見出し画像

HEii press vol.01 「町家のくらし」

2013 Spring

 遠野で新しい活動がスタートしました。その名も「遠野オフキャンパス」。活動の第1弾は、ある一軒の町家調査。東京で活動する建築家や編集者、建築系の大学生とともに、遠野高校の学生が活動に参加した4日間を振り返ります。

vol.1 目次
三田屋の暮らし
Living in National Treasuresとは?

町家調査から遠野の魅力を掘り起こす

 遠野駅から降りて商店街を歩いていると、シャッターを下ろした店、人気のない通りが続きます。このような状況は、日本の多くの地方都市で起こり、日本全体の「問題」として新聞やテレビは紹介します。ところが、遠野の街を丁寧に見てみると、いくつもの特徴的な店構えをした建物に出会います。
 「三田屋」。この名前に聞き覚えのある人も多いと思います。遠野駅からほど近い、一日通りに面する元呉服店です。店仕舞いした今では、お祭りなどの地域行事に休憩所や事務所として開放されるだけ。ふだんの様子には、かつての賑わいは感じられません。じつはこの三田屋、遠野に現存する町家の中でも古くからのくらしの様子を今に残す貴重な建物なのです。
 遠野の街に隠れた魅力を、専門的な視点から引き出し、記録・研究していくことで、街全体の地域資源を掘り起こすことができるのではないか。そんなアイデアから、三田屋の建物の実測調査、聞き取り調査が行われました。

画像1

東京の大学生と遠野の高校生との協働作業

 2012年9月21~24日の4日間、三田屋に再び灯がともりました。調査に参加したのは、東京で活動する建築家や編集者、建築を学ぶ大学生、そして遠野高校の学生。さらには、遠野市役所の職員や近隣の住民の方たちです。総勢50名の一大プロジェクトになりました。
 調査は、空間実測チームとメディア制作チーム、二つのチームに分かれて行われました。空間実測チームは、大学生のアドバイスのもと、高校生がスケッチブックにフリーハンドで建物の図を描き、メディア制作チームは、プロの編集者とともに、調査を行う学生や近隣住民の方へのインタビュー。まるで職業体験かのように、学生たちの必死は表情が印象的でした。

未来の遠野のまちづくりに向けて

 この調査の企画者でもあり講師でもある建築家の安宅研太郎さんは、調査を終えた高校生たちに向けてこんな言葉を送りました。
 「僕たちのような専門家や大学生と協働することは、高校生のみんなにとって、仕事や大学に対するリアリティをつかみ、将来を思い描く道しるべのひとつになったと思います。今回の活動を通して、遠野の地域資源の可能性を知ってもらい、未来の遠野のあり方を考えることに役立ててもらえたらうれしいです」。
 空間実測チームのフリーハンドの図面は、その後、大学生が持ち帰り、パソコンできれいに図面化されるとのこと。それは今後の三田屋の活動に役立てたり、地域資源の記録として価値を持つものになるでしょう。こうした活動内容は、メディア制作チームが集めた街の人の声も合わせて、このフリーペーパーや冊子としてまとめ、読者のみなさんと共有していく予定です。

「遠野オフキャンパス」とは?

 遠野内外の参加者によって行われた三田屋の調査は、「遠野オフキャンパス」という活動の一環として行われました。
 「遠野オフキャンパス」とは、遠野固有の生業や環境を再生し、豊かな未来を築くためにさまざまな課題を解決する新しい手法です。たとえば、さまざまな分野の研究者や学生が遠野に滞在し、地域の人たちと共に調査や研究、実習を行います。そして、こうした活動を通して持続可能な新しい暮らしや本来あるべき環境のあり方をみんなで探り実践していこうというものです。
 活動の中心となるのは、農業生産法人ノース。附馬牛で「クイーンズメドウ・カントリーハウス(Queen’s Meadow Country House)」という遠野における馬を中心とした生活文化を再生するプロジェクトを展開しています。代表の造園家・田瀬理夫さんは、岩手県沿岸を含む北上高地独自の豊かな自然のなかの営みを取り戻そうという広いビジョン「Living in National Treasures」をかかげます。
 大きなビジョンを持ちながらも目に見える地道な活動を続けることで、遠野の街を再生していくこと。人が集まることで、物事が動き出し、町が息を吹き返す。そんな新しい遠野物語を紡ぎ出していこうとする活動が始まりました。

画像4

HEii pressについて
 HEii pressは、新しいまちづくりの情報を伝えるフリーペーパーです。「HEii」とは、かつての遠野から沿岸部までを含んだ地域をさす「閉伊(へい)」と「平易(へいい)」を合わせた造語。「内陸から沿岸部までを含めた広い視野に立って、当たり前のことを大切にする」そんな地域づくりを目指して発行しています。 
 編集:松井 真平 尾内 志帆
 記録:松井 真平
 ディレクション/デザイン:安宅研太郎


いいなと思ったら応援しよう!