#8-1 「立ち寄り観光地」から「滞在型観光地」へ
千葉家プロジェクトのこと
千葉家住宅は、自然と暮らしが有機的に結びついていた時代を象徴する建物です。重要文化財の対象は敷地内の建物群ですが、農家は本来、建物だけでなく、山林や田畑、川、牧草地など、それをとりまく環境やそこで営まれる生業が一体となって成り立っていました。
千葉家プロジェクトは、「重文千葉家の活用を考える会」が中心となり、千葉家住宅を含む周辺地域一帯を「本当の日本のふるさと」として再生し、末永く継承していくことを目指す活動です。集落に点在する曲り家やマンサードを修復して地域産の建築を継承することや、帰化植物が優占する植生を在来植物中心の植生に変えていくこと、農薬や化学肥料を使わない農地を増やし、川をきれいにしていくこと、伝統的な料理や保存食を作り、茅場を再生していくこと等々。新しいテクノロジーや知見、デザインを融合しながら、それぞれの探求と実践を続けていきたいと考えています。
現在、千葉家住宅の石垣の下には、平成9年に整備された「あやおりパーキング」があり、千葉家住宅を訪れる人々の駐車場として利用されてきました。ですが、この駐車場は、本来の景観を損ねているばかりではなく、立ち寄り観光地化を助長する要素になってしまっています。その駐車場を畑や牧草地に戻せないだろうかと考えています。
それに代わる駐車場は、岩手二日町駅付近に整備し、そこから環境負荷の少ない低速交通(馬車、トラクターバス、低速カート等)により、千葉家住宅にアプローチします。来訪者は、千葉家を育んだ農村景観を体験し、千葉家が最も美しく見える川の対岸で敷地に降り立ちます。そこから、フランス式の庭園を延々と歩いて宮殿に向かうように、田んぼの畦を歩き、畑の間を抜けながら千葉家にアプローチします。
この仕組みを導入することで、基点となる岩手二日町駅前や、集落内の建物を活用した宿泊施設、飲食店、商店などの出店を促し、経済効果を周辺地域に広げます。本当に価値の高い地域は、住む人にとっても、訪れる人にとっても豊かさをもたらすはずです。千葉家住宅の周辺から、農業の有機化、馬のいる風景、きちんと手入れされた山林、再生した日本の本来の植生などを実現し、生み出されるものすべてに高い価値を付加できる地域になることを目指しています。
集団で支えるこれからの200年の礎を築く
環境や文化を維持することのコストは、入場料や宿泊料の中に設定し、経費を除いた収益を環境に再投資します。個人では年々維持が難しくなっていく耕作放棄地や放棄山林、空き家などを買い取り、無農薬農業や環境負荷の少ない間伐、草地への転換、空き家の改修と活用などを想定しています。
環境や文化を維持することのコストは、入場料や宿泊料の中に設定し、経費を除いた収益を環境に再投資します。個人では年々維持が難しくなっていく耕作放棄地や放棄山林、空き家などを買い取り、無農薬農業や環境負荷の少ない間伐、草地への転換、空き家の改修と活用などを想定しています。
また地域や活動に共感してくれる仲間(ファン)が、第二のふるさととして何度も関わりを持てるよう、さまざまな人が参加できるワークショップを通した仕組みなども考えています。そうした取り組みを通して、集落の環境や文化を集団で継承していくシステムをつくることが、このプロジェクトの根幹です。千葉家オフキャンパスでは、まず地域が積み重ねてきた文化や環境をリサーチし記録することを通して、地域づくりのベースをつくろうと目論んでいます。 (文・安宅研太郎)