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お弁当のからあげが消えた日

僕の会社では、お昼になると社内の一角が「弁当シアター」と化す。今日もいつものように、デスクでお弁当を開いた。その日のメインディッシュは、母が特製タレで漬け込んだ自慢のからあげ。期待に胸を膨らませ、割り箸を取ったその時だ。

弁当の中を見ると、なんとからあげが消えていた。いや、正確には「なかった」わけではなく、「消えた」のだ。

「え、からあげがない!」とつぶやいた僕の声に、隣の席の田中さんが反応した。彼は自称「社内探偵」で、どんな小さな謎も見逃さない。
「犯人はきっと社内にいるね。」
いやいや、からあげが消えるミステリーなんて、アガサ・クリスティーも泣いて喜ぶレベルじゃないか。でも、興味津々の同僚たちが集まってきて、勝手に推理大会が始まった。

まず最初に疑われたのは、隣のデスクの後藤さん。彼はいつも僕のお弁当に目をつけて「美味しそうだね」と言ってくる。だが、その時の彼の手には、大量のカレーライスが握られていた。どうやら犯人ではなさそうだ。

次に注目されたのは、昼休みのたびにうろうろしている清掃のおばちゃん。だが、彼女は「私が狙うのは残り物だけだよ」と潔白を主張。

結局、午後の業務が始まる頃、真相が明らかになった。僕の背後に控えていた「犯人」は、なんと部長の愛猫・ミミだった! 部長が自分の弁当を取りに来た際、こっそり連れてきた猫が僕の机に飛び乗り、からあげを掠め取っていったのだ。

「すまん、君のからあげ、美味しかったみたいで…」
謝る部長の手には、からあげの半分をくわえたミミが満足そうな顔をしていた。

これ以来、僕の弁当は「カギ付きタッパー」に格上げされ、部長の猫が来るたびに、みんなが弁当を死守するようになった。

「お弁当のからあげが消えた日」は、こうして会社の伝説になったのである。

会社生活は、時に予想外のドラマで彩られる。それをネタに笑い合えるのも、働く楽しみの一つかもしれない。


次回予告:部長が持ち込んだスイーツ戦争の勃発!

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