中小企業等へのご支援(2)~強味を知るお手伝い
中小企業の経営のご支援の続きです。
前回、企業(個人事業者の場合は事業とします。以下も同様です)の事業力を端的に表すものは決算書に記載される実績数字で、それに将来性とか事業の安定性などが加味されて、本当の意味での事業力が評価されると申し上げました。さらに実績数字をきっちり作り上げるには経理体制を企業の実態に合わせて整備し、小体の企業に関してはアウトソーシングも含めて対応を考える必要があるが、ある程度は自分たちでできるようにすることが大事と申し上げました。
では、企業の将来性とか事業の安定性を図るものは何でしょうか?決算書に表れている数字はあくまでも過去の実績数字です。しかしながら、企業には決算書に表されない資産がたくさんあります。独立行政法人である中小企業基盤整備機構が「事業価値を高める経営レポート」(知的資産経営報告書)というのを出していますが、その冒頭に知的資産・知的資産経営とは何かが書かれていて、知的資産として人材、技術、技能、知的財産(特許権等の法的な財産権)、組織力、経営理念、顧客とのネットワークの例が挙げられています。そしてそれらの知的資産がどこにあるか、すなわち企業としての強味がそれらのどこにあるのか認識し、それを活用する経営が大切と書かれています。
例えば、床屋を考えてみます。床屋さんと言えば、QBハウスのような床屋さんに対し、その対角に昔ながらの町の床屋さんがあります。QBハウスは1080円に対し、私の住んでいる地域の床屋は3900円で4倍近い値段の差があります。もちろん前者はカットだけですが、後者はカットに洗髪、マッサージとサービス内容が違いますが、一般のサラリーマンであれば間違いなく前者に行くと思います。私も会社勤めの頃はそうでした。自宅で開業した現在は後者に行っています。
QBハウスの事業モデルの主な特徴は、前述の値段の他、待ち時間を除けば散髪にかかる時間は10分で、また店舗立地は駅の構内等人通りの多い場所(当然賃料が高いところ)になっています。時間と立地は、「短い空き時間に散髪」といった顧客のニーズを引き出し、回転でトップラインを上げることで賃料の高さをカバーしています。しかしながら顧客と理容師の関係はほとんど一過性のものになります。また、サービス内容をカットだけにして、洗髪の代替はエアウォッシャーを使い、水回りの設備負担を無くし、エアウォッシャーと同じ吸引システムで、床に散った散髪後の毛くずも箒で集め、吸引するなど、徹底した効率化によりコストダウンを図り、値段が安くても利益がでるビジネスを作り上げています。
それに対し町の床屋さんは、時間は1時間、立地は住宅街の自宅に店を構えておられるところも多いと思います。時間と立地は、ゆったりとした時間を過ごすといった顧客ニーズのほか、顧客と理容師が1対1でコミュニケーションすることで、所謂固定客をつかみます。水回りの設備は必要なので、開業時に相応の資金負担が必要となります。
この事例を知的資産という面からみるとどうなるでしょうか?前者は、値段、時間、店舗立地、効率化した設備に代表されるビジネスモデルそのものが知的資産だと思います。業界の先駆者というブランドもそうだと思います。後者は固定客が知的資産の最たるものだと思います。
さらに「事業価値を高める経営レポート」では、知的資産経営実践の流れの最初に「自社の知的資産を”知る”」(自社の強味を認識する、知的資産の棚卸)がポイントと書かれています。そして強味が判ると、外部環境を加味して今後のビジョンに繋がり、さらなる付加価値創造のストーリーが作り上げることが可能になるとしています。言い換えれば、強味が認識できれば、将来像がイメージでき、事業計画も作成することが可能になるということです。そして事業計画が具体的に書ければ、銀行からの融資を受けたり、補助金をもらうことも可能になるということです。
知的資産を”知る”のは簡単ではないかと思いがちですが、今、中小企業支援を業務の主軸に置かれている他の行政書士の先生との勉強会で、「お客様があまりご自分の事業の強味を認識されていないことが多い。」とある先生がお話されていましたが、過去の銀行員時代のお客様を思い返すと、確かにと思うことがありました。思いの外自分の強味を認識していないというのは、人間個人でもありがちですが、事業においても同じということなのだと思います。
強味を認識するお手伝いをしたいと思っています。