
「1からつくったんじゃなくて、ガソリン・バイクを流用して水素バイクをつくったのか、それはすごい」というわけだ。
下の写真は、カワサキがつくった、この水素バイクのプロモーション用動画から切り抜いたもの。
ガソリン車のエンジン部品を使っていることをアピールしている。
ただ、この水素バイクで、水素をガソリンと同じように扱えているかというと、残念ながらそうではない
その残念な要素の最たるものが、後部の巨大な水素タンクである。
カワサキはこの水素バイクについてあまり説明していなくて、後部の巨大構造物についても水素タンクであるとはいっていないが、やはりカワサキが2022年に公開した、一世代前の水素バイクの説明では、水素タンクを後部に配置していることを明かしている。
バイクを走らせたことがある人なら、こんなにでかいものが後部にあったら運転しにくい、とすぐに思うだろう。
カワサキ公式の、この水素バイクの走行動画をみても、不安定であることは明白だ。
軽快なコーナリングからは程遠く、ライダーは恐る恐る走らせている感じだ。
そしてカワサキ自身「今(2024年7月)はまだ基礎研究の段階」といっている。
だからこの水素バイクに名前をつけなかったのだろう。
「本当はこんな中途半端な段階で一般公開したくなかったけど、宣伝のために仕方なく走らせた」といったところか。
ちなみに、水素バイクは排ガスを出さないので、この水素バイクにも排気管(マフラー)はない。
代わりにあるのが水を出すテールパイプだ。
この水素バイクには「それにしても」が2つある
1つ目の「それにしても」は、それにしてもアグリーだ
カワサキはショー用に水素タンクを小さくしたバージョンをつくればよかったのに、と思ってしまう。
ショー用なら、短距離を走れればよいので水素タンクは小さくて済むだろうに。
もしくは、水素タンクをこれだけ巨大にしても短距離しか走れないのか。
あるいは、水素は爆発しやすいので、少量の水素を守るだけでもこれだけ大きな物体が必要なのか。
2つ目の「それにしても」は、それにしてもなぜ、世界初の水素バイクをつくったのがホンダではなかったのか
カワサキには申し訳ない言い方になってしまうのだが、どうしても私は、世界初を他社に獲られてしまってホンダは平気なのか、思えてしまう。
ホンダは世界1のバイクメーカーであるが最近は精彩に欠く。
レースでもホンダは勝てないでいる。
そのうえイノベーションでも負けていては、立つ瀬がないように思えるのだが。
水素でバイクを走らせることはそれほど難しいことではなく、難しいのは水素バイクを市販できるレベルにまで商品化することにある。
こういう仕事は普通、経営体力がある業界1位企業がやるものだ。
しかしホンダはやらなかった。
「やれなかった」のではなく「やる気がなかった」のだ。
もしかしたらこれが、あとから「あれがホンダの世界1位からの陥落の前兆だった」いわれるのかもしれない。
カワサキのこの水素バイクのお披露目会場の鈴鹿サーキットが、ホンダのものであることは皮肉である。
参考
「水素エンジン・モーターサイクル(研究車)走行動画」(Kawasaki)
「Kawasaki Carbon Neutrality | Go With Green Power | EV, HEV and Hydrogen」(Kawasaki Motors)
「水素エンジンモーターサイクル量産メーカーとして世界初の公開走行を実施」(株式会社カワサキモータースジャパン)