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マンション標準管理規約の改定について思う

6月7日に改定されたマンション標準管理規約が公開されました。
主な改正内容は
1.高経年マンションの非居住化や所在等不明区分所有者の発生への対応
2.マンション管理情報の見える化の推進
3.社会情勢やライフスタイルの変化の対応
の3点です。

 まずは、一番わかりやすいと思われる3の社会情勢やライフスタイルの変化の対応について、コメントします。その主な内容は、EV用充電施設および宅配ボックス設置に関わる総会決議要件に関してと、前者に関してはその使用や費用負担に関わるルールの制定に関してです。総会の決議用件に関しては、もちろん工事に伴い大規模な共用部分の変更が伴う場合は、従来通りの特別決議が必要ですが、大規模な改修とならない場合は標準管理規約上、普通決議でも対応ができることになりました。

 EV充電設備のマンションでの導入は、やっとここまで来たかというのが正直なところです。小職がマンション管理会社に在籍していたのはおおよそ9年前から5年前で、経産省や東京都の補助金検討が始まった時期だったと思います。既存マンションでの、EV充電設備の導入の難しさは、区分所有者間の利害が一致しないことが挙げられます。日本におけるEV車の普及率は、足元の統計でも、新車販売台数で1%を超えたばかりであり、自動車保有のストック大半はガソリン車やハイブリッド車となります。ガソリン車やハイブリッド車の所有者である区分所有者は、EV設備を増設する費用負担に関して、環境に良いという総論はわかっていても、自分がその費用負担をするとなれば、当然否定的になります。車を持っていない区分所有者であればなおさらです。実際に導入にこぎつけたとしても、その稼働率は少数派のEVを保有する区分所有者(賃借人を含む)が独占的に使用することとなり、電気代や設備メンテナンスに関わるランニングコストに関しても、管理組合が行う共有部分の管理の費用としては説明がしにくく、管理も含めて受益者負担での対応となるのではないかと思います。受益者となるEV保有者による管理となると、マンション管理で言う一部共用部分の管理に即した管理を行うことを要求されます。導入費用は補助金によって持ち出しは少なくなっても、EV設備が機械である以上、メンテナンスコストは継続的に発生します。誰がそのコストを負担するかについては、今回の標準管理規約改正では、ルールを作りましょうとなっているだけで、回答が用意されているわけではないのです。利害関係の調整が難しい話です。
 実際、私がマンション管理に関わっていた当時、補助金を使ってのEV設備の導入の事例もありましたが、稼働率の低さから、すぐに稼働を休止した例もあったと記憶しています。ガソリン車からEV車の流れは世界的な流れでもあるので総論賛成でも、各論は、反対あるいは様子見というのが今の趨勢でないかと思います。

 宅配ボックスについては、同時期には、すでに共用部分工事として管理組合が設置するケースがかなりあったと記憶しています。こちらの方は、居住者全般に関わることで、再配達依頼とかの手間が省け、区分所有者にも直接的なメリットもあり、比較的意見集約がしやすい問題だと思います。

 2のマンションの管理情報の見える化の推進に関しては、総会において長期修繕計画上の積立予定額と修繕積立金の積立額の差異や、修繕積立金の変更予定の明示を行うことや、購入予定者へのそれらの情報提供、総会や理事会等で示された諸資料の保管、管理規約の変更内容を記載した冊子の作成努力義務などが求められることになりました。
 修繕積立金に関わる開示は、マンションの価値を維持するために必要な大規模修繕の計画実施の資金的な裏付けを区分所有者が総会にて確認し、資金の不足が生じる場合には、計画的な対応を図ろうとするものです。また購入予定者にとっても、修繕積立金の状況は購入に際しての重要な判断材料となりうることから、変更されたものと考えられます。
 後者の理事会・総会の資料の保管や規約改正をまとめた冊子の作成などは区分所有者が管理組合の運営状況や現規約を確認するために必要な措置と考えられます。

 今回の改定で、一番の肝となるのは1の高経年マンションの非居住化や所在等不明区分所有者の発生への対応のところだと思います。その中身は、組合員名簿の作成・更新の仕組みと所在等が判明しない区分所有者への対応に関わる標準管理規約上の手当であり、一見すると大事な問題とは思えないような改正ですが、後述するような背景があり、一番の肝と考えています。

 組合員名簿の作成・更新については、組合員に変更があった場合の届出義務や第三者への賃貸に供した場合の賃借人から届出をさせる義務や、理事長の名簿整備義務が新たに規約に盛り込まれました。実際のところ、規約上で組合員や理事長の義務と明記することだけで、どの程度の効果を上げるかは期待できない面がありますが、管理組合としては届出されないことで義務違反を問えることは、組合員への強制力ともなるので大事なことだと思う。
 所在等が判明しない区分所有者への対応では、所在を探すために支払われた費用は当該区分所有者に遡及できることが規約上明記されることは、後述するように意義のあることだと思う。これらの標準管理規約上の手当は、管理組合の役員をやられている方以外は、あまり重要度が高いものとは思われない方が多いかもしれませんが、日本全体で社会問題となっていることに関わるものなのです。

 その背景とは、近年様々な対応が取られている所有者不明土地問題の深刻化と高齢化社会・少子化問題が挙げられると言っても過言ではないと思います。所有者不明土地問題というのは、相続等の原因により不動産登記では所有者が判明せず、その結果として災害復興の支障をきたす、公共工事の用地買収や民間の土地取引が阻害される、管理放置によって国土の荒廃、環境・治安の悪化、災害発生の遠因となるといった問題を引き起こす結果を生じさせることになります。これらの一連の問題を所有者不明土地問題と称しています。統計によれは、日本全体で北海道本島に匹敵する土地の面積が、所有者不明土地とされています。

 この問題は、第二次大戦後の日本が経済成長により、先進国入りした半面、国家制度そのものを絶えず改善していくことを、怠ってきたことに由来しています。不動産については、民法(財産法)や不動産登記法が深くかかわるため、政府もここ数年で、民法・不動産登記法の改正を行い、土地基本法・国土調査法・農地法・森林法などの改正も行われました。民法改正では、共有制度(所有者不明土地(建物)管理制度、管理不全土地(建物)管理制度を含む)、相続制度(新しい相続財産管理制度を含む)などを中心とした見直しが図られました。不動産登記法では、相続登記の義務化、相続人申告制度の制定、住所変更登記の義務化、登記所による職権登記による不動産登記の情報更新の仕組みの新設などがされています。
 高齢化社会・少子化問題では、昨今その対策が政治課題となってはいるものの、出生比率は低下を続けています。

 不動産等の財産管理制度は、いずれも利害関係人の請求により裁判所が財産管理人を選任し、その財産管理人の元で当該不動産を保全・管理し、当該不動産の有効活用を図っていくことを目的としています。

 この所有者不明土地問題・高齢化社会少子化問題の延長線上にあるのがマンションの空室問題です。区分所有者が高齢化し、施設入居にマンションに住めなくなることは当然で、区分所有者が亡くなれば相続が発生します。子供のいない独居世帯が増えているため、区分所有者が亡くなった後、誰が相続人として区分所有者となるのか、管理組合から見るとなかなか窺い知ることができないわけです。その対策として、組合員に変更があった場合の届出義務などが規約に盛り込まれました。理事長に組合員名簿の整備義務は、区分所有者がわからない状態を放置しないための方法を管理組合として考えましょうということだと思います。 所在を探すために支払われた費用は、当該区分所有者に遡及できることを規約上で明記するというのは、区分所有者変更の届出がされないという管理規約義務違反をしたことで、費用請求が可能となるものです。ただ、この義務化等が浸透していくには、管理組合として、規約を改正し、そのうえで相応の広宣活動をしないと実効は上がっていかないと思います。

 マンションは堅固な建物でかつ、長期修繕計画によって補修工事も行われるため、空室になること自体が、近隣地域に影響を及ぼしにくい面があります。また、オートロックがあるマンションがあたり前となっている状況では、マンション内の状況は周辺地域から窺い知ることもできません。管理組合は、空室であることから派生する諸問題(管理費等滞納、ゴミ屋敷、修繕未対応等)を主体的に解決していかなければなりません。その解決のためには、今回のマンション管理規約改正の1高経年マンションの非居住化や所在等不明区分所有者の発生への対応は本当に重要な改正だと思います。管理組合てしては今回の改正を一早く、管理規約上の盛り込まれることをお勧めします。

 余談になりますが、相続人の特定というのは、本当に手間がかかるものです。直近で相続人が15名となる相続未登記の相続案件をやりましたが、相続人の特定だけで、延べ3か月を要しました。被相続人は結婚はされたが、子供がおらず、物件の所有形態が夫婦間の共有だったので、兄弟姉妹及び亡くなった配偶者の兄弟姉妹にまたがる相続でした。調査だけの仕事でしたので、そのあとの対応はわかりませんが、配偶者が亡くなられた時に、相続登記をちゃんとしておけば、そこまで相続人が広がることのなかった案件です。亡くなられた方に鞭打つわけではありませんが、「飛ぶ鳥後を濁した」と言うのが正直な感想です。不動産は都心部のものでしたので、相続人が全て売却の意思をしめしてくれれば、建物の取り壊し費用も出て、相続人はそれぞれの持ち分に応じて現金を手にすることが、出来ると思われますが、これが地方であれば様相が変わります。
 マンションは、一部のリゾートマンション等を除けば、都市部の物件なので、総体的には価値が維持されていると考えられますが、空室が増え、管理費等の滞納も多く、管理不全となっているマンションでは、価値は大幅に低下することも考えられます。古いリゾートマンションなどでは、お金を払って売却するとか、解体のために区分所有者が一時金での負担が必要となるなどのケースも理論的には考えられます。そんなことにならないために、足元の相続をしっかり対応されることをお勧めします。

 マンションは不動産としての価値を維持するために、区分所有者の利害関係を調整しながら、管理組合が相応の対応を行っていく必要が有ります。組合役員が持ち回りのところでは、自分の任期中は問題の先送りをしがちな面もあります。組合役員が固定化していると、思考が停止してしまう傾向があることも歪めません。まずは、今回の標準管理規約の改定を契機に管理の状況が今の時勢にに即したものか把握することをお勧めします。


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