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ドングリ池法律事務所

沼にハマったリスさん一家

たっくさんのドングリを残して、お父さんが旅立ってしまいました。遺産を分配するため、お母さんと子供達五人…… 家族みんなで話し合いをすることになりました。

お母さんが、「あなた達の考えを順番に聞かせてね。」と言って、「タロウ、まず長男のお前からね。」と促したので、年の順に意見を出していくことになりました。

タロウは、「僕が一番よくお父さんのお手伝いをしたんだからね。」と主張して、一番多くもらおうとしました。長女のフッコは、「あたし達も、お父さんのお手伝いだって、お母さんのお手伝いだって、頑張ってきたのよ。だから、みんなおんなじ数にしたらいいんじゃないかしら。」という意見でした。次男のサブロウは、「そうだよね。」と彼女の言うことをウンウン聞いていたので、フッコに賛成するのかと思っていたら、「みんな、このまま取っておこうよ。」と提案したのでした。そして次女のヨッコは、「でもね、お母さんが一番、お父さんのことを支えてきたのよ。だから、お母さんが全部もらえばいいと思うわ。」と言ったのでした。

ゴロウはというと、自分の番になっても口をつぐんだまま、何か考え中といった様子です。

「あらあら、お前達、みんな意見がバラバラなのね。」

お母さんがそう言ったのを機に、話し合いは中断となってしまったのでした。

「家族みんなで話し合ったのですが、こんな感じだったんです。五人きょうだいで一番年下の僕は、どうしたらいいかわからなくなって……」

ゴロウは、ドングリ池法律事務所に相談に来てしまったわけなのですが、面談に出てきた弁護士さんが、「なるほど、なるほど……」と、話をよく聞いてくれたので、それだけでも安心できて喜んだのでした。そしてその弁護士さんは、「基本的な分け方は、法律で決まっているんですよ。どんな法律かといいますとね……」と、解りやすく説明していって、家族会議の成り行きも踏まえた上、どう分けるのがいいか、考えてくれたのでした。

「そういうことになるんですね! よくわかりました。」

「あなたは、このように分けることで納得が行きますか?」

「はい、僕はいいと思います。とてもすっきりしました。先生、ありがとうございました。」

「そうですか、よかった、よかった。他のみなさんも納得してくれるといいですね。そうそう、それで私の相談料はというと、ドングリ二十個でいいですからね。みなさんで仲良く分けっこが終わったら、二十個、ここに払いに来てくださいね。」

こうしてゴロウは、家に帰って家族に集まってもらうと、教わってきたことを説明しました。

「ドングリ池法律事務所の先生が言うにはね、法律で分け方が決まっているんだって。それでね、お父さんが残してくれたドングリの半分は、お母さんのものになって、それから残りの半分をきょうだい五人で分けることになるんだって。」

みんな、すんなり納得できて、さあ、作業開始です。まずドングリの山から半分を取り分けると、子供達も手伝って、お母さんの部屋へと運んでいきました。そしてそのあと、五人が分けっこしていきます。

一人ひとり、自分の部屋に片づけ終わったところで、ゴロウがおずおずと聞きました。

「ねえ、相談料は二十個でいいって言われてきたんだけど…… これは誰が払うことになるのかな?」

「お前が相談に行ったんだから、ゴロウ、お前が払っておけよ。」

こう素っ気なく言ったのは、タロウです。

「タロウお兄ちゃんたら、そんなの、かわいそうよ。ゴロウは、みんなのために行ってくれたんだから。」

ヨッコはそう言って、自分の部屋へと走っていきました。そして「はい、あたしの分、二個でいいかしらね。」と、持ってきたドングリをゴロウに渡すではありませんか。

そうか、そんな風にすればいいんだ…… とフッコとサブロウも、それぞれ自分の部屋へと小走りで向かっていき、ドングリを持って戻ってきました。

「あたしは長女だから、四個にするわね。ハイ、これ、あたしの分。」

「僕は五人兄弟の真ん中で、フッコお姉ちゃんとヨッコの間だからね、三個でいいかな?」

これを目にしたお母さんは、「あらあら、私は幾つあげればいいのかしらね?」と呟きながら、子供達の顔を順繰りに見回しました。

さてさてタロウはというと、今度は自分が相談に行ってくると言い出しました。

「みんな、ちょっと待ってて。相談料はどうしたらいいか、訊きに行ってくる。ドングリ池法律事務所に行けばいいんだよね。」

そう言い終えるなり、出かけていきました。

ゴロウは、三人から預かったドングリを、テーブルの上の一角に置いておくことにしました。あとは他の四人と同様、タロウの帰りを待っているほかありません。

「どういうふうに払えばいいか、教わってきたよ。」

家に帰り着くやいなや、タロウが話し始めました。

「二十個ってゴロウが言われてきた相談料はね、お母さんが半分の十個、残りをきょうだい五人で二個ずつ払ってくださいって。だから、僕がみんなの分を預かって、これから払いに行ってくるよ。」

お母さんも他のきょうだい四人も、「そうなの、わかった、わかった。」と言いながら、それぞれ行動に移りました。

お母さんとゴロウは、自分の部屋へと急ぎ足で向かっていって、ドングリを取ってきます。

「ハイ、これ。僕の分、二個。」

まず、ゴロウの分…… と受け取るそばから、タロウはテーブルの一端に置いていきます。

お母さんの場合は、何往復かすることになりました。

「ハイ、これで十個になったわよね。お母さんの分。」

続いてフッコ、サブロウ、ヨッコの三人が、ゴロウが置いておいたというテーブル上のひと纏まりから二個ずつ取って、タロウに渡していきます。

「ハイ、二個、あたしの分ね。」

「ハイ、これは僕の分、二個。」

「ハイ、これ、あたしの分ね。」

そうして残った三個のうち、フッコは二個、サブロウは一個、自分の部屋へと持っていきました。さっき、余分に差し出していたことになるわけですからね。

他の五人からの預かり分が揃ったところで、タロウも自分の負担分を部屋に取りにいきました。

さて、タロウがドングリを手にして戻ってきたのですが、なぜか彼は、三個持っています。その彼が、「えーと……」と、みんなを見回しながら言ったのでした。

「それでね、あと一個ずつ、預かっていかないといけないんだ。今日、僕が教えてもらってきた相談料は、『六個でいいですよ。』って言われてきたんだよ。」

これを聞いたお母さんも、他のきょうだい四人も、顔を見合わせてしまいました。タロウが言ったことは、六人全員に公平なようでいて、どこかが引っかかります。

なんかヘンだな、おかしいな。なんで? どうして……?

納得が行かないままだったのですが、各自、もう一個ずつ部屋から取ってきました。そしてタロウに渡すには渡したのですが、首をかしげたままです。どうして、こんなことになっちゃったのかな?

「初めから、みんな仲よく分ければよかったね。」

「そうだよね。」

「そうすればよかったんだよね。」

「そうだよ、そうだよ。」

「ホントにね。」

「本当にそうだったよ。」

タロウも、大きく頷きました。ようやく家族みんな、意見が一致したのでした。