オフィス10席亭・和希十に関するご報告

平素よりオフィス10の落語会に足をお運びくださり、厚く御礼申し上げます。

療養中であったオフィス10席亭・和希十(わきとおる)が、11月14日月曜日13時、永眠いたしました。享年73。和希十は私の父でもあります。昨年10月に食道静脈瘤破裂のため意識不明で倒れているところを私が発見し、一命を取り留めて以来、肝硬変やほかの合併症を患いつつも、懸命に生き、落語会を続けてきました。この1年間は入退院を繰り返す日々で、先月末より再び入院し、本人も療養してまた戻ってくるつもりでいましたし、私もそれを願ってきましたが、叶いませんでした。

当日、そのまま父を看取ることになるとは思わないまま、病院へ向かいましたので、突然の別れを受け止めきれず、お知らせが遅くなってしまいました。その間も、落語会にきてくださった方々から、父を心配する言葉をたくさんかけていただき、本当にありがとうございます。

11月20日に家族・親族で葬儀を行い、父を見送りました。この1年はつらそうな表情が多かった父ですが、さいごはとても気持ちよさそうにぐっすりと眠っているような顔で、看護師さんも「こんな穏やかな表情の方は久しぶりに見ました」とお話ししていました。

オフィス10をはじめて6年半以上。来年春に7周年を迎えるところでした。週末になると、「朝10時の会」という当時異例の早朝の会からはじまり、夕方、ときにはその日の夜まで、一日中、様々な会を開催してきました。平日夜や、最近では平日昼も会を開催していました。父はもともと、芝居と、その後長い間、映画の仕事をしていましたので、映画上映の方法に着想を得たようです。小三治師匠の映画など、映画上映の企画も時々していたのは、もとの仕事の影響です。

もっとたくさんの方々に落語、講談、浪曲の楽しさを知ってほしいとの思いから、会員制度や割引制度など様々な試みも行ってきました。新型コロナが蔓延しはじめてからは、会を続けていくにあたっての困難も多くありましたが、何よりも父が言っていたのは、「こういうときだからこそ、笑いのある生活を」ということでした。そのため値下げ宣言やチケットの変更を可能とするなどして、「笑いの場」を大切にしてきました。

父が長い眠りにつき、茫然自失とする中で、それでも予定した落語会はめぐってきますので、予定通りにいくつかの会を開催しました。いつも父が座っている受付に座ってみると、様々な方々との他愛のない会話、その場限りの生の演芸に出会える喜び、来ている方々の笑い声、楽しそうな表情など、見えてくる風景は多幸感に包まれていました。父も突然だったので、死んだことに気づかず、会に遊びにきて一緒に笑っていたと思います。生前、父に「やり残したことは何かあるの?」と聞くと、「もうやっているから、何もない」という答えが返ってきました。ここが父にとっての「笑いの場」であり、人生でした。

父が倒れてからは、いずれ、私がこの会を引き継いでやっていくという話をしていましたが、あらためて、これまで父と育んできた「笑いの場」を大切にしていきたいと感じられました。未熟ですが、今後も懸命に会を盛り立てていき、おひとりおひとりとの縁を大切にしていきたいと考えております。会員制度や割引制度なども継続していきます。

これまでオフィス10の会にきてくださった、関係してくださった全ての方々に心より御礼申し上げます。父を見送ったいま、小さい頃に木登りが大好きだった私のために家では父が木のポーズをしてくれてその父の体をよじのぼっていたときの思い出から、親の離婚後に久しぶりに再会してからはご飯によく行くようになり父の携帯電話を見ると食事中の私の変な顔の写真ばかりが並んでいたこと、落語会をはじめてからは父の事務所でチラシの折り込みをしながら結局朝まで一緒に床で爆睡してしまったことまで、本当にひとつひとつの何気ない思い出も全てが愛しく感じられます。大切な人、大切な時間を胸に抱きつつ、日々を大切に生き、オフィス10の様々な会を発展させていきたいと思います。今後ともオフィス10をよろしくお願いいたします。

2022年11月24日
オフィス10 和希むつみ

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