原発のある風景② 若狭半島
敦賀湾に突き出た若狭半島を立石(たていわ)岬目指して、県道141号を北上する。対岸に北陸電力敦賀火力発電所が見える。石炭を燃料に巨大な建物だ。この半島の先っぽには日本原子力発電敦賀原子力発電所の1号機、2号機、隣接して新型転換炉ふげん、高速増殖炉もんじゅ、さらに半島の反対側には関西電力の美浜原子力発電所がある。半島全体を核の傘で覆ったような、そんな感じだ。
しかしここにあるのは原発だけではない。多くの集落が点在し漁港がある。原発に囲まれながら人々は普通に暮らしている。観光地もあるし、海水浴場もあり、全国から大勢の人が訪れる。新型コロナウイルス感染拡大の折は、ほとんど訪れる人はいなかったのに……。
話を聞くと、住民のほとんどは原発の存在を気にしていないという。綺麗な道路、トンネル、立派な公民館などの施設は「お陰様」だという人もいる。家族や親戚、知人友人の中には関連施設や企業で働いている人もいる、原発のことはおいそれと口にできないのだ。それは原発を立地した地域ではほぼ同じ状況なのだ。「お陰様」とは言えるが、「不安」「心配」とは言い難いのだ。
それがこの国の原発政策、電力事業が生み出した実相なのだ。地元の人にも、訪れる人にも、3.11はこの半島ではあり得ない事実なのだ。忘れたい事実なのだ。