災害等発生時の介護事業・障害福祉事業の4つの役割
日ごろから事業にかかわる多様な業務を忙しく行っているかと思います
毎時間・毎日・毎週・毎月、平常時のルーチンとして繰り返して行う業務が多々あり、それらの業務ができていることで事業を安定して運営できているはずです
ところが、災害等で被害が生じる非常事態のときは、日ごろは考えもしなかった業務上の障害があちらこちらで発生し、満足に業務が行えない状況となります
特に、事業を直接支えるような ”重要業務” であれば、その業務が再開・継続できるかどうかが事業の復旧と継続のカギとなります
また、災害等発生時において、介護事業と障害福祉事業に求められる ”4つの役割” というものがありますので、そのための各種活動が重要業務とも言えます
今回は、災害等発生で被害が出ている場合の介護事業・障害福祉事業に求められる役割と事業を支える重要業務とはどのようなものがあるかについて解説します
■ 災害等発生時に期待される介護事業と障害福祉事業の4つの役割
介護事業と障害福祉事業は、それぞれに業態やサービス利用者の特性、細かな業務に異なるところがありますが、災害等の発生時(被害が出ている事態)において、社会から期待されるの役割は以下のように共通しています
このことは、厚生労働省の介護事業及び障害福祉サービス事業における業務継続ガイドラインにも示されています
参考:介護施設・事業所における自然災害発生時の事業継続ガイドライン
障害福祉サービス事業所等における自然災害発生時の業務継続ガイドライン
サービスの継続
入所・入居サービスは利用者に対して ”生活の場” を提供していることから、被災したとしてもサービスの提供を中断することはできないと考え、被災時に最低限のサービスを提供し続けられるよう、自力で検討や準備を進める
また、通所事業所や訪問事業所においても極力業務を継続できるよう努め、業務の縮小や事業所の閉鎖を余儀なくされる場合でも、利用者への影響を極力抑えるよう事前の検討を進める利用者の安全確保
サービス利用者は体⼒が弱い高齢者や障害者が主体となるため、災害等が発生した場合は深刻な⼈的被害が生じる危険性があるため ”利⽤者の安全を確保すること” が最大の役割であり、その対策が何よりも重要職員(従業員)の安全確保
災害等発生時や復旧において業務継続を図ることは、⻑時間勤務や精神的打撃など職員の労働環境が過酷にあることが懸念されるため、労働契約法第5 条(使⽤者の安全配慮義務)の観点からも、職員の過重労働やメンタルヘルス対応への適切な措置を講じることが使⽤者の責務となる地域への貢献
介護事業者や障害福祉事業者の社会福祉施設としての公共性を鑑みると、施設が無事であることを前提に、施設が持つ機能を活かして被災時に地域へ貢献することも重要な役割となる
以上のことから、事業の継続に必要となる重要業務とは、上記の4つの役割を基本として今ある事業で最も必要とする業務や活動がこれに該当することになります
■ 災害等発生時の重要業務を整理する
災害発生時、特に人や事業に被害が出るような自然災害にあっては、経験・体験や知識があっても、最初は慌てたり、困惑したりするものです
ですが、その直後からやるべきことが次々と現れてきますので、慌てたり・困惑しているのは本当に最初だけにしなければなりません
予測・予想する事態がどのようなもので、被害などの影響の度合いによっても変わってきますが、最速・最大限で行うことは ”人命の保護・救助” で、その後は二次災害を回避・防止ししつつ、初動の活動から事業の復旧・継続へと続きます
以下、規模の大きい地震災害を想定として、行うべき活動を順番に挙げてみます
これらは、ほんの一例であり、事業形態、提供するサービス、サービス利用者の特性、施設や設備、資器材などの備蓄などにより、やるべき業務の種類と量が異なってきます
発災直後
施設利用者や入所者、従業員の安全確保と状況確認
倒れそうなキャビネットから逃げる、机の下に隠れる、大声で指示を伝えるなど消火活動や防火処置などの実施
初期消火、ガスの元栓を閉める、電気のブレーカーを落とすなど避難経路の確保
火災の有無、危険物や薬品の飛散状況から経路を選択従業員による施設利用者や入所者の避難誘導
担架や車いすを活用するほか、従業員が背負って避難避難中・避難先での応急救護
ケガの処置、施設利用者や入所者の気を落ち着かせる活動
避難等の完了後
活動可能な従業員の業務割当て
可能であれば複数名ごとにグループ分けをし、それぞれに業務を割り当てる施設や設備の確認
二次・三次災害の発生要因の有無を含む非常用物品などの準備・搬出
BCPに示される物品の準備と搬出(避難先で使用する場合は移動させる)施設利用者や入所者の保護・手当て
気を落ち着かせる活動と雨風や暑さ寒さなどから守る活動
発災初日
緊急対策本部の開設
避難確保計画やBCPに示される緊急対策チームの編成と活動拠点の確保
事業主や事業所等の責任者が不在の場合は、チームリーダーを決定する通信手段の確保
電話不通時は、従業員による伝令通信による(被災状況と緊急度に応じて決心する)他の従業員の安否確認と参集
従業員自身も被災している可能性があるので、応じられる従業員を参集医療機関や協力関係にある事業所等との連絡
行政機関の社会福祉担当部署等への連絡
訪問系・通所系のサービス利用者の安否確認
発災から概ね3日間(72時間)
待機従業員の参集など人員の確保
地域の協力者やボランティア要員がいれば業務割当てを行う施設の応急復旧
二次・三次災害の防止、ガレキや飛散物の除去、使用可能な区画・部屋の確保施設利用者や入所者の移送
施設や設備が長期間、稼働できないと判断する場合、協力関係にある事業所等との連携による他施設等への移送と収容(逆に受け入れ側となる場合もある)確認した状況・情報の整理(毎日)
照明が確保できない場合は、日没前までに完了させる整理した状況・情報に基づく翌日の活動計画の策定
各業務グループのリーダー的な人を集めて策定し、その後、従業員全員に周知事業主や事業所管理者との連絡
引き続き不在の場合は、日々の活動状況などを報告行政機関との連絡と連携
日々の状況を伝え、必要な資器材や人手の確保について調整防犯措置
施設への放火、避難した先での個人物品や非常用資器材の盗難などを想定した対策の実施
発災から概ね4日目以降
BCPに基づく主要事業の再開に向けた準備
施設の応急修復、資器材の確保など従業員の勤務シフトの策定
被害復旧や主要事業の再開準備に必要な人員を確保しつつ、一時帰宅を希望する従業員の帰宅や勤務時間も考慮した勤務シフトを策定医療機関との連携によるメンタルヘルス・ストレスコントロール
施設利用者や入所、従業員の精神的ダメージを確認し、医師等の指示・助言に基づく処置の実施
勤務時間管理、業務分担の質と量などの調整による心身負担の軽減化
このように、4つの役割の期待に応ずるためには多くの業務・活動が伴います
また、時間の経過とともに状況や事業資産である人・物・金・情報が変化しますので、これらの変化にも対応しなければなりません
■ 4つの役割を果たす主要事業と重要業務は策定しておく
災害発生当初から行うべき業務や活動の一例を挙げましたが、所々に ”BCP” が登場してきます
仮にBCPと書かれた部分に ”その場で決める” と書き換えたらどうなるでしょう
緊急対策チームの編成と活動拠点を誰が、どのように決定すればいいのでしょうか
継続すべき主要事業の再開は、どの事業を主要事業とし、再開するための条件、準備のための要領をどのように決定して進めればいいでしょうか
さらに言えば、協力・連携する行政機関や他の事業所等とは、発災時に相手を決めるのでしょうか・・・など
つまり、重要事業とは何をいい、どのように活動すれば良いのかなどを事前に決めておくことで、迷ったり、無駄に労力を費やすることを避けることができます
もちろん、状況に応じて臨機応変に活動することにはなるのですが、”何のため、誰のため、どの方針で” という戦略があれば、大きく間違うことはないでしょう
この事前の決めごとを取りまとめたものが ”BCP(事業継続計画)” であり、その時・その場で頼りとなるマニュアル、ナビゲーションとなるものです
BCPに4つの役割を果たす主要事業、その主要事業を支える重要業務、それらに関する細かな実施要領やチェックリストなどが網羅されていれば、その時になって最初は慌てたり、困惑しても、直ぐに落ち着いて活動ができるようになります
”いざという時の神頼み” だけでは心細いですが、BCPがあれば少しは心強く前向きになれますよね
■ まとめ
介護事業と障害福祉事業には4つの役割が期待される
サービスの継続
利用者の安全確保
職員(従業員)の安全確保
地域への貢献
災害等発生時の重要業務を整理して、4つの役割を果たす主要事業と重要業務を策定しておく
BCPはいざという時の戦略、マニュアル、ナビゲーションとして機能するように作り上げる
介護事業と障害福祉事業への期待・ニーズは、利用者の生活に直接かかわる事業であるため、平常時だけでなく災害等の非常時も高く、非常時だからこそ、より一層高まるものと考えられます
”4つの役割”、よく考えれば、事態の有無にかかわらず、常に期待されていることを理解しておいてください
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