戦前、戦中、戦後と生き抜いたおばあちゃんの回顧録
人々よ。
戦前、戦中、戦後と生き抜いたおばあちゃんの回顧録。
昭和初期、山形の奥地から女中奉公にでた少女タキは赤い屋根のモダンな家と若く美しい奥様を心から慕う。
昭和初期というと、戦争に塗り潰された暗い時代と単一のイメージで語られがちだが、当時の東京における家庭や日常風景が描かれる。
当時の雑誌の場面が出てくるが、『戦死軍人の妻の涙の手記』とか、事変が始まったばかりの時には『未亡人読本』なんて付録が付いていたとか。
おばちゃんの大甥も一緒に語りに入るのだが、戦争観に関してのズレが、とても分かりやすい。
大甥が「戦争のこと」と言うが、大叔母タキに言わせると、正しくは「兵隊さんのこと」とか「海軍のこと」、「戦闘のこと」となるらしい。
戦地に行っていないものたちが、戦地の話をするのは、平和な時だ、と。
支那事変や朝鮮戦争やら、対岸の戦争時は三越やらで戦勝セールなんてのをやってたというから、まだまだ知らないことが多いと気付かされた。
結末が、戦争ものではあるが、何とも含みのある静かな一冊でした。