
二〇一六年四月 壱
scene 96
四月になって年度が改まり、社会人二年目がスタートした。生徒の姿のない学校で、俺は最若手教員として様々な雑用を言い渡されて校内をかけ回る。今年の新入生を受け入れる準備だ。俺の次に若手の山口さんもちょこまか動きまわっており、俺達は校内でよく行き会う。
「山口さんおつかれっす」
「石川さんもー」
中庭のベンチで一休みしている山口さんに声をかけ、横に座った。四月に入ったとはいえ、教員用の事務服の上から体操用のウィンドブレイカーを羽織っているが、山形はまだちょっと肌寒い。
「順調すか、カノジョ」
俺は歳相応の下品さで山口さんに尋ねる。
「まーねー、いい感じー」
山口さんは、今年の正月に行われた店長と櫻乃の結婚披露パーティで再会した、学院の女子バスケット部OGの那須という女性と交際を開始している。二人で出歩く姿は市内外で度々目撃されており、生徒や教員にも知れ渡っている。
「現役の頃はまったく気にも留めなかったけどねぇ。見た目が男みたいだったのよ、里奈って。でも実際すっげえオンナノコっぽいし。町田にいた頃の女がひでぇかったのを痛感するわマジ」
普通に彼女のファーストネームが出てくるのだから、それはそれはいい感じなのだろう。以前の彼女がどうひどかったのかは聞かないでおく。
「あぁ、石川さん聞いてる?今年の新入生のこと」
話が彼女のノロケになりそうだと気がついた山口さんは、唐突に話題を変えた。
「いや別に」
「今日の会議で議題になると思うよ、入学式の確認事項だから。ちょっと問題児が来るみたい」
「なんすか、國井みたいなのとか西川みたいなのとかが改めて入ってくるとか?」
彼らの例を持ち出すでもなく、学院の入学許可は最終的に理事長面接で決まる。どんな立派な推薦状があっても、面接で跳ねられることもあるのだというし、周辺のある中学校でずっとトップだった生徒の推薦を蹴った例も聞かせてもらったことがある。
「ああいうのだったらむしろ楽だけどね」
元ヤンで不良男子の扱いが得意な山口さんが苦笑した。
「そっち系じゃなくて問題児って?引きこもりで対人恐怖とか」
実は学院にはそうした心の問題を抱える生徒が一定数いて、おもに県外から越境入学してくる。専門のカウンセラーを委託しており、三年かけて転地療養するようなコースなのだ。豪雪地帯から通学する生徒が冬の間入寮できるよう、学院には学生寮が用意されていたのだが、その施設を通年使って生活している。広く募集しているわけではないが毎年入学してくる枠なのだそうだ。
「ムリヤリあてはめたらそこ。まー、会議で理事長が言うだろうから俺からは言わないでおくわ」
山口さんは少し意地悪な顔になって笑った。
その日は午後から会議である。今年度の新入生や入学式に関する事務的連絡が管理部長から発信された。新入学生は昨年より二名多いという。担任が発表され、國井たちの学年を担当していた教員がだいたいスライドしているようだが、小川が一年三組を担任することになっている。俺のときと同じく、定年退職対応だろうか。
会議では俺と小川が末席に並んで座っている。小川は聞かれていないことを答える。
「昨年度東海林さんについて副担任はしてましたし、アニメ同好会の顧問はずっとやってましたので」
理事長が判断したのだから、なにか考えがあるのだろう。
「ひとつ、注意事項です」
管理部長がこう言い、理事長に目配せをする。理事長がそれに応えて立ち上がる。
「今年度入学生の中に、障害を有する生徒が二名います」
理事長は淡々と切りだすが、教員たちが少しざわつく。
「精神的な障害ですね、この二名は男女の双生児ですが」
ざわつきが治まり、理事長の言葉を待つ。
「いわゆる性同一障害です。双生児の男女、肉体と精神が入れ替わった状態とでも言うのかな」
教員たちが再びざわつく。つまり男装した女子と女装した男子の双子のきょうだい。
「男装女子。女装男子。うきゃきゃきゃきゃ」
小川が声を押し殺して笑っていた。小川の好きなBLというのがどういうジャンルのものかを雪江に教えられてしまっていたのだが、小川ならこういうのもきっと好きに違いない。
「小川さん、さすがに不謹慎でしょ」
俺はやんわりと小川をたしなめる。
「だってだってだってだって石川さん、男装女子ですよ」
小川の瞳に炎が見えた気がした。
「小川、二人は一年三組に入れるからよろしく頼む」
理事長がにやっと笑って言った。小川の瞳の炎が燃え盛り、眼からビームが放たれた。小川を担任に起用した理由がわかった。
「わわわわわかりました理事長」
「この後、彼らに関するレクチャーをするから残りなさい、小川。本人とご両親もみえるわ。あぁ、石川も付き合うように」
「私もですか?」
「軽音楽部に入部したいそうだ」
「はぁ、そうですか…」
なるほど、山口さんの言うとおり、國井と西川のほうがずっと扱いやすいはずだ。
scene 97
俺は小川のあとをついて、カウンセリングルームへ入った。学院には保健室は無く、市内でもっとも古く開業した医院に学校医を委託している。この医院は学院のある丘の上り口あたりに位置しているため、万一急病や怪我をした生徒が出れば、指導部の教員がここへ担ぎ込む段取りになっている。学校医とは別にカウンセラーとして市の郊外にある診療クリニックと契約しており、心に悩みを抱える生徒をケアしている。不定期なスケジュールで行われるためやってくる医師は決まっていないが、その中でも来校する頻度の高い医師が部屋で待っていた。
「理事長、興味深いケースです」
「中島先生、うちの生徒になる者をを研究対象にするのはやめてください」
そういえばこの医師は中島といった。四〇なかばということだが、甲高い声で早口で話し、常にテンションが高い。本当に医師なのだろうが、会うときは常にスーツとネクタイ姿である。カウンセリング相手に余計なプレッシャーを与えないように、医師然とした白衣を避けているのだと中島医師は言っていたが、最初話したときは、そのテンションの高さからして、どこかのセールスマンかと思ったほどだ。
「男女の二卵性双生児がそれぞれの性別に違和感を抱いている、これは遺伝的なものか生育環境によるのかはたまた心霊現象的なものなのか、非常に興味深い」
中島はA4で一〇数枚のレポートをめくりながら、大きな声で語った。理事長は若干辟易しながら、カウンセリング室に設置してある大型ディスプレイに資料を映し出した。
「プライバシー保護の観点から、資料は配布しません。中島先生も、それ返してください」
「大丈夫、内容すべて、一字一句正確に記憶しましたから」
中島医師が理事長にレポートを返却した。理事長は、中島先生の記憶能力のこと忘れてたと笑って受け取る。
「氏名は、三浦佳人と、三浦愛佳。神奈川県川崎市麻生区で、両親と暮らす。面接しましたが、ご両親は職場結婚だそうで、父親は電機大手企業の技術系の社員、母親その会社では経理だった。子供たちが性同一性障害であると気がついたのはもう幼児のころからで、いつか元に戻ると思ってたけど、ますます進行していくだけだと理解して、もうさじを投げて中学からは堂々と制服を取り替えて通学と」
理事長の説明を聴く小川の表情が活き活きとしているのが怖い。
「中学校からは、彼らの性同一性障害にかかわるいじめは無かったと報告がある。いい環境の中学だったんだろうけど、報告では、彼らの人間性が周囲のいじめを招かなかったと結論付けてるね」
「そんなにいい子なら、あっちで進学すればいいんじゃないっすか」
俺は沸きあがった疑問を口に出した。彼らの出身地は、JET BLACKの本拠地だった町田の隣町にあたる。
「いい子だからこそ、徐々に評判になってきたらしい。テレビが取材したがって、自宅周辺をうろつき始めた。ご両親は彼らが男女逆であるということを認めてただけで、それをことさら広めるつもりは毛頭無かった。当然自宅への取材もシャットアウト。だがネットとかでもどんどん広まっていったから、高校はどこか遠くへ行かせて避難させたいと思ったんだそうだ」
「それこそネット経由で、どこにいてもモロバレでしょうに」
小川が正論を言った。
「それでも山形あたりなら、テレビもしつこく追いかけてくるのをやめるんじゃないかと考えたそうだわ」
理事長がそう言ったとき、高梨管理部長がカウンセリングルームに入ってきた。
「理事長、三浦さんたちが到着なさいました」
「あぁわかった、行く」
理事長は校内では男性的な話し方をする。女装男子というやつか。いや違うか。
「皆、応接室へ」
高梨管理部長が俺たちを促し、中島医師もかばんを抱えて立ち上がった。
scene 98
三浦家の面々は応接室に通されていた。この学校で一番重厚なつくりのドアを開けると、ソファの傍らに夫妻とその子供たちが立っている。
「理事長、このたびは」
父親は入ってきた理事長に深々と頭を下げ始めるが、理事長がそれを押しとどめる。
「三浦さん、もう結構。どうぞお座りください」
理事長は冷淡にならないレベルの事務的さで、薄く微笑みながら三浦夫妻に着席を求める。夫妻が着席すると、理事長と管理部長が着席する。子供たちも含め、ほかの者はすべて立ったままである。
少し上からの目線で三浦夫妻を見ると、ごく普通のご夫婦、大手企業の社員ということだし、それなりに品がある。俺の実の父親よりだいぶ若いであろう三浦氏のほうが、実の父親より威厳があるように思える。
「さて、自己紹介してもらおうかしら」
理事長は二人の子供たちに微笑みかけて言った。二人は顔を見合わせる。目と表情だけで会話していた。短い会話が終わると、デニムにパーカー姿の男子から口を開いた。
「三浦ナルヨシです。よろしくお願いいたします」
黒々とした髪を長めのウルフカットで仕上げた、色白の美男子である。声が少し高めなのは仕方がないが、身長一七〇センチそこそこの細身な男の子である。
「三浦ケイト。よろしくです」
ミニスカートとパーカーの女の子がにっこり笑って頭を下げる。こちらは茶色がかったロングヘアで、やはり色白だ。背の高さもほぼ同じで、パーカーは二人おそろいである。少しだけ低めの声だが、女の子として違和感はあまり感じない。
「ケイト。笑うとこじゃねぇ」
「うっさいわねぇナルヨシ」
男の子が女の子の態度を戒めるように小さく言うと女の子も小さく返す。まぁかわいらしいといえばかわいらしい。
「なるほどねぇ、考えたものだ。愛佳をナルヨシと読ませると。佳人がケイト。Kateってことか」
理事長が櫻乃ばりの流暢な発音で言う。
「キャサリンが本名なのよねぇ」
「だからふざけんなって」
このコンビは、ケイトがボケでナルヨシがツッコミと見える。
「長男がヨシヒト、長女がアイカなんですけどね」
三浦父が苦笑を浮かべて話し出した。二人の子供はしおらしくなる。
「偶然なんですけど、妻も私も名前に佳の字が入ってまして。結婚して授かった子供は男女の双子だというし、この字を子供の名前に使いたかったんですよ」
「なるほどねぇ」
高梨管理部長が大げさに感心した。
「この子達は、私のおなかの中で心が入れ替わっちゃったんだと思ってます」
三浦母が静かに話し出した。
「だから、気にしません、外見のことは」
三浦父が続いて語る。
「えぇ、勘弁してほしいのが、興味本位にはやし立ててられることで」
「まぁ最初は話題にはなるでしょうね。でも、人のうわさも何とやらだわ。たしかに、うわさする人数が少なければ、忘れられるのも早いでしょう。田舎の利点だね」
当の子供二人は、自分たちのことを話されていることは気にもかけず、ただただつまらなそうに上と下を眺めている。
「ケイト、ナルヨシ」
理事長が二人に声をかける。二人はその声に反応してしゃんとした。
「この学校のルール。基本的に、教職員は生徒を名字の呼び捨てで呼びます。同姓がいてややこしい場合、名前を呼び捨て。さんもくんもつけません。あなたたちは、ケイトとナルヨシと呼びます。わかった?」
二人は理事長を見てぽかんとしている。
「返事をしなさい」
三浦父が厳かに言うと、二人はようやく気がついて頭を下げた。
「はい、わかりました」
「よろしくお願いいたします」
ご夫婦は子供たちを厳しくしつけたと見える。二人は大人びた口調で丁寧に礼を言った。
「なお私は、校内の者、生徒も教職員も含めて、すべて等しく名字で呼び捨てます。小川、石川」
「はい」
俺と小川は返事をシンクロさせた。
「小川がケイトとナルヨシの担任になります。二人は同じクラスにしますから。あと、石川は軽音楽部の顧問。部活は軽音楽部希望だったね」
「ハイ」
今度は二人が返事をユニゾンさせる。声質がほぼ同じでなかなかいい感じだ。
「三浦ケイト、ナルヨシ、よろしく頼みます」
小川が静かに言った。しかし、頬がゆるむのを必死でこらえており、顔が軽くひきつっている。嬉しくてたまらないのだろう。
「私が顧問をしているアニメ同好会にも是非」
小川はこらえきれずに笑みをこぼし、余計なことを言った。
「ケイト、ナルヨシ、軽音楽部は君たちを歓迎するよ。ちなみに私は、大学が町田だった。君らの家の近くといえば近くだろ」
「え~そーなんですかー、私、町田大好きだったの。新百合はなんかかっこつけすぎって感じでー」
ケイトはさっそくタメ口に近い口調になる。
「指導部には、生まれも育ちも町田の先生がいるぞ」
「マジっすか」
ナルヨシも少し緊張がほぐれたらしく、タメ口に近づく。
「あぁそうね、山口も付けましょう、ナルヨシとケイトのケアに。そしてこちらが本職のカウンセラー、中島先生」
理事長は最初笑って言い、真顔に戻って中島医師を紹介した。中島医師もぺこりと頭を下げる。
「いろいろとお世話をいただいて、ありがとうございます」
三浦夫妻は立ち上がって深々と頭を下げる。理事長がいいからいいからと夫妻を座らせる。
「石川先生は、町田の大学ですか」
三浦父がようやく表情を緩めて俺に話しかける。
「お察しのとおり、三流大学でして、お恥ずかしい」
「いやそう言う意味ではなく…たしかに隣町ですからね、ウチと町田は」
「奇遇ですわ、地縁のある方がお二人もおられるなんて」
三浦夫妻がフォローに回る。
「三浦さんは、もともとあのあたりのお生まれなの?」
理事長が世間話モードに入る。
「えぇ、代々柿生の農家ですよ。私が小学生のころ、爆発的に宅地化しましたけど、それまではここと大差ない風景でした」
三浦父が懐かしそうに遠くを見る目になる。
「奥様もお近くとか?」
「私は、代々東京で。下町ですけどね」
「向島とか」
俺は世間話モードに調子を合わせ、ミギの自宅がある町の名前を口走った。
「あら、よくご存知ね、向島の下町っこよ」
三浦母は訝りもせずにっこりと微笑んだ。
「え?いやすいません、大学の頃の友達が向島で、よく遊びに行ってたんです。東京の地名って、渋谷とか新宿とか有名どころを抜きにしたら、向島くらいしか知らないかもですよ」
「さて雑談はこのくらいにして、最後の雑談。すぐにわかる事なので先に言っておきます。この石川は私の義理の息子です」
三浦家一同が軽い驚きをもって俺を見た。
「センセ、お婿さんなのぉ?」
ケイトが目を丸くして俺に尋ねる。まったく、男装女子だという事前情報がなければ普通にかわいらしい女子生徒だ。
「佳人、おやめなさい、失礼な」
三浦母がケイトをたしなめる。ご両親は子供たちの名前は本来の読み方で呼ぶようだ。
「そういうことだよケイト。私の娘の旦那さんだ。しかし、学校では私の部下でしかない」
「さすがです理事長」
三浦父が感心している。ナルヨシはなんだかわかんね、と小さくつぶやく。
「さて、事務的な話に戻りましょう。住居の件ですけど」
理事長は少し母に戻っていたが、また理事長になって切り出した。
「はい、学院には公式の学生寮と学生専用アパートがあると聞いています。そこへ入居させていただきたいのですが」
三浦父も社会人に戻って受け答えをした。
「それがだね。部屋が埋まってしまった」
山形県でトップクラスの進学校は公立だが、私立では学院が偏差値トップクラスの一角を確保している。学院は歴史が古く、偏差値も高くて校風も自由闊達な私立高校なので、入学希望者は寒河江周辺だけでなく県内全エリアから集まる。全生徒のうち五パーセントほどは自宅からは通学できない。学院では、公式の学生寮のほか石川家の土地に学生専用の間取りのアパートを建て学生寮の補完としていた。
「そうですか、残念ですが仕方ありませんわ、このあと不動産屋へ行きましょう」
三浦母が子供たちを見上げて言った。
「そこでだ。ひとつ提案したいと思ってね」
理事長が笑顔になって語りかける。こういう顔をするときは、たいがい何かあるのだ。
「伺わせていただきましょう」
三浦父が理事長に向き直る。
「ケイトとナルヨシをウチに下宿させるってのはどうだろうか」
三浦家が無言で理事長を見つめた。というより、この部屋にいる者、俺も含めてすべてが理事長を凝視した。理事長はにこにこしている。
「この子達はいろいろとデリケートな部分があるからね。私もケアに参加したいと思う。幸いにして、我が家は空き部屋だらけだしねぇ」
理事長が俺のほうを見て笑う。たしかに、石川宗家の母屋が正確には何LDKに相当するのか数えたこともない。俺と雪江が使っている平屋の離れでさえ、部屋が六つある。母屋はこの平屋を三つ並べたくらいあり、それも一部二階建てである。
「うれしい限りですが、大丈夫なのですか、その、校内のうわさとか何とか」
三浦父が言いにくそうに、特別扱いが過ぎるのではないかと続けた。
「かなり前のことだけどね、粗暴で手が付けられなかった生徒を、自宅で何度も特別補習してあげた。さすがに生徒の自宅が近所だから下宿はさせなかったが、やはり近い距離で接することが大事なのだよ」
理事長がにっこり微笑んで三浦家を見やる。
「何より、学校での私しか知らない生徒なら、きっとケイトとナルヨシに同情するだろうな、あんな鬼みたいなババアと同居とかありえないって」
理事長は学校内では厳しいが、学校から一歩出ると、優しいお母さんに戻ってしまう。子供を学院に入学させてから学校内での理事長の顔を初めて知って、非常に驚く親が多いというのもうなずける。一八〇度変わってしまうのだから。
「理事長のお宅に下宿させていただけるなんて光栄ですわ」
三浦母が表情をきらきら輝かせて言う。三浦父は目をぱちぱちさせている。二人の子供たちはあっけにとられている。
「三浦さん、帰りの電車まで、まだ時間的に余裕があるでしょう。ちょっとウチを見に来なさい。高梨、山口を呼んで、ワゴンを運転させて、三浦さんたちをお連れして」
「わかりました、終わりしだいご自宅から直接お帰りいただくということで構いませんか」
高梨管理部長がそう答えて山口さんを校内放送で呼び出す。
「任せる。小川、石川、中島先生、私の車で一緒に」
理事長はてきぱきと指示し、部屋を出て行く。俺たちもそのあとを追った。
(「二〇一六年四月 弐」へ続く)