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かつてのカリスマ社長から「助けてほしい」とメールが来た時の話。

スマホで始めるYouTube講師
かとうさやかです。

私がまだ動画の仕事を始める4〜5年ほど前、ある知り合いの社長から「助けてほしい」とメールが来たことがある。


カリスマ社長との出会い


その社長は名古屋に本社があり、私が名古屋に住んでいた駆け出し時代にお世話になった方だった。

顔が広くカリスマ性のある方で、交流会やイベントをよく催しており、私もよくその場に誘っていただき「絵描きのさやかちゃんです!みんなさやかちゃんに似顔絵描いてもらおうね!」と宣伝してくれた。

独立したばかりで右も左も分からない私にとってはとてもありがたく、実際そのおかげで仕事に繋がった案件もたくさんあった。

お礼にその社長の会社のちょっとしたイラストなどを無料で描いたりもしていた。


面倒見が良く、話もうまく、顔も広い。身なりも綺麗で、高級車に乗り、会社が順調であることが20代の私にも肌間で伝わってきた。

少人数の食事会などにも呼んでくださり、美味しい食事をご馳走してくれ、前向きな言葉で応援してくれる。

社長の周りには常に「弟子入りしたいです」という人がいて、イベントなどにはいわゆる「ボランティアスタッフ」がたくさんいた。「お金はいらないから社長の元で学びたい」という人がたくさんいたのだろう。

まさにカリスマ社長だった。


一本のメール



そんな私の駆け出し時代も終わり、名古屋から関東に戻ってきた頃、社長から冒頭のメールが来た。

「助けてほしい」

メールには「デザイン担当のスタッフが急に辞めてしまって困っています。イベントの告知用のバナーや広告のデザインをお願いできませんか」という内容。

頼っていただき嬉しい反面、ちょっと引っかかることがあった。

それは駆け出し時代にイラストを何点か描かせていただいたとき、社長のこだわりが強く完成間近に「やっぱりここのイラスト変えて」という要求が出たりして、「9割完成した今、その修正をすると丸ごとやり直しなのですが・・・」という無茶な要求がたまにあったこと。

もちろんそういった修正が出ないよう、ラフ画やデザインの叩き台ができた時点で確認をしていただき「これ以降の修正は原則的に不可となるので念入りな確認をお願いします」と伝えているにも関わらず。です。

もう一点、メールの最後に気になる文章。「もちろん仕事として依頼します。ただ、現状としてそちらに予算をあまりかけられないため、○○円ほどでお引き受けいただけないでしょうか」

相場よりもかなり安い値段での依頼。

普段なら絶対にお断りしている条件です。

迷った挙句電話にてお話ししたところ「どうしても困っている。明日にでも必要な画像を用意できない。もちろん断ってくれて構わない」など、本当に困っている様子が伝わってくる。

私も新人時代にお世話になった手前、恩返しをしたい気持ちもあったし、いくつか条件を出して引き受けることにしました。

「修正は一回まで」や、「複雑な画像処理はこの金額内ではできない」「納期は2週間以上は余裕を持ってほしい」など。

社長にはとても感謝され、まあお世話になったし私の無理のない範囲で恩返しをするかと、その時はやる気だったのです。


修正の嵐、最低賃金よりも安いギャラ


しかし蓋を開けてみると、想像のはるか上をいく過酷な制作状況が待っていました。急にデザイン担当が辞めたという事情があったとはいえ「明後日までに完成させてほしい」などという過酷な納期。どんなに早くても一週間、できれば2週間は制作期間くれって伝えたやん!

すごく言い方悪いかもしれませんが、私はその仕事がなくても仕事に困っていないのでそれなりに仕事を抱えており、その社長の依頼を最優先できるほどの余裕はありません。

しかし「明後日までにどうしても必要」と言われればやらない訳にはいかず、0時までには寝ると決めている自分の生活リズムを犠牲にして、深夜まで制作をしてなんとか仕上げ、「19時〜講座があるため修正は時間の関係で不可能です」と伝えているにも関わらず、修正依頼がくる。

「複雑な画像処理を含む編集はこの予算内では無理」と最初に伝えていたのに、画像処理を含む追加の依頼も普通にくる。

「追加料金をいただかないと無理です」と伝えても、「どうしてもこれがないとダメだからなんとか」と引かない。

しかも、本当に申し訳ないのだが、「ここに指定のフリー素材を入れてほしい」など、「それやるとすごいダサくなりますけど・・・」「デザインのテイストと合ってないんですけど・・・」というクリエイター目線では不要(というかデザインが崩れるからやりたくない)追加の要求も多い。

そしてその要素一つ入れることで、デザインのバランスが崩れて大幅な修正が発生することを、説明しても伝わらない。「え、画像なんてちゃちゃっと入れるだけじゃないの?」と。(これはスタッフ大変だろうなと心から思った)

最初に伝えた条件と違うため「私にも講座やその他の納期が決まった仕事があるので、物理的に制作時間が限られている。せめて修正は一回までにしてほしい」と伝えても、本人も申し訳なさそうに「本当にごめん!でもどうしてもこれは入れないとと思って」と譲らない。

なんで一手間加えてダサくしたがるんや!!!!!と何度も叫びたくなるのを我慢して、デザインの意味を説明しても意見は変わらない。

あまりにも最初の約束と違うので、「こんなこと言いたくありませんが、最初に私が提示した金額の半額以下で引き受けています。それは社長にお世話になったからという気持ちです。でも正直申し上げて、制作時間を時給換算すると最低賃金より安くなります。それなのにその他の講座や制作の仕事調整して、さらに睡眠時間を削ってこの仕事を優先することになっています。気持ちはとても力になりたいのですが、社長の要求にお答えするのは物理的に不可能です」と伝えたところ「本当にごめん!ギャラ1,000円上げるから!」と。

これで私の糸がきれ、直近の分だけ仕上げてあとは丁寧にお断りしました。


いつの間にか消えていたスタッフ


その時久しぶりに社長のFacebookを見て気がついたのは、当時右腕として社長を支えていた「後継者」と噂されていたスタッフがいなくなっていたこと。当時社長の周りに集まり、献身的にイベントを手伝っていたボランティアスタッフの方達も、もう社長の話をしていなかったこと。

人が去ったのかもしれないと、その時察した。

社長は確かに人を惹きつける魅力があった。

でも仕事を通じて少し距離が近くなると、周りは「社長の要求を叶える兵隊」になることとなる。きっと皆んな社長の役に立ちたかったけど、私たちには意志と個性があって、無償で思い通りに動く手足ではない。

社長は「さやかちゃんのデザインセンスが好きだ!」と何度も言ってくれたが、その割に仕事の依頼は「社長の思い通りのデザインをすること」で、私のセンスが生かされたと感じたことはなかった。

社長はいつも「人を大切にしろ」と言うが、私は仕事をしながら「このままだとクリエイターとして死ぬ」と思った。社長との仕事はクリエイター殺しそのものだった。


社長はとても魅力的な人だった。

面倒見も良かったし、いつも明るく前向きにみんなを励ましていた。
そんな周りに人が絶えない人だったから、「自分のために人が動くのは当たり前」と思っていたのかもしれない。いや、本当のところは私にもわからないけど。


「うまくいっている時ほど調子に乗るな」


「うまくいっている時ほど調子に乗るな」が社長の口癖だった。でもその「人を大切にすること」をいつも説いていた社長でさえ、一緒に仕事をしてみたら私は微塵も大切にされているように感じなかった。

うまくっている時ほど、順調な時ほど、本当に気をつけなければいけないと、この一件から強く思うようになった。


今もふと「私は恩知らずだったのだろうか」と頭をよぎることがある。でもその度に、もう一人の自分が「自分を犠牲にしてまでやることじゃないよ」と言ってくれる。

こういう仕事をしていると、「さやかさんが憧れです」とか「さやか先生に一生ついていきます!」と言っていただく機会がそれなりにある。

だからこそ、本当に調子に乗ってはいけないと思う。
ファンの方やサポートメンバーは手足ではない。


人は今の立場にあぐらをかいた瞬間から、足場が崩れて始めるのかもしれない。驕らず勘違いせず、地道に粛々と仕事を追うことの大切さを思い出す、カリスマ社長との出来事です。


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